1 優柔不断を性格だと考える危険

生活のいろいろな場面で、選択をすることが多いものです。

 

冬物のコートを買いにアパレルショップに出かけたとき、昼ご飯を食べようと中華料理店へ入ったとき、年末年始休みの旅行パンフレットを手にしているとき・・・

 

このような日常生活の場面で、即座に決断をすることができずに、「私は優柔不断だ」と思っている人の割合は5割を大きく超えるはずです。

 

だから、ほぼ全ての人が、決断力を身に付けたいと望んでいても不思議ではありません。

 

日常生活においてですら選択に窮することが多いのだから、より大きな課題に対する意思決定をする企業経営に携わる社長の多くが、決断力不足を嘆くのは当然です。

 

その証拠に、本屋の書棚を見ると「決断力」や「優柔不断」の言葉がタイトルに入れられた本がごまんとあります。

 

そうした本の何冊かを手にとって中味を読んでみると、決断力不足や優柔不断を性格特性だと論じているものが多いことに気付きます。

 

しかし皮肉なことに、決断力不足を性格論で捉えている限りは、自分の優柔不断を変えることが難しいことを認めていることになり、本を何冊読んでみたところで、決断力が身に付くことはありません。

 

とは言うものの、意思決定における優柔不断を考えるときに、性格論を完全に排除することはできないかもしれません。

 

例えばMBTIなどによって分類される心的傾向によって、意思決定のスピードやプロセスに差があることを実際に感じる場面があります。

 

でも意思決定における能力向上を図るという目的に照らせば、性格のようなコントロール不可能なことはとりあえず脇に置いて、自分でコントロール可能なことに集中する方が合理的なはずです。

 

そのために必要なことの一つが、意思決定には「最適化」と「満足化」という2つのタイプがあることを理解して、適切に使い分けることなのです。

 

2 重要度と緊急度で変わる意思決定プロセス

日々の仕事で意思決定をするときに、どんなプロセスをとるでしょうか。

 

あまり自分では意識をしていないかもしれませんが、常に同じプロセスを採用しているわけではなく、意思決定の重要性と緊急性に応じて、人はそのプロセスを使い分けています。

 

例えば、ネット通販でA4のコピー用紙が特売されていた場合、別のサイトではもっと安く売っているかもしれないけれど、これまでの購入価格と比較して十分お得と判断すれば購入の決定をするはずです。

 

一方で、数年に一度しか発生しない社有車の買い替えや事務所の移転となると話が変わります。

 

つまり支払う金額の大きさによって、重要度が変わってくることになります。

 

ただし重要度は金額の多寡だけではなく、ある人物を役員に登用するかどうか、ある社会貢献活動を支援するかどうかなど、自社の価値観に関わることの場合にも高くなります。

 

また、コピー用紙は在庫が無くなったので今すぐ買いたいと思っているので、何時間もかけて価格調査している暇はないという意味で、短時間での意思決定が求められています。

 

他方で、高額な商品を購入する場合には、今すぐ決める必要性が低いという意味で、時間をかけた意思決定をすることが可能です。

 

でも、真夏に事務所のエアコンが急に壊れてしまった場合などは、出費額が大きいにも関わらず、1日でも早く取り付けをしたいために短時間での意思決定が必要になります。

 

緊急度とは、金額の大きさに関わらず、状況によって変わってくるものなのです。

 

このように重要ではあるけれど緊急性の低い意思決定では、多くの情報を集め3つ以上の選択肢を設定して、時間をかけてじっくり選択することができます。

 

反対に、重要度とは関わりなく緊急性の高い意思決定においては、じっくり考えて選択している暇がありません。

 

意思決定の重要性や緊急性は、集める情報の量や意思決定にかける時間に密接に関係してくるのです。

 

3 意思決定における最適化ルールと満足化ルールの違い

具体的に言うと、私たちは選択肢を選ぶ視点として「最適化ルール」と「満足化ルール」の2つを使い分けています。

 

最適化ルールとは、文字通り、選択肢の中から最適なものを選ぶというものです。

 

これに対して、満足化ルールとは、最適という保証はなくても、満足できるレベルに達せれば、それを選ぶというものです。

 

例えば、希少な商品の仕入に成功したので、販売して一儲けする場合のことを考えてみます。

 

最適化ルールに従えば、最高値で購入する相手を探して売ることになります。儲けるという目的に対して、最高値での販売は最も理にかなっているからです。

 

