1 長寿企業が多い日本

日本には長い歴史をもった長寿企業がたくさんあることは、よく知られた事実です。

 

そこで、日本の長寿企業に関わる事実をいくつかあげてみます。

 

  1. 世界で一番古い企業は金剛組で578年創業である。
  2. 世界最古の企業トップ3はすべて日本企業である。
  3. 日本における創業200年超えの企業数は3146社で世界最多である。
  4. 創業100年以上の日本企業は2万7441社*にのぼる。(*2012年東京商工リサーチ発表)

 

こうした事実を知ると「日本が歴史と伝統がある国であることが、企業の寿命の長さの面からも証明された」と単純に喜ぶ人がおおい。これも事実です。

 

ここで、言葉に関わることに少し触れておきます。

 

歴史の長い企業なり商店を言い表す言葉としては、「老舗(しにせ)」がおおくの人にとってなじみ深いはずです。

 

しかし、「老舗」という言葉は定義がきわめて曖昧(あいまい)です。

 

京都では「百年しか歴史がへん御店(おたな)んことを老舗とは言おりません」となる一方で、マスメディアでは創業10年を過ぎたIT企業のことを「老舗」と書いています。

 

だから、ここでは「老舗」という言葉は使わず、「長寿企業」という表現を採用する次第です。

 

2 なぜ日本に長寿企業が多いのか

では、なぜ日本に長寿企業が多いのか?

 

当然そういう流れになるわけです。

 

たから、このテーマでたくさん本やレポートが出されています。

 

そうした文献が指し示す「日本に長寿企業が多い理由」を表すキーワードを列記してみます。

 

  • 不易流行
  • 先義後利
  • 三方よし
  • 身の丈経営
  • 家訓
  • ファミリー経営

 

なるほど、ひとつひとつ含意のおおさを感じさせる言葉です。いくつかピックアップしてみます。

 

不易流行:松尾芭蕉の俳句理念の一つですが、いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくことの大切さを表している。おおくの長寿企業の経営者が口にする言葉。

 

先義後利:大丸の業祖・下村彦右衛門は「先義而後利者栄」を事業の根本理念として定めました。この言葉は中国の儒学の祖の一人、荀子の栄辱編の中にある「義を先にして利を後にする者は栄える」から引用したものです。

 

三方よし:近江商人の伝統的精神。売り手・買い手・世間の三方が「よし」となることが商売の王道であるとの考え方。現代のWin-Win(売り手と買い手の二方よし)のさらに上をいく理念。

 

それぞれの言葉とそれが意味する内容を見る限り、素晴らしい理念です。

 

3 長寿企業の秘訣に対する疑問

しかし、ここで問題を提起します。

 

長寿企業が大切にしているキーワードに是非はありませんが、事柄(ことがら)の解き明かし方そのものは、ピットフォールにはまっているのではないでしょうか。

 

つまり学者やコンサルタントといった専門家サイドの問題です。

 

「長寿企業という過去の成功事例を分析すれば、そこにおおくの企業における未来の成功への秘訣がある」という出発点からしておかしい。

 

さらに長寿企業という対象の把握と理解のプロセスが、複数のバイアスによって歪められていることに気づいていません。

 

具体的には、つぎの3つのバイアスが存在すると考えられます。

 

  1. 相関関係と因果関係の混同
  2. 木を見て森を見ず
  3. ハロー効果

 

以下、各バイアスについて順番に説明を加えていきます。

 

1. 相関関係と因果関係の混同

人はものごとに因果関係を見出そうとする傾向があります。

 

だが残念ながら、それは単にある結果に対する原因を自分ででっち上げていることがほとんどなのです。

 

おおくの場合、偶然の結果である相関性に因果関係があると決めつけています。

 

聡明なる読者にとっては釈迦に説法でしょうが、XがYを引き起こすという因果関係を主張するためには、3つの条件を満たす必要があります。

 

1つめは、Yの前には必ずXが起きなければいけないということです。

 

