トップダウンによる意思決定のスタイルが不可欠

向学心の高い経営者は、リーダーシップ論にも興味を持って学んでいるはずです。

 

そういう方は、ダニエル・コールマンが提唱する6つのリーダーシップ・スタイルを知っていると思います。

  1. ビジョン型
  2. コーチ型
  3. 関係重視型
  4. 民主主義型
  5. 垂範型
  6. 命令指示型

 

そして、自分が今後どのタイプのリーダーを目指すべきかについて考えていることでしょう。

 

D・コールマンも6つのリーダーシップ・スタイルは排他的な関係ではなく、一人の人物が状況に応じて使い分けていることを指摘しているように、どれか一つのタイプに拘る必要はありません。

 

ただし、D・コールマンの6つのタイプとは別に、ワンマン社長であるという一点だけは、中小企業のトップとして外してはいけないスタイルだと考えています。

 

ワンマン社長という表現を使いましたが、専制君主や独裁者という意味ではないし、ましてや公私混同して会社を自分の財布と勘違いしているような無頼漢を意味してはいません。

 

企業という組織の中における意思決定の流れが、トップダウンであることが、これからの時代を生き抜いていく企業に必要だということを、ワンマン社長という言葉で表したのです。

 

ボトムアップによる意思決定プロセスが戦略不在を招く

日本的経営の特徴の一つとして「和をもって尊し」とする文化的背景から、集団的意思決定を良くも悪くも取り入れている会社が多いことは周知の事実です。

 

企業組織が「ムラ(村)」として機能している会社の場合、共同体としてはゲゼルシャフト(利益社会)ではなくゲマインシャフト(共同社会)的な性質を持っています。

 

したがって、ゲマインシャフトにおいては、ボトムアップ形式で現場が発案しアイデアを練り上げることを推奨することで、社員のモチベーションを維持しようとする誘惑に勝てません。

 

下手に上から指示を与えると、仮にその内容の妥当性が高かったとしても、実行段階で現場の抵抗にあって未完に終わる危険があるので、上から目線で業務命令を下すよりも自発的な努力によってボトムアップされてくる発案過程を好意的に捉える経営者が多いのです。

 

でも残念ながら、下から上にあげていく検討プロセスは、戦略的な構想を練ることには、まったく向いていません。

 

このボトムアップ・アプローチこそが、大小問わず日本企業に戦略が不在となる大きな原因となっています。

 

しかし、戦略が不在であろうが、それで企業が動いて事業の運営が出来ているのなら、むやみに否定する必要はないかもしれません。

 

現に名だたる大企業ですら、ボトムアップによる集団的意思決定の仕組みで成り立っていたのですから。

 

でも、全国250万社の企業の中で、次世代を躍動的に生き抜いていこうと考えるならば、ワンマン社長がいる会社に若干のアドバンテージがあります。

 

身を縮めて生き延びている中小企業の現状

これまで多くの中小企業は、全社的な戦略が無くボトムアップによる発案も乏しいまま、企業がゲマインシャフト的ムラ社会として運営(経営ではなく)されていました。

 

パッとしない景気が長引いているにも関わらず、過去8年間に渡って倒産件数が減少し続け、2015年は8,000件台にまで下がった事実を見ると、今後も同じスタイルを続けていけば良いように感じます。

 

しかし、全企業数の9割以上を占める中小企業において、新たなビジネスを起ち上げて軌道に乗ったために、存続に成功したケースはまれです。

 

ほとんどの場合は、人件費を中心とした経費の削減努力と中小企業金融安定化措置法による暫定的資金繰りの改善に救われて、従来のビジネスを汲々としながら続けているのが実態です。

 

つまり、経営とは「入りを増やし」「出を減らす」ための方策を立案し実行することなので、「出を減らす」ことには成功した中小企業が多いけれど、「入りを増やす」ことについては取り組みすら出来ていない会社が圧倒的に多いのです。

 

実際の中小企業経営者の声や2015年度3月期『中小企業の業績動向調査』(東京商工リサーチ)などの資料の双方から、節約とやり繰りで凌いでいる中小企業の実態が見えてきます。

 

そして、バブル景気の崩壊とリーマンショックという2つの大波を、守りを固めることで乗り切って来た多くの中小企業の経営者は、身を縮める経営に自信を持ち始めています。

 

その結果、「大儲けは出来ないけど、潰れない程度に会社が存続すれば御の字だ」と割り切って考えて、引き続きこのままのやり方で行こうと思っている社長もたくさんいます。

 

縮小安定路線は長続きしない

でも中小企業においては、給与総額が若干伸びていても、それ以上に給与所得者数が伸びているために(つまり、非正規社員の数を多くして業務を回している)、平均給与額は下げ基調が止まらないという状況一つをとって見ても、どこかにしわ寄せをした経営が、この先ずっと続けられると思っているとしたら、思考停止していると言われても仕方ありません。

 

この先も生き残り続ける中小企業は、「出を減らず」だけではなく、「入りを増やす」ことにも果敢に取り組んだところになるはずです。

 

ただしその方法は、営業力強化や水平展開の多角化などの拡大策に頼らず、顧客提供価値を高める新たなビジネスモデルを確立することで、適正な利潤を確保する以外にありません。

 

外部人材の活用に踏み出せる中小企業が生き残る

では、そのために何をしたら良いか?

 

大企業と比べて、平均的に人材のポテンシャルが不足している中小企業では、外部の専門家の活用が有力な選択肢になります。

 

長年戦略不在のまま運営を続けてきた中小企業内には、戦略を一から練り上げる能力は、残念ながらないからです。

 

誤解が無いように念を押すと、ここでいう「戦略」とは、金融機関に提出する「経営改善計画」や補助金欲しさに公的機関に提出する「経営革新計画」の中に書く作文レベルのものを指していません。

 

それでも、一国一城の主を自認し、やる気に溢れる勉強熱心な経営者が、「そんな大事なことをするのに、部外者には頼れない」「あくまでも自分だけでやる!」と考えるのは分からなくもありません。

 

しかし、実効性のある事業企画というものは、潜在能力が高くても策定が難しいのです。一定の経験と状況や内外環境を俯瞰する視野の広さが、絶対的に必要になります。

 

だから、外部の専門家を活用する意味が出てくるのです。

 

トップダウンによる意思決定文化が戦略導入の条件

ただし、仮に有能な専門家が支援したとしても、まず全社戦略から入り、ビジョンを描き、その後に新規ビジネス設計を位置付けるというプロセスを外しては、成功は望めません。

 

つまり、ボトムアップ方式にこだわって、社員によるプロジェクト・チームで戦略を考えようとか、せっかく入口として全社戦略に着手しても、社内に浸透させる段階で沈黙の抵抗にあうという環境では、間違いなく失敗します。

 

そうした事態を避け、経営に戦略を導入するためには、トップダウンによる意思決定文化が企業に根付いている必要があるのです。

 

私企業である以上、それそれの会社で社長が何をどう判断するかに対して自由なので強制はしません。

 

でも、外部の専門家に金を支払うのは気が進まないし、そう焦って結論を出す必要もないと暢気に考えて、毎度のごとくゆでガエルとなって衰退を早める事態だけは避けて欲しいと、かつて事業会社の経営者だった経験から思います。

 

特に二代目以降の後継経営者は、社員に好かれたい一心でボトムアップ・スタイルに安易に走る誘惑に流されないように気をつけてください。