1 戦略的な意思決定とオペレーショナルな意思決定

経営において意思決定をおこなう場合、大きくわけて2つのタイプの意思決定があります。

 

戦略的な意思決定とオペレーショナルな意思決定です。

 

戦略的な意思決定とは、将来の方向性について決めることです。

 

一方で、オペレーショナルな意思決定とは、すでに決定された道ををいかに上手に走り続けるかが問題となります。

 

だから、企業変革とか経営革新というものは、戦略的な意思決定によって、これまで採用してきた方向性を変えた後に、効率的かつスムーズにオペレーショナルな意思決定の状況へ導く必要があります。

 

したがって、まず針路をどこに定めるかという戦略的方向の転換に関する明確な決定が必要であり、「変革」「革新」という言葉だけ先行して、大騒ぎする性質のものではありません。

 

こう言われただけでは、戦略的な意思決定とオペレーショナルな意思決定の違いとは、単なる机上の理屈に過ぎないと感じられることでしょう。

 

しかし、この違いをきちんと理解している経営者は少なく、そのために適切な意思決定を行えていないことがおおいのです。

 

そこで、戦略的な意思決定とオペレーショナルな意思決定の違いを明らかにし、それがどのように意思決定の質をあげるかについて考えていきます。

 

2 プロセスに力点を置くか結果に力点を置くか

オペレーショナルな意思決定においては、いわゆるPlan・Do・Seeサイクルを回し、その結果が思わしくなければ、ただちにそれを修正する行動を起こし、軌道修正をします。

 

したがって、ここでは結果に力点を置き、それを見たうえで素早くフィードバックを行う能力が必要になります。

 

一方で、戦略的な意思決定において、事業の方向性などを決めるさいには「素早い軌道修正」というやり方は通用しません。

 

なぜなら「とりあえずやってみて、結果が思わしくなかったら修正する」という方法では、結果が出るまでの期間が長すぎ、修正を加えようにも手遅れになる場合がほとんどたからです。

 

「とりあえず」で実行したことで生じるマイナスの影響が大きすぎるのです。

 

だからこそ、戦略的意思決定の場面においては、結果をおもんばかる以前に意思決定の質そのものを高めることがきわめて重要なのです。

 

そういう意味で、オペレーショナルな意思決定が結果に力点を置いているのに対して、戦略的な意思決定は意思決定のプロセスに力点を置いていると言うことができます。

 

こうした2つのタイプにおける力点の置き方の違いにより、意思決定において、ほぼ正反対な能力が求められるので面倒です。

 

オペレーショナルな意思決定においては、徹底して細部にこだわることで、短期的な結果に注意をはらって成果をあげることが求められます。

 

そのためには、未来の不確実性は無視して、いま目の前にある事実と知識をもとに、とにかくやってみるという発想が必要です。

 

一方、戦略的な意思決定においては、細部にこだわるのではなく、方向性を決めるうえで大きな影響を及ぼす要素に絞って考えることが大切です。

 

さらに、長期的に見て発生するであろう不確実性にも十分な注意をはらう必要があります。

 

オペレーショナルな意思決定と違って、素早いフィードバックによる軌道修正ができない以上、重要な不確実性に目を向けその振れ幅を見積もったうえで、とるべき戦略の方向性を決めていくことになります。

 

このように2つの意思決定のタイプが存在しますが、経営においてどちらが重要かという見方は正しくありません。

 

両方が機能してはじめて、短期・長期の経営が回るからです。

 

むしろ重要なことは、直面している意思決定の場面において、戦略的な意思決定とオペレーショナルな意思決定のどちらが求められているのかを適切に見極めることです。

 

ただし残念ながら、おおくの経営者は、オペレーショナルな意思決定に圧倒的におおくの時間を割くことが必要とされているため、戦略的な意思決定の能力を育成する機会が非常に少ないのです。

 

3 戦略的意思決定の質を向上させるためには

前回のコラム(第51話:意思決定におけるフレーム設定の大切さ)において、フレーム設定を適切に行うことが、意思決定の質をあげるための第一歩だという話をしました。

 

このフレーム設定と今回取りあげている2つの意思決定タイプの関係はどうなっているかというと、どちらがが他方に従属するということではありません。

 

フレーム設定は意思決定の構造の問題であり、2つの意思決定のタイプは性質の問題ですから、どちらか一方を優先的に考えるべきといったルールはなく、常に両方を意識しておく必要があります。

 

たとえばタイプBの「どちらを選ぶべきか」というフレーム枠は、戦略的な意思決定においてもオペレーショナルな意思決定の場面でも出てきます。

 

つまり、意思決定の質をあげるためには、フレーム枠の適切な設定とタイプの見極めを同時に満たすことが重要なのです。

 

このことを理解したうえで、特に戦略的な意思決定の質をあげるためにどうしたらよいかについて考えていきます。

 

2つの意思決定タイプをきちんと使い分けていない場合、新規事業への進出結果がぱっとしないと「こんなことになるとは思わなかった。やっぱりやめておけばよかった」という後悔を愚痴ることになります。

 

そして周囲からは、「この結果の責任をだれがとるべきだろうか」という責任論が聞こえて来ます。

 

はたしてこういう考え方は正しいのでしょうか。

 

戦略的な意思決定においては、「意思決定の内容」と「その結果(アウトカム)」を分けて考えることが一番大切です。

 

意思決定の内容をどうするかは、私たちがコントロールできることです。

 

しかし、未来の不確実性を完全にコントロールすることが出来ない以上、アウトカムは結果として実際に起こることです。

 

もちろん私たちは常に望ましいアウトカムを得ることを求めますが、未来の不確実性が存在するかぎり、望ましくない結果になる可能性を受け入れなければなりません。

 

したがって、経営者としてとるべき道は、望ましい結果になる確率をできるだけ大きくするための方法をとること、あるいはチャンスとリスクを明確に意識したうえで、合理的かつ納得性の高い意思決定をする、ということです。

 

ところが先述したように意思決定の内容とアウトカムの違いを理解しないままに、結果の良し悪しだけで評価を行うと、賢いリスクテーキングこそ利益の源泉であるにもかかわらず、たいていの経営者は起業家精神を失い、リスクをとらなくなってしまいます。

 

一方、まぐれ当たり的に成功した人ややり方が、その結果のみで高い評価を受けると、今度は逆に「運がすべてなら努力のしようがない。それなら、とりあえず大風呂敷をひろげた方が得だ」という無責任なリスクテーキングが横行する恐れがあります。

 

意思決定の内容とその結果を区別して考えるためには、途中段階で明らかになる一つひとつのアウトカムに一喜一憂しないという姿勢を持つことです。いちど意思決定をしたら、意思決定の内容とアウトカムは違うという認識を徹底して、たとえ結果が思わしくなくても後悔しないことです。

 

意識を向けるべきところは、意思決定の内容なのですが、さらに掘り下げると、求めるべきは直接的な答えではなく、どのように意思決定をするかについての基準とプロセスに対してです。

 

このように意思決定における最初の決定は、意思決定自体に対する決定、ないしは意思決定の意思決定ともいえるものです。

 

これをメタ=上位のという言葉を使って、メタ意思決定と呼んでいます。

 

動的安定経営を導入することで、このメタ意思決定についての経営者と組織の能力が向上します。

 

メタ意思決定をきちんと行うことで、意思決定に対する無用な自信の無さと、対極にある自信過剰の両方が解消されることになります。