2つめは、XとYはそれぞれ2つかそれ以上の側面があり、XとYは関数の関係でなければならないということです。

 

たとえば、「喫煙が肺癌を引き起こす」という主張では、喫煙をしない場合と比べて、喫煙がどのように肺癌発症の可能性に影響を与えるか示されなければなりません。

 

3つめは、XがYを引き起こすとき、XとYの両方を引き起こす要因Zがあってはならないということです。

 

たとえば、ジャンクフードを食べ過ぎることと肥満になることは互いに関係があるかもしれません。しかし、貧しい生活状況がジャンクフードと肥満の問題を引き起こす要因になっているかもしれないのです。

 

長寿企業について言えば、優れた家訓がありそれに従ってきたから長寿企業になったという、因果関係を語ることが多いのですが、単に相関関係が高いに過ぎないのではないかと考えます。

 

2. 木を見て森を見ず

人は複雑なシステムを観察するときに、ある間違いを犯しがちです。

 

それは、心理学者が還元主義的先入観と呼ぶ「実際によりも簡単であるかのように解釈してしまう傾向」に陥ることです。

 

つまり、人は複雑で一筋縄ではいかないシステムにおいて決断を迫られたとき、複雑な問題をよく考えずにシンプルに片づけてしまおうとするのです。

 

200年以上に渡って企業が生き延びているという現象を、すべての企業に共通する単純なシステムの存在によって説明することは、どう考えてもできないはずです。

 

長寿企業という現象は、「複雑適応系」として定義されるべきものです。

 

たとえば、さまざまな物質からなるグループが存在するとします。

 

この物質は、脳細胞でもいいし、巣の中のハチ、市場にいる投資家、または街に住む人々でも構いません。

 

それぞれの物質は、その環境の中で変化を予測し、個別に発展する自由意思を持っています。

 

つぎに、これらの物質は互いに関係性を持ち、相互作用を通じて構造をつくります。これを指して、科学では「創発」と呼んでいます。

 

最後に、創発する構造はより高いレベルのシステムとして作用し、そのシステム自体はそれを構成する物質とは異なった特質を持つのです。

 

蟻の群生を理解したいのなら、蟻に尋ねるべきではありません。彼らは何が起こっているか知らないのです。それよりも、巣全体を研究すべきです。

 

3. ハロー効果

コロンビア大学の心理学者エドワード・ゾーンダイクが命名した心理現象の一つである「ハロー効果」は、平均回帰性(参照:Wikipedia「平均への回帰」)と深い関係があり、経営に関する研究が陥りがちな致命的な過ちの原因になっています。

 

ハロー効果は、一般的な印象にもとづいて特定のことを結論づけてしまうような人間の傾向のことを指します。

 

長寿企業を見ると、その原因にいろいろな属性や性質を当てはめ、他の企業も成功するためにそのような属性を備えるべきだと推奨する傾向にあります。

 

たとえば、ある企業がよい業績をあげていると、マスメディアは「斬新な戦略、明確なビジョンを持つリーダー、意欲の高い社員、貫かれた顧客第一志向、革新的な企業文化・・・」と称賛します。

 

しかし、その企業の業績が悪化する(=平均に回帰する)と、傍観者たちは、各属性におけるパフォーマンスが悪化したからだと結論づけますが、現実にはそのようなことは何も起きていないことが多いのです。

 

たいていの場合、同じ経営陣が同じ戦略で同じ経営を行っているのですが、平均回帰性が業績を形成し、それがやがて企業にに対する認識に影響を与えるのです。

 

「長年に渡った存続し続けている企業だから、優れた特質を持っているに違いない」というハロー効果から、長寿企業への関心が高まっているという構造を見逃してはいけません。

 

実際のところ、長寿企業にとって不都合な事実は、意図的に切り捨てられています。

 

