なぜ「中小企業」という分類をするのか

昔から、「中小企業」という呼び方が気に入りません。

 

「大企業」に対して、「中小企業」を位置付けているだろうが、中小企業基本法を読んでも不思議なことに、「中企業」や「小企業」という用語は出てきません。

 

出てくるのは、「中小企業」と「小規模企業者」という用語です。

 

つまり「中小企業」という言葉は、「中」と「小」を一緒くたにしている何とも中途半端で粗雑な表現ですが、その意図が不明です。

 

今さらながらの話ですが、中小企業基本法の中で定められてる中小企業の定義は以下のとおりです。

 

キャプチャ

(画像出典:中小企業庁)

こんな分類基準を覚える必要はありませんが、要するに資本金又は従業員数の多少(=規模の大小)を基準して分類が行われているということです。

 

では、なぜ企業を規模の大小によって分類して、中小企業庁という独立した省庁を置いて、大企業とは異なった政策を実施する必要があると、政府は考えているのでしょうか。

 

あまり時間がなかったので、とことん調べ切れていませんが、企業をその規模によって分類することの合理的な説明が行われている文献が見当たりません。

 

とは言うものの、想像はつきます。

 

規模の大きな企業は強いので、独立独歩で経営を行うことが可能だが、規模の小さい企業は弱いので、政策的な支援策を講じてあげる必要がある。

 

確かに、よく言われるように、大企業の多くは上場しているために、株式市場からコストの安い資金を直接調達できるが、非上場の「中小企業」は金融機関からの間接金融に頼らざるを得ません。

 

だから、政府系金融機関による制度融資や保証協会による保証がという金融政策が、中小企業基本法で言うところの「経営の革新」「創業の促進」「創造的事業の促進」には不可欠であるという話なのでしょう。

 

でも、そういう考え方自体が時代遅れになりました。

 

大企業は強く、中小企業は弱いというステレオタイプな構図が、崩れているからです。

 

小さくても強く、たくましく、存在価値のある企業はたくさんある一方で、図体ばかり大きくても、腐敗し脆弱で、生き残る強さも、存在価値もないような企業はいくらでもあります。

 

そろそろ、規模の大小で強さや価値やブランドを判断するのは止める時期が来たと考えるべきです。

 

外形的な規模の大きさよりも重要な数値

経営をしていくために、目標となる数字が必要なのは否定できません。

 

そのために、いままで最も分かりやすかった数字が、売上、従業員数、資本金額だったのです。

 

でもこれからは、どうせ数値をチェックするのなら、別の指標を採用することを勧めます。

 

それは、以下の4つの指標です。

 

  1. 一人当たりの付加価値額(≒粗利額)
  2. 労働分配率
  3. 一人当たりの経常利益額
  4. ROA(総資本経常利益率)

 

一人当たりの付加価値額は、非上場企業の平均で約1,000万円、上場企業の平均で約1,500万円です。

 

売上30億円、社員数50名、粗利額5億円で、非上場企業の平均値1,000万円になりますが、粗利率17%は必要になります。

 

業種によって粗利率段階のパーセンテージは異なるので、押し並べて言うことはできませんが、非上場企業の平均値すら到達していない会社が多いのも事実です。

 

一方で、弊社の関与先の場合、上場企業の平均値もはるかに超えて、2,000万円台に到達している企業もいくつかあります。

 

労働分配率は、先ほどの付加価値額に対して、人件費にどれだけ支出したかを表す指標です。

 

一般的には、役員報酬と社員給料を合算して60%上限だとされています。

 

しかし、中小企業の場合、社長を主とした役員報酬と社員給料を一緒に考えるのは実情に適しません。

 

この2つを分けて管理する手法が世の中で確立されていませんが、ざっくりと役員報酬20% 社員給料30%という分配が目安と考えています。

 

社長や役員の適正な報酬額を決めることは、多くの経営者にとって悩みの種の一つですが、この基準に照らせば、自分の役員報酬が多いのか少ないのか見当がつくはずです。

 

