「競争しない」は戦略論ではなく、企業づくりそのものである

ブルー・オーシャン戦略に代表される競争しない経営戦略が10年ほど前から注目されています。

 

しかし、特に日本においては根付いているとは言い難い状況です。

 

その理由は3つあります。

 

一つは、「ものづくり」信仰の強い日本では、経営革新という言葉で使われる革新(イノベーション)を技術革新と考える経営者が多いことです。

 

しかし、経営における革新とは、顧客に新たな価値を提供すること、あるいは新たな市場を創造することであり、技術はその方法の一つに過ぎません。

 

もう一つは、「競争しない」という方針が、商品・サービス開発やマーケティングの中で留まっていることがあげられます。

 

そのため実際に商品企画やサービス開発に取り組むと、顧客への価値提案設計は上手くいくことはあっても、いざ現場で日々の業務(オペレーション)に落とし込んでみると、利益創出や社員のモチベーションという点では、思惑通りにはいかないことが多いのです。

 

例えば、「当社の〇〇はオンリーワン商品なので、市場におけるシェア争いを目的とした販売方法はとりません」と高らかに宣言したみたとしましょう。

 

でも、依然として社内の人事の価値評価が、社員同志を競わせることで評点を付ける方法のままでは、大きな自己矛盾を抱えたままということになります。

 

三つ目は、「競争しない」ことを考えるときに、ブルー・オーシャン戦略とニッチ戦略を混同していることが、実務家だけに留まらず専門家にも多いことです。

 

この2つの戦略の違いが、『ブルーオーシャン戦略』の中で簡単明瞭に述べられています。

 

 

マーケティング分野では、精緻なセグメンテーションによってニッチ市場を巧に手中に収めることが重視されているが、ブルー・オーシャン戦略はこれと逆の方向を目指す。

 

買い手グループ間の大きな共通点に注目して市場の脱セグメンテーションを図り、できる限り大きな需要を取り込もうとするのだ。

 

 

つまり、ニッチ戦略においては既存の顧客セグメンテーションを前提として、その狭間に埋もれている特定の顧客の発見に努めますが、ブルー・オーシャン戦略においては既存の顧客グループ間の共通点を糸口にして新規需要を創出しようとするという違いがあることになります。

 

ニッチ戦略とブルー・オーシャン戦略のどちらが優れているかということではなく、少なくとも競争しないビジネスを目指すときに、この2つを混同していては合理的な思考を行うことが出来ません。

 

ここまでにあげた競争しない経営戦略の実現が絵に描いた餅に終わる3つの理由には、一つの共通点があります。

 

それは、「儲ける」という目的のための手段として、薄利多売と同列にある単なる一つのやり方として競争しない方針を捉えているという点です。

 

しかし、私が言うところの「競争しない」という方針は、外部環境の変化が生み出す一時的な局面打開のため、次々と現れては消える流行の方法論ではなく、内的に動機付けられた哲学(フィロソフィー)として根本的な経営における価値観にまだ昇華されて、初めて実践的な意味を持ってくるのです。

 

この軸足の位置を無視して、他社の成功事例を参考にして、アクション・マトリクスや戦略キャンパスを体裁良く描いたところで、方便の次元に留まっているに過ぎず、本当の意味で持続的な競争しない企業づくりが成功することはありません。

 

したがって、経営者が「競争しない」を標榜して経営を行うとは、特定の戦略を展開するということではなく、企業体そのものを再構築するという認識が必要になります。

 

これまで弊社で提唱して来た動的安定経営も、突き詰めると競争しな企業をつくりだすための具体的なメソッドと言えます。

 

強みを磨き上げた「極み」をビジネスと意思決定の中核に据え、予測ではなく実現したい意思を持った未来シナリオを描き、「極み」を活かした顧客提供価値を具体化し、ビジネスモデルとしての収益構造を設計する。そして、経営資源の機動的な移動を可能とする財務と組織両面に渡る企業体質の構築を行う。

 

これら全ての取り組みは、動的安定化が目的ではなく、動的安定化を手段とした「競争しない企業づくり」を目的としています。