  • 世界最古の企業である金剛組は、実のところ2006年に倒産しており、現在の金剛組はスポンサー企業が出資した新設会社である。
  • 2014年の全倒産件数に占める業歴30年以上の企業の割合は30%以上もある。
  • 「日本酒」メーカーの倒産は、2002年から2011年の10年間で74社発生し、そのうち7割以上を業歴100年超の老舗企業が占めた。
  • ファミリービジネス大賞の2010年第3回受賞企業である株式会社林原が、その翌年の2011年に会社更生法の適用申請を行った。

 

このような長寿企業にとって「不都合な真実」は、ほかにもたくさんあります。

つまり、現状を冷静に見れば、長寿企業の方が倒産リスクが高い可能性があるのです。

 

長寿であるという事実をもって経営手腕を評価しがちですが、企業の業績において運が果たしている役割を軽んじてはいけません。

 

4 長寿企業が存在する本当の理由(仮説)

『千年、働いてきました-老舗企業大国ニッポン』や『千年企業の大逆転』といった本を執筆している野村進氏が、文藝春秋社のサイトで、このテーマについての私見を述べています。

 

参考リンク▼
本の話Web 知られざる日本の山林王たち 第1回 山林と日本文化の深いつながり

 

 

取材中、世界各国の老舗を調べていて、僕はある原則に気づいた。それは、植民地支配を含む侵略や内戦にみまわれた期間が長ければ長いほど、老舗は残らないという共通項である。

 

考えてみると、日本は歴史上一度も、長期にわたる侵略をこうむったこともなければ、国土全体を戦場として同じ民族どうしが血で血を洗う内戦をくりひろげたこともない。これは世界でも珍しく、とりわけ植民地支配や内戦に長らく苦しめられたアジアでは、まことに稀有な例である。老舗をめぐる朝鮮半島や中国、インドの現状は、それを物語って余りあろう(むろん、朝鮮半島と中国に、日本の侵略や植民地支配が影を落とした事実を認めたうえで言うのだが)。

 

さらに、農民出身の武士が権力の座につき、鋤(すき)や鍬(くわ)をつくった同じ手で刀を打ち、築城に汗を流した経緯から、手仕事やものづくりを尊ぶ気風が自然に広まったとする説もある。対照的に、ほかのアジアの国々では、自らの手を汚す仕事は、身分の低い者のなりわいとおとしめられがちであった。

 

また、武家にかぎらず商家でも家の存続を何よりも重んじ、そのためには養子の形で他人の血を受け入れることもまったくいとわなかったところが、あくまでも血族間での相続にこだわる他のアジアの国々とは大きく異なっていたと僕はみている。日本では「血族」ではなく「継続」が重んじられてきたと、語呂合わせではないけれど、そう断言できるのである。

 

こういったさまざまな要因が積み重なって、世界最大の老舗大国が誕生したのではなかろうか。

 

 

ノンフィクション作家として、実際に数多くの長寿企業の取材をした野村氏だから語ることができる、的を射た考え方ではないかと思います。

 

実際のところ、『百年続く企業の条件-老舗は変化を恐れない』(帝国データバンク:朝日新聞出版)によれば、創業以来のピンチとなった出来事・事件として、実に34.2%の長寿企業が第二次世界大戦をあげています。

 

自国の領土に被害が出る戦争が一度でも大ピンチだったのですから、それが頻繁に発生すれば、二度三度と乗り越えていくことは難しいことであり、企業の寿命が終わる可能性が高まることは容易に想像できます。

 

つまり、経営手法もさることながら、長い歴史の中で、第二次世界大戦まで一度も他国に侵略をされたり植民地支配を受けなかったという外部要因の方が、日本に長寿企業がたくさん存在する理由としては妥当性が高いのではないかという仮説を持つに至っています。

 

また、「血族」より「継続」を重んじて、養子の血を入れることをまったくいとわなかったという日本商家の伝統も、なぜか戦後においては子息・子女に継がせる方針が主流となっています。

 

その結果、無能な息子が身代を潰したり、血族にこだわるあまり後継者が不在のままという昨今クローズアップされている中小企業の経営課題を生んでいるのです。

 