先ほど例にあげた売上30億円、粗利額5億円の場合なら、社長を含めた役員報酬の上限を1億円に設定すれば、よいことになります。

 

社員の方の給料と賞与原資についても、同様となります。

 

付加価値額≒粗利額は、業種によるバラツキが大きいと言いましたが、経常利益額については、業種に関わらず同じ水準に収斂されてきます。

 

それは、売上高経常利益率を見れば分かります。

 

東証に上場している企業の売上高経常利益率の平均値は、おおよそ5%です。

 

したがって、5%を超えていれば、収益性が高い企業となります。

 

ただし、経常利益も一人当たりの金額に割り戻した方が、実感が湧きやすいので、お勧めします。

 

上場企業の一人当たりの経常利益額の平均値は、おおよそ200万円です。

 

この200万円という数値が多いのか少ないのかというと、世の中には、一人当たりの経常利益額が10万円という会社がザラにあります。

 

売上30億円、社員数60名、経常利益額が3,000万円という黒字企業の一人当たりの経常利益額は、50万円ですから、200万円というハードルは案外高いかもしれません。

 

ちなみに、日本で最も稼いでいる世界的企業のトヨタの一人当たりの経常利益額は、おおよそ700万円です。

 

これからは規模の大小の時代ではないので、「中小企業」であっても、一人当たりの経常利益額は最低200万円を目安とすることを勧めます。

 

実際のところ、弊社の関与先で、一人当たりの経常利益額がトヨタ並みの700万円に到達している会社があります。

 

ROA(総資本経常利益率)は、以下の数式で求められます。

 

総資本経常利益率=経常利益額÷総資産

 

何のことだかピンと来ない人が多い指標かもしれませんが、個人でお金を運用した場合の利回りだと考えれば、分かりやすいと思います。

 

会社にある全ての資産を使ってビジネスをして、利回りが何%だったかということです。

 

総資産は、貸借対照表の一番下に書かれている数字を見れば分かります。

 

この指標は、業種によるバラツキが出やすいと言われています。

 

弊社のような経営コンサルティング業は、大きな資産を持たずにビジネスを運営することができる代表格ですが、一方でホテル・旅館業のように施設や設備への先行投資額が大きい業種の場合は、年間の売上高の何倍もの総資産額になることがあります。

 

とは言うものの、結局お金を投資して利回りを得るという視点で考えれば、一定以上の利回りがなければ、わざわざ苦労して商売をする意味が薄れます。

 

一般的にROAは7%あればいいと言われていますが、これは上場企業の平均値が、これに近いためです。

 

しかし、利回りは運用資産が少ないほど高くなるというのが常識です。

 

ですから、何百億円の総資産の大企業が7%出しているのに、10億円や20億円の資産で7%程度では低いことになります。

 

したがって、総資産規模が少ない場合のROAは、最低20%必要です。

 

一人当たりの付加価値額、労働分配率、一人当たりの経常利益額については、損益計算書に関わる数字なので、努力をすれば短期で数値の改善が可能ですが、ROAについては貸借対照表に関わる数字なので、改善には相応の時間がかかります。

 

裏を返すと、損益計算書の数字が良くてもROAが低い場合は、過去にいろいろ問題があった可能性が高いことになります。

 

このように、一人当たりに割り戻した指標を使うと、売上高や従業員数や資本金額がはるかに大きな企業と、同じ土俵で比較をすることが可能になります。

 

そして、大企業の数値を上回ることが、十分に可能なのです。

 

経営者として、会社を大きくするという野心を持つことは否定しませんが、規模だけ大きい水っぽい企業になっても意味がありません。

 

先ずは、直近の決算書を引っ張り出して、自社の4つの指標がどうなっているのか、計算してみてはいかがでしょうか。

 

そして、目安となる数値から大きく離れていたなら、そこに近づけるために、将来に向けて何をする必要があるのかを考えることが大切です。

 

小手先の努力で済むことは少なく、かなり大きな変化をしないと、到底無理な数値であることに気付く場合もあるでしょう。

 

でも、それを考え実行するのが、経営です。