コンサルタントの役割
経営学は万能薬ではない
経営学とは、研究者の方によると、企業間の業績値(売上・利益に限らず、数値化可能な離職率、新商品占有率など広く含まれる)の違いを客観的かつ科学的に解明する学問です。
手法としては、仮説を立て、多くのサンプルを集め、業績の違いに対して影響を及ぼしている因子が何かを統計的に検証するステップを踏みます。
その結果、仮説が証明されれば理論になるわけですが、この場合の証明とは、「ある要因が統計的に見て多少なりとも影響があったかどうか」であって、「どれだけ影響があったか」「全ての要因を解明できたか」は二の次なのです。
したがって、企業間の業績値の偏差(ばらつき)が100あったとすれば、経営学の理論で説明できるのは、せいぜい30前後に過ぎず、残りの7割程度については、「それぞれの企業の特殊要因」=「大した問題ではないこと」として無視されています。
この事実が何を意味しているかと言うと、経営について学校で学んだり、本を読んで勉強することは、もちろん無駄ではありませんが、私たちが実際に経営現場で直面する個別の問題解決のために検討すべき要因の3割かよく見積もっても4割程度についてのみ適用可能な理論が、経営学だということです。
つまり、実際の経営においては、経営学上の理論とかコンサルタントが声高に提唱する経験則で全てが簡単に解決することはありえず、当たり前のことですが、自分自身で考えなくては解決不可能なのです。
もちろん「自分で考える」ということは、まったくのゼロから考えるという意味ではなく、異分野の理論や知識として社会学や心理学が役に立つこともあるでしょうし、自分自身の経験や身近な先達の教えが解決の糸口を与えてくれることもあるでしょう。
ただ、いずれにしろ「この手の問題に関しては、これが原因なので、こうすればよい」と単純明快に教えてくれる書籍や、あるいはコンサルタントの提言があったとしても、それはせいぜい全体の三分の一についての話で、自助努力によって取り組むべき部分は甘めに見積もっても半分は残されているのです。
経営コンサルタントが果たすべき役割
世の中に経営学に関する本や実用的なビジネス書が、これだけ溢れているにも関わらず、経営コンサルタントという仕事が存在している理由は、この3割か4割の自明の理論や法則を、残りの6割から7割に結び付けて、個別の企業の特定の課題に対してカスタマイズする必要があるからです。
このことから、経営コンサルタントとして必要な資質が見えてきます。
第一に、最低限の条件になりますが、3割か4割の自明の理論や法則を身につけていることです。
そして、二つ目は、残りの6割から7割にあたる個別企業の固有状況を的確に把握したうえで、課題解決に向けての道筋をつけることです。
この資質の高さは、ファクト(事実)ベースでロジカル(論理的)な思考が出来るかどうかだけで決まるのではなく、コンサルタント自身の豊富な経験に裏打ちされた直感も必要になってきます。
したがって、ワイズエッジでは、カリキュラム的なお仕着せのコンサルティング・ステップに従って、どの企業のどんな課題に対しても「この方法で進めれば、万事一件落着」というアプローチは採用しません。
そもそも、そのような「魔法の杖」は存在しないために、コンサルタントの仕事の効率は良くなることはあっても、ほとんどの場合、その会社の特定の課題の本質的解決には結び付かないからです。
必ず最初の段階で、その企業に固有な要素は何なのかを明確にします。
そのうえで、課題解決に向けて、個々の企業独自の現実的なロードマップを練り上げます。
こうしたプロセスを経ながら、コンサルティングにおいて常に目的としていることは、コンサルタントが「正しい答え」を見つけ出すことではありません。
なぜなら、企業が自助努力で問題解決に当たるも、袋小路に入り込んでしまう原因のほとんどは、「間違った問い」に対して「正しい答え」を出していることにあるからです。
経営において、第一義的に大切なことは「正しい答え」探しではなく、「正しい問い」の設定です。「正しい問い」が明確になれば、ほとんどば場合、経営者自身の中にその答えはあるのです。