長寿企業が災害や政権の交代などのさまざまな変化に対応してきた実績をもって、変化への対応力が高いと評することがありますが、ドックイヤーはたまたマウスイヤーと言われる現代において、かつての10倍、30倍のスピードで変化することが求められています。

 

はたして、その変化スピードを実現する組織基盤や財務基盤が周到に準備されているでしょうか。

 

さらには、お上が起こす変化を待つのではなく、自ら変化を起こしていく戦略思考を行う能力が備わっているでしょうか。

 

誤解がないように申し上げると、結果として長寿である企業を否定する意図はまったくありません。

 

ただし、長寿企業であるからこそ、この先100年の生存を考えるなら、若い企業以上に過去の延長線上に未来を描くのではなく、現在をゼロ地点として未来を描く必要があるということです。

 

でも、これこそ「言うは易く行うは難し」でしょう。

 

5 長寿企業のメリットとは

ここまでの話の流れだと、長寿企業は問題含みで危険であるという印象を持たれたはずです。

 

しかし、長寿企業には若い企業にはないメリットがあります。

 

企業再生に携わっていると、再生が首尾よく進む場合とそうでない場合があります。

 

その違いを生み出す理由はいくつかありますが、長寿企業の方が再生可能性は高い、というのが私の経験から言えることです。

 

なぜかというと、長寿企業は広義での経営資源(リソース)をたくさん持っていることがおおいからです。

 

突然話は変わりますが、ボディビルダーとして体を作るためには、3つの段階をきちんと踏む必要があるそうです。

 

1番目は、たくさん食べて贅肉と脂肪を身に付けるという段階です。つまり一度太る必要がある。

 

2番目は、筋トレによって、贅肉と脂肪を筋肉に変える。

 

3番目は、ダイエットによって脂肪を極限まで落として、筋肉のカットを際立たせる。

 

こういう3段階があるとのことです。

 

ここで注目すべきは、1番目の太る必要性があるという点です。

 

筋肉質のイイ体になりたからといって、いきなり筋トレしたりダイエットをしても筋肉量が増えないという話は、企業経営にもあるヒントを与えてくれます。

 

長寿企業は、「贅沢を厳に戒め、倹約実直を励行すべし」を旨とした家訓を持っているところが多く、身の丈経営を行うことでムダがないはずなのですが、実際のところは100年も商売をしてくれば、知らず知らずのうちに、いろいろなところに贅肉と脂肪が溜まっています。

 

だからこそ、真剣に筋トレやダイエットを行えば、最初からヒョロヒョロの場合と比べたら、はるかに彫りの深い彫像を作り出すことができます。

 

つまり、リバイバル戦略の点から言うと、資源の多さは選択肢が多さを担保し、戦略の自由度が高まることで、その結果成功の確率をあげることが可能になります。

 

また、長寿企業は一族の個人資産までを含めると豊かな資産背景を持っていることが多いのですが、これはリバイバルを成功させるためにおおいにプラス材料となります。

 

これは、長寿企業がなぜ潰れないかという理由にもつながっています。

 

「倒産」という状況は、それに至る原因はいろいろあっても、最終的に資金がショートした状態になります。

 

だから、黒字でも倒産はあり得るわけです。

 

裏を返せば、どんなに赤字でも資金がショートしなければ企業は倒産することはありません。

 

企業の業績に対しても平均回帰性が働くという立場で考えると、企業の業績はよいときもあるし逆にわるいときもあります。もっと単純化して黒字のときもあるし赤字のときもあると言い替えてもいいでしょう。

 

仮にいま赤字だったとしても、このわるい時期を乗り越えれば(もちろん居ながらにしては無理ですが)、つぎに黒字の時期が来るはずです。

 

でも、資金がなくなれば、つぎの黒字の時期を迎えることなく倒産することになります。

 

要するに、資金の多さは、戦略的待機時間を伸ばす効果があるのです。

 

長く事業を続けている企業は、たいていの場合、優良な土地や有価証券といった資産を相当量持っています。

 

