経営者にとって理想の社員像とは

経営者の方々と話をしているときに、「社長にとって、理想的な社員像とは?」という質問は、ある試金石になる問い掛けだと考えています。

 

このクエスチョンに対して、中には「元気で明るければ、それだけで十分です」と笑いながら答える社長がいる一方で、「理想を言うなら、経営者目線を持った社員が増えてくれたら、と思います」と答える社長も少なからず存在します。

 

社長に限らず、日本の会社では、上司や先輩から「経営者目線を持って仕事をしろ」と言われることがあります。

 

このように、日本の会社では社員が「経営者目線」を持つことは、とても重要なことと考えられています。

 

「経営者目線」を持たない意識が低い社員は、基本的にできない社員のレッテルを張られてしまいます。

 

と言うことは、トップから社員に至るまで「経営者目線」を持った人々が溢れかえていることが、エクセレント・カンパニーの条件なのでしょうか。

 

ある業績が極端に悪化した企業でのことです。

 

初期の現状把握タスクの一環として、トップから現場の社員に至るまで面談をしました。

 

このとき驚いたのは、上から下まで、揃って同じ問題、すなわち会社の命運について思い悩んでいたのです。

 

しかも、入社1年目の社員ですら、経営陣の能力や動向について、あたかも日々の仕事の一部であるかのように詳細に語るのでした。

 

会社の将来を案ずることは、日本の会社のスタンダードから見れば、愛社精神に富んだ良いことになりますが、私はむしろ問題があると判断しました。

 

日中仕事をしている時間帯でも、この種の議論があまりにも多すぎて、より建設的かつ生産的な仕事について検討をしたり遂行する時間が犠牲になっていたからです。

 

つまり、構成するメンバー全員が、「経営者目線」で考えている会社は、「船頭多くして船山へ上る」状況に陥りがちという意味で、危険ですらあるのです。

 

「経営者目線」とは具体的にどんな目線?

ところで、「経営者目線」と言いますが、具体的に経営者の目線とは、どういう見方をすることを意味するのでしょうか。

 

実は、この定義が極めて曖昧なまま発言をしている社長が多いのです。

 

規模の大小を問わず、多くの日本の会社において、トップとミドルとの間の仕事の分担や進め方について相互に意思疎通を図って、きちんとした棲み分けが確立出来ていません。

 

このために、あるトップは遠大な計画や空想におおくの時間を費やし、反対に、あるトップは日常の些事にまでいろいろ口出しをしてくる、という二極化が起きています。

 

したがって、「経営者目線を持て」と要求する場合の意味は、その言葉を使う人によって、多種多様な含意を持つことになります。

 

  • 目先のことに囚われずに、長い時間軸で考えろ
  • 自分の部門の損得だけではなく、他部門を含んだ全社の損得を考慮しろ
  • 会社を成長させることに、もっと意欲を持て
  • 会社の金だと思って無駄遣いせずに、自分の金だと思って大事に使え
  • 生活のために仕事をする意識ではなく、社会に貢献するという大義を持って仕事をしろ

 

例えば上記のような含意を持って「経営者目線を持て」と発言しているのでしょうが、一つだけハッキリ言うと、社長は社長しか出来ない仕事をしているから、そのポジションに就き相応の報酬を得ているのであって、自分と同じ目線で考えられる人が社内にたくさんいるならば、「あなたは不要だ」ということになります。

 

中期経営戦略が存在し全社に浸透しているか

企業のトップマネジメントは、自らの仕事とは何かについて、改めてよく考えた方がよい。

 

経営トップが何らかの戦略を立てて実行に移したとしても、その成否が明らかになるのは、明日や明後日ではありません。

 

短期的なスパンのことは、現場に判断を任せるほかない。細部に至るまで、トップにまで情報を上げて判断を仰がれたのでは、中枢神経は麻痺してしまいます。

 

一方、10年も20年も先のことになると、戦略というよりは、希望に近いものになります。

 

デルファイ法のような手法を精緻に実施してみたところで、予測精度が上がることは期待できません。

 

つまり、長期的な将来に対して明確な「意思」を持つ必要はありますが、「予測」は不可能だという認識を持つ必要があります。

 

こうした状況を踏まえると、トップマネジメントが企業の舵取りに力を発揮出来るスパンは、短期でも長期でもない、その中間に当たる中期経営戦略になるのです。

 

中期とは、大体3年を中心とした前後1,2年のことを指す。この期間こそ、戦略の良し悪しによって、業績が最も大きく左右される期間と言えます。

 

しかし、社員に対して漠然と「経営者目線を持て」と発破を掛けている社長がいる会社では、この中期経営戦略が不在という共通した特徴があります。

 

経営者としてやるべきことは、遠大な夢想をしながら日がな一日過ごすことでも、小姑よろしく逐一現場に指示を与えることでもなく、中期経営戦略を立案しその遂行に邁進することです。

 

それが実行されて初めて、全社員の各レベルことに明確な目標を与えることが可能になるのです。

 

そうなれば、精神論として「経営者目線を持て」という言葉は不要になり、自ずから全社員が経営者の考えるベクトルに束ねられた仕事をする状態になります。

 

経営者は、日々会社全体のことをあれこれ考えて、色々と心労を抱えています。

 

だから、立場が違うのは分かりつつも、あまりにものほほんと仕事をしている社員を見ると、「私がこんなに会社のことを考えて努力をしているのだから、社員も少しは自分の苦労の一つでも分かって欲しい」と思い、「経営者目線を持て」と言いたくなる気持ちは、分からなくもありません。

 

でも、その気持ちがあるなら、社員全員が経営者の考える将来に向けて動けるように、中期経営戦略を立てることで、全社で共有するイデアを明らかにすると同時に、各人が日々取り組むべきタスクを明示するという経営者しか出来ない仕事をするしかありません。

 

「経営者目線を持て」が口癖になっている社長は、自社に有効な中期経営戦略が存在し、かつ社員の日々の仕事に具体的に落とし込まれているかどうか、冷静になってよく考えてみてください。