限りある資金を有効に活用するための「持たない経営」

1990年代の後半に「持たない経営」という考え方が出てきて、一気に広まりました。

 

このときは、バブル景気が崩壊したのに伴って、不動産を不良資産として抱え込んで二進も三進もいかなくなった企業が続出したので、「土地本位の含み資産経営をやめよう」というニュアンスが強かった気がします。

 

しかし、その後も「持たない経営」は、業種を問わず経営における望ましい方向性として定着しています。

 

では、世の中で「持たない経営」という場合、具体的にどんな「なに」を持たない経営を指しているのでしょうか。

 

それは、「経営資源をなるべく持たない経営」ということになります。

 

経営資源をより具体的にすると、よく言われるようにヒト・モノ・カネということになりますが、さらに言い替えると、人件費・在庫・固定資産(設備・不動産)・借入金ということになります。

 

上場企業のように、直接金融で、低利かつ豊富な資金調達をする術を持たない中小企業の場合、使える資金には限りがあるため、なんでもかんでも資産として購入しようとすると、借入金に頼らざるを得なくなります。

 

裏を返すと、資金調達力が足かせになって、必要な経営資源の入手に制約がかかることがあるということも意味します。

 

だから、少ない資金の有効活用のために「持たない経営」を目指すべきだというのが、一つ目の理由です。

 

でも、誰のモノかは別にして、何にも持たずに事業をすることは出来ないので、自社で購入する代わりに、必要な固定資産をリースで調達するという方法が、持たない経営の第一歩になります。

 

ところが、リース契約というのは、毎月のリース料が経費処理でき、貸借対照表上の資産として計上されないという会計上の違いはありますが、実質的には資産を持っているのと大きな違いはありません。

 

むしろ、簿外に債務が隠れているために、別な意味で注意が必要になります。

 

いずれにしても、自社で購入しようがリースで調達しようが、そのモノを使うヒトは自社内に必要になります。

 

そこで、さらに一方進めて、その業務自体を切り離してして「モノ+ヒト」を外部へ委託してしまうことが、持たない経営を実現するために、より効果的な方法になります。

 

これが、いわゆるアウトソーシングです。

 

収益を生み出さない資産を保有しない「持たない経営」

リース活用とかアウトソーシングの導入というやり方は、どちらかというと資金の有効活用という意味を持っていました。

 

財務諸表の中ではキャッシュフロー計算書に関係してくる話です。

 

その他にも、経営の効率性を高めるという意味で「持たない経営」を促進するという考え方もあります。

 

そこで、経営の効率性とは何かについて考えるにあたり、企業の収益性に着目してみます。

 

企業の収益性を示す財務指標はいくつかありますが、営業利益率とか経常利益率などの損益計算書に出てくる指標は多くの人が知るところで、この数値を重要視している経営者もたくさんいます。

 

でも経営という活動の本質を考えると、総資産に対する利益率が、より重要な指標になると考えています。

 

なぜなら経営とは、企業が保有している全ての資産を使って、どれだけ高い利益を稼ぎ出せるかに努めるという側面を持っているからです。

 

例えば、次の2社のうち、どちらが収益性が高いと思いますか。

 

【A社】 売上高10億円 経常利益額5000万円

【B社】 売上高20億円 経常利益額8000万円

 

常識的な模範解答は、「A社は売上高経常利益率が5%でB社は4%だから、A社の方が売上高は少ないけど収益性が高い事業をしている」になります。

 

では、次にもう一つ情報を追加してみます。

 

【A社】 売上高10億円 経常利益額5000万円 総資産20億円

【B社】 売上高20億円 経常利益額8000万円 総資産5億円

 

総資産に対する経常利益率を計算すると、A社が2.5%で、B社が16%になります。

 

先ほど言ったように、ビジネスとは企業が保有している全ての資産を使って、どれだけ高い利益を出せるかに努める活動です。

 

この視点から見ると、B社の方が圧倒的に資産効率性が高い経営をしていることになります。

 

ギャンブルをして「10万円勝った」というとき、元金が1000万円だった場合と1万円だった場合では、全く意味合いが違うことにも通じています。

 

過去10年間以上、史上稀に見る低金利時代が続いているために、定期預金の金利が0.3%という状況です。

 

10億円を預け入れていても、年間の利息が300万円ということです。

 

こんな時代ですから、10億円の総資産を持っている会社が、年間にその1%の経常利益額1000万円しか出さなくても、銀行に預けておくよりも高い収益をあげたことになります。

 

でも1990年代は、普通預金で3%、定期預金で6%という高い金利水準でした。

 

こうなると、10億円の総資産で1000万円の経常利益額しか出せないなら、事業をしている意味はなく、定期預金に預け入れていた方が良かったことになります。

 

金利だけで、3000万円とか6000万円が稼げるわけですから。

 

だから、収益を生み出す資産に限って保有し、それ以外の資産を持たないようにする経営が望ましいとされるのです。

 

収益を生み出さない資産として真っ先にやり玉に挙げられるのが、豪華な社屋になります。

 

たしかに、何十億円かけて立派な自社ビルを建てても、経営者の自己満足になることはあっても、それで利益が倍増するという資産ではありません。

 