つまり、いざというときには、それらを売却したり、担保に入れて金を借りたりという資金手当てを容易にすることができます。

 

2011年に会社更生法の適用申請をした、岡山の株式会社林原の場合で言うと、三代目の社長が戦後数年で買い漁った土地が約20万坪(約66万平米)もありました。

 

その後、地価が1000倍以上に高騰したために、バブル景気のころは、1兆円の資産を保有すると言われていました。

 

その資産的背景があったからこそ、四代目の林原健社長は「よそで手掛けていて儲かりますよということは一切やらない」「10年20年かかっても構わない。問題は時間ではない。出来上がったときにどれだけの価値をもたらすか」という強気の考え方で、トレハロースを筆頭とする独創的な商品開発を可能としてきました。

 

しかし、売上高200億円未満の企業で有利子負債が1500億円を超えている状態になっても、社長以下誰一人、損益状況はおろか資産状況すら正確に把握していない状況へつながり、最終的は倒産の憂き目にあったのです。

 

それもこれも、地価が下がったといても、まだ3000億円くらいの資産はあるだろうという淡い認識がもたらした結果です。

 

でも、資金があるということは、それくらい有利なことなのです。

 

本格的に事業を立て直すので、とりあえず1年間は社長の役員報酬はゼロでお願いしますと言われて、「それもやむなし」と個人資産を切り崩すことができる場合と、「それでは家族の生活が・・・」という場合では、おのずと取り組める内容と時間に大きな違いが出来てくることは、多言を要しないことだと思います。

 

だから、長寿企業のリバイバルは、その気になれば成功の確率が高いのです。

 

6 長寿企業のリバイバルに必要な3つのこと

私は、長寿企業こそ、崖っぷちに追い込まれる前に、再生ではなく再興(リバイバル)を積極的に推進するべきだと考えています。

 

企業が長期期間に渡って存続していることは、それ自体素晴らしいことです。

 

でも、100年、200年続いて来たことが、つぎの100年の生存を保証するわけではありません。

 

不易流行という考え方を大事にしている長寿企業は多いのですが、実際に話をしてみると、具体的になにを「不易」として、なにを「流行」とするかの切り分けが曖昧模糊(あいまいもこ)としていることが多いのです。

 

あるいは、「不易流行」の中味は具体化されていても、ちょっとピントが外れているという場合もあります。

 

そこで、長寿企業は過去からの延長ではなく、過去の遺産を活かしつつも現在をスタート地点とした未来を創り出していくために、つぎの3つの取り組みをすることを提言しています。

 

  1. 意志決定基軸の確立
  2. 経営基盤の柔軟化
  3. ブランドづくり

 

意志決定基軸の確立と言われても、家訓や社是がすでに存在しいて、それを大事にしていますという反論がよく返ってきます。

では、家訓は経営の意志決定をシステマチックにおこなうために、そのままで役立つものなのでしょうか。

 

 

  • 賞取りに走らず品質を保つ
  • 作り手こそ真の使い手であれ
  • もの云わぬものにものを云わせるものづくり
  • お客様本位
  • 三つの気 一 英気 二 活気 三 気配り
  • 謙虚、誠実、正直に、商うまえに人間として生きる
  • 知足
  • 投機・相場に手を出すな
  • 大きくするな
  • 入りて見よ桜の奥に又桜
  • 中庸、程よし
  • 行雲流水

 

誤解を恐れずに言うと、含意は深いものばかりですが、このままで意志決定に一貫性をもって適用するには抽象的過ぎます。

 

また、先ほど触れたように、不易流行における不易の部分が何かを明確にする必要があります。

 

不易の中には、自社の本当の強みやこだわりというものが当然に含まれてくることになります。

 

さらには、長い歴史があるからこそ培われている悪い意味での認知バイアスを排除することも必要です。

 

つぎに、組織や財務といった経営基盤が、長寿企業であるからこそ肥大化したり硬直化している例を数多く見てきました。

 

