1 日本における開業率と廃業率の特徴

日本における開業率と廃業率の推移をながめてみると、ある特徴があります。

 

昭和61年以降、開業率が廃業率を下回っています。しかも開業率の絶対値が6%を超えることがありません。

 

参考までにアメリカ・イギリス・フランスにおける数値を紹介すると、「開業率が廃業率を上回っている」うえに、開業率は10~12%という数値を維持しています。

 

日本経済の活力をアップしていこうと考える時に、既存企業の成長だけに頼るのではなく、起業率を上げていく必要があるのですが、全く効果が出ていないことは結果を見れば明らかです。

 

2 起業家精神とはなにか?

なぜ開業率が上がらないのでしょうか?

 

国の政策の課題もあるかもしれませんが、そもそも起業する人の側に「起業家精神」が欠如しているという課題があるのではないでしょうか。

 

最近では、事業承継の場面においても「第二の起業」という言葉が使われることがありますが、そもそも「起業家精神」とはどんな精神のことをいうのかを考えてみましょう。

 

起業とは、一人の人間が仲間を募って会社を興すこと。これはひとつの共同体を立ち上げるということです。そして、共同体である以上必ずその集団を一つにまとめ上げる「共同幻想」が必要になります。

 

言い方を変えると、起業とは物語の始まりと同じことになります。100人の起業家がいれば、100通りの物語がある。ところが、現在の政府主導の起業キャンペーンにおいてはこの物語についての考え方が抜け落ちています。

 

政府からしてみれば、起業とは産業振興の切り札であるという国家的な物語がすべてであって、一人ひとりの起業家の物語など目に入らないらしい。

 

3 起業の目的は金か?

しかし、その責任は起業家サイドにもあると思います。投資家サイドが考えているような評価ポイントを軸に画一的に構成されたビジネスプランしか描かない起業家が増えているからです。

 

なぜ、そのような起業家が多いのでしょうか?

 

答は簡単です。それは、起業の目的が最終的には「金」に設定されているからです。つまり、起業家とその仲間で構成された会社の「共同幻想」は「金」であると考えているのです。

 

たしかに、資本主義のもと会社とは「金」を稼ぐことを第一の目的とした機関です。しかし、「金」は本質的にそれ自体が目標となるものではありません。「金」の価値はそれは使うことではじめて確認されるものであり、それ自体を積み上げたところで何も生み出しはしません。

 

つまり、「どうやって儲けるか」を考える前に、「何を与えたいのか?」という問いに答えられて、はじめて起業の物語はスタートするはずです。与えることなくしてその対価としての金を手にすることはできません。

 

その順序が成り立たないビジネスはもちろん世の中に存在するけれど、多くは「詐欺」か「ぼったくり」と呼ばれることになります。

 

4 起業家は投資家ではない

多くの起業家は、設立趣意書に書かれている壮大な夢を指さしながら、そんなこと「当たり前だ」「分かっている」と言うことでしょう。

 

でも、自分達が使う言葉づかいを振り返って見れば、知らない間に落とし穴にハマっていることに気付くはずです。

 

元気のよい起業の物語をスタートさせようとしている若者と話をすると、「ビジネスモデル」「レバレッジドモデル」「IPOモデル」「キャピタルゲイン」「ストックオプション」「競争優位」「戦略的バイアウト」「勝ち組」「スピード経営」「パテントファースト」「投資効率」「将来価値」「ブランド戦略」「MBA」「CEO」などの言葉が乱れ飛んでいることが多いのです。

 

起業家の会社に対する評価の視線が投資家に近付いていくことで、言葉づかいにも変化が現れたのです。

 

一昔前は、仲間で出し合った資本金や国民金融公庫の創業資金を元手に、細々と事業を開始することで起業の物語をなぞるというスタイルしかありませんでした。

 

しかし、今はベンチャー・キャピタルやエンジェルから直接投資を仰ぎ、投資家から見て魅力的なビジネスモデルが書ければ、大きな資金が調達可能な時代になりました。

 

この変化は起業家にとって幸いでしたが、同時に「何かを与えること」で事業からの収益を生むことで会社を成り立たせるという基本姿勢に変化をもたらす結果にもつながったのです。

 

ベンチャー・キャピタルが資金を提供するのは、あくまでもキャピタルゲイン狙いです。

 

当然早期に株式を公開出来るようなビジネスモデルが条件になります。

 

そして起業家サイドは、この投資家サイドの需要に応えるようにビジネスを構成してゆく傾向が大きくなったのではないでしょうか。

 

政府の経済政策担当者のプラン上や、シンクタンクの描いた教育プログラムの中や、MBAコースやMOTコースの中から生まれてくるのは起業家ではなく、むしろ無数の投資家候補者であったという事実がこれを証明しています。

 

投資家とは未来の株価から出発して、現在の投資を決めるわけですが、起業家は、絶えず「何を与えられるか」を今この瞬間瞬間で考え抜きながら、共同幻想により組織をまとめ、未来を切り拓く以外の方法を持っていないはずです。

 

5 経営者はストーリー・テラーであれ

起業家に限らず経営者は、あくまでも仕事を通じて、仕事に対する愛着、思想、方法論の上に自らの物語を綴り上げてゆくストーリー・テラーのはずです。

 

そして、その振る舞いこそが会社の仲間を一つにまとめ上げていく「共同幻想」を生み出してゆくことにつながるのです

 

開業率を高めるためには、ストーリー・テラーをいかに増やすかということに他なりません。

 

そして、起業した後に企業が市場において長い期間に渡って存在意義を発揮できるかどうかは、社長が創業時の想いを忘れずにストーリー・テラーであり続けるかどうかにかかっています。

 

世のコンサルタントの中には、投資家的な視点で事業を評価分析する人も少なからずいますが、私のコンサルタントとしてのこだわりは、ストーリー・テラーとしての経営者を増やしていくことに尽きます。