(お洒落な場所にハイセンスな本社ビルを建てたら、その仕事環境に憧れて、優秀な人材がたくさん集まって来て、目覚ましく業績アップするという可能性はゼロではありませんが・・・)

 

では、事業に供する不動産であれば、自社所有が望ましいのかというと、一筋縄ではいかないところがあります。

 

例えば、家電量販店におけるビックカメラとヨドバシカメラや、ビジネスホテルにおける東横インとアパホテルは、正反対の出店方針を採っていることで知られています。

 

ビックカメラと東横インは基本的に賃貸派です。そして、ヨドバシカメラとアパホテルは基本的に所有派です。

 

ここでは企業の詳細な比較を行いませんが、4社とも立派な業績をあげています。

 

つまり、「持たない経営」を目指すことが目的ではなく、それぞれの企業には、それ以前の経営理念やポリシーがあります。

 

その実現にあたって、新規出店のときに、賃貸で行くのか所有で行くのかという方法論のレベルで違いが出ているのです。

 

このことは、本当の意味で「持たない経営」を考えるための、大変意味のある切り口を与えてくれています。

 

いずれにしても、収益を生み出さない固定資産は、なるべく少なくすべきだという点は変わりません。

 

高級外車、高額なゴルフ会員権、持ち合いの株式、遊休地などです。

 

コアコンピタンスに集中する「持たない経営」

 

ここまでは、表現は悪いですが、細かいソロバン勘定という視点で「持たない経営」について取り上げて来ました。

 

税務や会計の専門家の方が「持たない経営」を語るときは、資金の有効活用と資産の効率性という観点から、その必要性を語ることが多いと思います。

 

財務的な側面を固めることも、「基本のキ」として必要なことは間違いありません。

 

それ以上に重要な着眼点は、耳タコな話かもしれませんが、変化スピードが増し、市場における競争が激しさを増しているという外部環境の変化です。

 

このような状況下で生き残っていくためには、自社の最も強い部分であるコアコンピタンスに、経営資源を集中的に投入していく必要があるのです。

 

コアコンピタンスとは、企業内部で培ったさまざまな能力のうち、競争のための手段として最も有効なものを指します。

 

ゲイリー・ハメルとプラハラッドが「顧客に対して、他社には真似のできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」と定義した概念です。

 

「持たない経営」という視点から言うと、コアコンピタンスは当然持ちますが、それ以外のバリューチェーンの機能であったり、業務機能は必ずしも自社内で持つ必要がないことになります。

 

コアコンピタンスとして認めたモノ以外は、すべて外部委託や外部調達をすればいいかどうかは別として、コアコンピタンスをしっかり見極めることは、とても大切なことです。

 

でも、コア・コンピタンスに自社のリソースを絞り込んだ経営をすることは、実務的には想像以上にハードルが高いのです。

 

その理由の一つ目は、コアコンピタンスを適切に認識することの難しさです。

 

ハメルとブラハラッドは、コアコンピタンスを見極める場合、模倣可能性(Imitability)、移動可能性(Transferability)、代替可能性(Substitutability)、希少性(Scarcity)、耐久性(Durability)の5つの点について考える必要がある、としています。

 

しかし一方で、どの要素が有効かは市場環境や競争環境によっても異なり、またいったん築いた競争優位も、市場環境の変化とともに陳腐化する恐れがあるため、継続的な投資やコア・コンピタンスの再定義、新たな能力の育成などの努力も欠かせない、という指摘もしています。

 

ただし、彼らが、コアコンピタンスの実例として、ブランド、技術開発力、物流ネットワーク、生産方式などをあげているのを見ると、コアコンピタンスは企業にとっての不動の軸ではなく、その時々で有効なビジネスモデルのレベルの話なのでしょう。

 

それに加えて、ハメルとブラハラッドが指摘している「コアコンピタンスの再定義、新たな能力の育成などの努力も欠かせない」という部分は、深い意味を含んでいます。

 

コアコンピタンスだけに絞り込んでしまった企業においては、仕事を通じて経験できる範囲は、バリュー・チェーンのごく一部ということになります。

 

そんな環境の中で、将来に向けてコアコンピタンスの再定義や人材を含めた新たな能力育成を、誰がどのようにしたら良いのか?

 

これは、相当大きな課題になります。

 

だから現実的には、世間で行われているコアコンピタンス経営が、単なるコスト削減のためのアウトソーシングをするだけで終わっていて、「顧客に対して、他社には真似のできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」を発揮しているとは言い難い状況なのです。

 

「持たない経営」と「競争しない経営」

結局のところ「持たない経営」とは、目新しそうに思えて、実は競争に勝つための戦略の一つなのです。

 

特にコアコンピタンス経営などは、差別化のための方法論の一つだと言い替えてもいいでしょう。

 

競争が厳しくなってきたから、あれもこれもやっていられない。ここは一点集中で他社との差別化を図って乗り切ろうという発想です。

 

競争戦略における差別化要因は、時間の経過とともに陳腐化するリスクがあります。だから、メルとブラハラッドはコアコンピタンスも再定義が必要だと言っているわけです。

 

そういう意味では、弊社が導入支援している動的安定化による競争しない企業づくりは、単なる「持たない経営」とは別ものになります。