自社の強みはわかりづらい

旅行業界でも最近、「強み」という言葉を目にすることが多くなったが、この言葉の意味を的確に理解し、強みの発見に繋げ、行動に落とし込めている人や企業は少ない。

強みという言葉がいま注目される背景には、競争戦略の行き詰まりがある。一般的に競争優位に立つ方法には、トップ企業に向いたコストリーダーシップとそれ以外の企業が採るべき差別化と集中化の3つがあるが、市場拡大の時代、トップ企業は規模の利益を追求し、その他企業は顧客の認知価値を独自に高める差別化で成長を図ってきた。

差別化のために、先ずはUSP(ユニーク・セリング・プロポジション)の確立が求められたが、市場参加者の増加に伴い、属性による顧客分割(セグメント化)が行われ、対象を絞り込むポジショニングへと重点が移っていった。その後、市場の成長鈍化に伴い競争が激化すると、より優位なポジショニングを得るために集中化へ戦略が移行し、顧客セグメントの細分化が加速したが、最終的にこれ以上細分化しようがないワン・トゥ・ワンの世界にたどり着き、顧客価値による差別化が機能しなくなった。

そこで、新たな競争優位獲得のため、過去からの延長線上にないイノベーションが求められているのが現状だ。

イノベーションは自社の強みから生み出されるが、強みの発見段階で早々につまずく会社が多い。例えば、強みに関する調査の回答として、商品力、技術力、人材、資金力、ブランド力などの他、「特にない」という回答が上位にあることが多い。商品力、技術力、人材という回答も、強みを見誤っている典型なので、自社の強みが分からないか誤解している企業が圧倒的に多いことが分かる。

これほどまでに自社の強みは分かりづらい理由は、人に置き替えてみると分かるはずだ。自分の短所は語れても長所をあげることは難しい。自分で分からなければ他人に聞けばいいかというと、そうでもない。食べログのレビューを見ると、ダメなところは具体的で数多く書き込まれているが、良いところは抽象的で曖昧なことが多い。

結局、企業の強みとは、顧客の共感が得られる絶対に譲れないこだわりなのだが、自分ではこだわりと思っていることの中には、時代性や地域性に導かれた共通項が多く含まれるために、自分のこだわりを知ることは、高度に知的な消去法的作業を伴うのだ。

しかも、長期間に渡り減点主義的な評価制度に慣れ親しんだ人々にとって、自社の強みを発見し活かすという取り組みは難題であろう。しかし、「どの企業にも強みは必ずある」ことは間違いないので、強みを利益の源泉にシフトしていくことが避けては通れない道である以上、経営陣は強い信念のもと、徹底的に自らと向かい合うしかないのだ。

※ 本記事は、『週刊トラベルジャーナル』2019年8月12日号に寄稿した連載コラム「観光経営の未来シナリオ」の記事をベースに一部加筆修正をしたものです。