これに対して、満足化ルールでは、一定の利ザヤ(仕入値の50%とか100%など)が出たら満足するので、その売却益を得られる相手が見つかったら即座に取引が成立することになります。

 

この2つの方法を比べると、どちらが簡単な意思決定と言えるでしょうか。

 

当然、満足化ルールを使う意思決定の方が簡単です。どこまで高値で売れるかの調査や予測は必要ないからです。

 

しかも、仕入の倍掛けで売りたいと考えていても、いざ売り出して反応が悪いとなったら、途中で満足水準を下げることが可能なので、柔軟性が高いという利点もあります。

 

一方、最適化ルールを真面目に適用しようとすると大変です。

 

どこまでの高値だったら実際に購入する相手がいるのか仮説を立てて、実際に検証のための調査を行う必要があります。

 

大量の情報を収集することになるでしょうが、本当にそんなことが出来るでしょうか。

 

4 意思決定の質を上げるために必要なこととは

最適化ルールと満足化ルールの違いは分かったとして、いつどういう場合に使い分けをすればよいのでしょうか。

 

そのためには、意思決定にかかるトータルなコストを考える必要があります。

 

最適化ルールを採用すると、選択肢の生成・発見をして評価を行う一連のプロセスにおいて、十分な思考時間と費用を投入する必要があります。

 

つまり、意思決定の負荷とコストが高くなります。

 

一方、満足化ルールを使う場合は、意思決定のトータル・コストを低く抑えることが可能です。

 

でも、最適化ルールを適用するよりも、意思決定の「質」は低くなる可能性があることを覚悟する必要があります。

 

したがって、満足化ルールを採用する場合は、最適な意思決定の結果を求めてはいけません。

 

そういう意味では、ある意思決定において最適化ルールを使うか、満足化ルールを使うか自体が一つの意思決定ということになります。

 

だからこそ、最適化ルールと満足化ルールの使い分けには、あらかじめ一定の基準を設けるなり、時間が許す場合は慎重な検討をすべき意思決定対象です。

 

しかし、私たちは一度に扱える情報の量に限りがあるため、複雑な選択肢を前にすると、一刻でも早く選択肢を絞り込みたいという欲求が働きます。

 

また、意思決定とは思考そのものなので、エネルギーを消費し疲労を感じる行動です。だから、なるべく思考の負荷を減らしたいという気持ちが人間に働きます。

 

そのため本来は最適化ルールを適用した方が、トータルのコストとリターンの衡量において有利な場合でも、安易に満足化ルールを適用してしまうことが多々あります。

 

その典型的な例が、自らの意思決定プロセスを放棄して、他人に答を尋ねるという行動です。

 

でも重要な問題について、安易に他人に答を求めた結果、いろいろな意見に出会い、かえって思考する量を増やしてしまうという悪循環に陥いるのです。

 

さらに言うと、決定ルール以前に、意思決定の対象を定義するのは、それほど優しいことではありません。これ自体が判断や意思決定の対象であり、想像力や創造性が求められます。

 

多くの人は、自らを優柔不断だと思い意思決定が出来ないことを嘆いていますが、スピーディーに意思決定が行われたとしても、採択された結果が優れたものかどうかは別問題だということです。

 

つまり、意思決定自体を評価するには、結果についてのフィードバックが不可欠ですが、現実の世界では、意思決定の結果自体が評価判断、つまり意思決定の対象なのです。

 

反省の必要を感じていても、適切な分析を行う術を持っていないので、反省自体がうまく出来ません。

 

そして、反省という行為も判断を伴う思考活動なので、想像するほど反省から意思決定の学習をすることは難しいのです。

 

だから、多くの修羅場をくぐり抜け、たくさん経験を積めば、意思決定能力は高まると信じている人がいますが、それは違います。

 

もし経験によって意思決定能力が向上するなら、40代以上のビジネスマンは全員意思決定の達人ということになります。

 

意思決定に対する十分な努力をせずに、結果だけで意思決定の是非を評価していると、いつまでたっても真の意思決定能力は向上しないし、不安や後悔の怖れから解放されません。

 

動的安定経営においては、意思決定クライテリアの確立を真っ先に行う理由は、ここにあります。

 

どのような戦略や方法論を取り入れようとも、意思決定の質自体を上げていかない限り、そうした手段が本来持っている真価を発揮させることが出来ないからです。

 

つまり、経営の質を上げるということは、意思決定の質を上げることに他ならないことになります。