意志決定基軸の確立をすることで、一貫性のあるブレのない意志決定を実現したとしても、短期的に100%の成功は保証されません。

 

もちろん成功の確率を高めることに努力をしますが、より重要なことは結果に振り回されて自らの価値観を喪失しないことです。

 

そのうえで現実的かつ実践的な経営とは、予期せぬ事態の発生を前提として、変化を迅速かつ柔軟に行うことができる経営基盤を整備しておくことです。

 

3つ目のブランド化については、最後に項目を分けて取り上げます。

 

7 長寿企業のブランド化

 

長寿企業の業種内訳を見ると、酒造業を筆頭に約半数が製造業に属しています。古くから続いている製造業の常で、「顧客第一」という家訓を掲げていても、よい商品を作れば誰かが買ってくれるという作り手目線が強いことがおおいのです。

 

つくれば売れた時代、すなわち強い商品の力に頼った仕事のやり方が蔓延していて、組織やシステムが売れる商品を作ることができなくなっています。

 

そこでは、危機感が希薄で安穏の経営陣が居座り続け、社員は顧客を見ず、社内では政治劇が繰り広げられ、いい加減な管理資料による「思う・感じる」経営がはびこっていました。

 

ときを経て、売上が不振になってきたので、重い腰をあげて顧客が商品を選ぶ仕組みを追い求めたところ、市場全体が同質化に陥り、こんどは模倣によるコスト競争という不毛の荒波に揉まれることになりました。

 

これからは、長寿企業としての資源を活かして商品力を高めていくためには「ブランド」が必要になってきます。

 

競争戦略は、競争相手との相対的な価値を高めるステージから、絶対的な価値を確立するステージに入って来たのです。

 

ところで、日本の長寿企業を見ていると、諸外国とは異なる2つの特徴があることに気づきます。

 

それは、創業以来行っている事業の分野が必ずしも一致していない企業が多いということと、屋号や社名が大きく変わっていることが多いということです。

 

「水に流す」とか「ご破算にする」という過去に執着しない日本人が持つ潔さがあったからこそ、企業として長寿となり得たという結果にも結びついているのでしょう。

 

日本人は自分ではブランド品が好きなことからわかるように、イメージ価値が大好きであるにも関わらず、これを正しく評価すること、ましてや生み出すことが苦手です。

 

これは最近の傾向ではなく、長寿企業においても社名や屋号が変わっていて、一貫不変のロゴや社名が維持されているばかりではありません。

 

この点においては欧米のグランメゾンの方が、ブランドの維持とそれに伴う価値について、明確なこだわりを持っている企業が多いのです。

 

一方日本では、長い歴史の中で世界に冠たる文化を醸成してきた実績を持ちながら、ブランド価値の構築の意義を、無形の資産形成とは考えずに、プロモ-ションのための一つの手法くらいに考えている経営者が多いと思います。

 

だから、ブランド戦略に短期的なリターンを求め始めたりして、真の意味でブランド化ができないのです。

 

余談ですが、1992年にdocomoが民営化した際に、CIを実施しフィロソフィ・ブランド表現としてロゴの作成を行いました。このロゴはなかなか秀逸だと今でも思いますが、わずか16年後の2008年に再度CIを導入して、小文字のみの赤一色のロゴに変更されました。

 

その結果、すっかりセールス・ブランドとしての位置に格下げされてしまった感を強く持っています。

 

何か大きな販売上の戦略を実行するにあたって、「ロゴでも思い切って変えようか」という話ではないはずですが、日本におけるブランド戦略の下手さが、こんなところにも現れています。

 

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長寿企業であれば、時間の積み重ねの価値を十二分に知り得る立場であるので、ストーリーを持ったブランド化を腰を据えて行う意義を理解できるはずです。

 

昔から、「老舗の土台を築くのは、三代目あたりの養子」と言われています。

 

動的安定経営の導入は、創業100年3代目の経営者で舵取りされている企業にこそ、もっとも効果的であると考えています。