1 『三国志』に学ぶ経営者の陥るピットホール

経営者として向学心が高いことは、とても重要な資質だと思います。

 

向学心が高い経営者は、読書好きでもあります。

 

実際に、経営者がどんな本を手にしているかというと、話題のビジネス書以外に、歴史上の人物の立志伝が多いという特徴があります。

 

織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、上杉謙信、武田信玄などの日本の戦国武将が好まれているのは、言うまでもありません。

 

経営戦略においては、中国春秋時代の『孫子の兵法』を参考書としている経営者も多く、確かにここに書かれている13篇は、現代社会でも十分通用する内容です。

 

特に『三国志』は、読み物としてのストーリー性が高く、登場する人物像にビジネスへの応用と自身を重ね合わせ、故事に学ぶビジネス書のひとつとして、愛読している経営者が多くいます。

 

「歴史から学ぶ」 学びの立脚点に間違いはありません。

 

雨後の筍のごとく現れては消える流行のビジネス書を読むより、『三国志』を読む方が、時代を超えたセオリーを学ぶために役立つはずです。

 

でも、孔子が『論語』で教示している「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」という言葉を忘れてはいけません。

 

小説『三国志演義』では、さまざまな才能を持った豪傑や傑物がたくさん登場します。

 

とくに蜀の劉備玄徳のもとには、関羽、張飛、諸葛孔明といった逸材が集まり、自らの命を賭して劉備をもり立てます。

 

こうした『三国志』の世界と自分の会社の経営を、何でもかんでも、ダブらせてしまう社長が出てきます。

 

そして、「結局、人を動かすのはお金じゃないんだよね」などと言い出します。

 

まったく冗談のような話ですが、実際にこのように語る社長は多いのです。

 

『三国志』好きでピント外れな社長は、自分を劉備にダブらせて、「うちのような名も無い中小企業へ飛び込んできてくれる、諸葛孔明ような気概のあるナンバー2が欲しい」などという途方もない願望を口にします。

 

しかし、その願望が実現することは100%あり得ません。

 

こういう社長は、『三国志』の世界と自社の経営との間に横たわる、揚子江のごとく広い隔たりに気付いていないのです。

 

『三国志』に登場する豪傑や傑物は、自分たちの「国」のために働いたのです。

 

「中華統一」「天下泰平」という大義名分があったから、そこに人が集まったのであって、どうして一介の社長が経営する「株式会社」のために、身命を投げうってまで参集する人などいるでしょうか。

 

そんな「己も知らなければ敵も知らない」社長には、「そもそもあなたは劉備か?!」というツッコミを入れたくなる人が多いのです。

 

2 優れたナンバー2を採用するためには

劉備ではなかったとしても、経営者として優れたナンバー2が欲しい気持ちは分かりますし、その必要性が高いことも事実です。

 

以前、このコラムで「優れたナンバー2の条件」について書きました。

 

このコラムの要点をまとめると、こうなります。

 

  • 全ての会社にとって共通したナンバー2の必要条件はない。
  • 社長、特に創業社長は偏った能力の持ち主が多いので、経営者自身の得手・不得手を客観視したうえで、足りない部分を補ってくれる人材をナンバー2にすべきだ。

 

今回は、優れたナンバー2を採用するために必要なポイントを、さらに2つ追加します。

 

  1. 自社のビジネスモデルを理解し、どの部分を強化すれば業績が伸びるのかを判断して、そのために必要な人材を定義する。
  2. 価値観の一致しない人材は採ってはいけない。

 

それぞれのポイントについて、説明を補足します。

 

1. 自社のビジネスモデルを理解し、どの部分を強化すれば業績が伸びるのかを判断して、そのために必要な人材を定義する。

 

社長に、「どんなナンバー2が欲しいのか」と聞くと、決まってこう答えます。

 

「そりゃ、仕事ができる人がいいねぇ」

 

しかし、「仕事ができる」という表現は、非常にあいまいな定義です。

 

ひと言で「仕事ができる」と言っても、その能力は様々でしょう。

 

営業ができる人、企画ができる人では、同じ「仕事ができる」でも、必要な能力はまったく異なります。

 

同じように、「頭がいい」というのにも、いろいろあります。

 

例えば、人の話を理解する力が高く、さらにそれを別の人へ分かりやすく伝えられるというコミュニケーション能力の高さは「頭のよさ」だし、物事を論理的に考えて、ビジネスを戦略的に組み立てることができるのも「頭のよさ」です。

 

だが残念ながら、コミュニケーション能力の高さと戦略的思考能力は別ものであり、両方を一人の人物に求めることは難しいのです。

 

できるだけ頭のいい人材、できるだけ仕事のできる人材を選ぶのは、言うまでもない大前提です。

 

でも、自分の会社に必要なのは、どんな能力の持ち主なのか。それを社長がきちんと理解しない限り、適切なナンバー2を採ることはできません。

 

そのためには、自社のビジネスモデルの特徴をよく理解していなければなりません。

 

そのときに、社長自身の得手・不得手を把握したうえで、それを補う働きをすることで自社のビジネスモデルの強化につながる、ナンバー2の人材像を描く必要があるのです。

 

やみくもに「できるナンバー2が欲しい」と言っている社長は、自社のビジネスモデルを理解できていないことになります。

 

2. 価値観の一致しない人材は採ってはいけない

 

実は、このポイントが最も重要です。

 

社長の偏った能力を補うとか、仕事ができるとかは、十分条件であって、価値観が一致することが絶対的な必要条件です。

 

人材を採用するとき、多くの社長は「スキル」や「実績」に注目します。

 

たしかに、スキルは重要ですが、スキルがある人を採っても、必ず活躍する保証はありません。

 

なぜなら、その人材の「価値観」が、スキルを活かすために不可欠だからです。

 

価値観については、採用してから自分色に染めていけばいい。そう考える社長は多いですが、それは甘い。

 

他人の価値観を変えさせることは、スキルを身に付けさせるより、はるかに難しいからです。

 

ちょっと大袈裟に言うと、その人の仕事に対する価値観は、その人の人生に対する価値観そのものだからです。

 

どんなにスキルが高くても、会社の価値観と自身の価値観にズレがあると、その人材は仕事に対するモチベーションを維持することができません。

 

もうお分かりと思いますが、価値観が一致した人材を採るためには、先ず自社の価値観が明確になっていることが必須です。

 

3 よいナンバー2はリスクを取って獲得するもの

継続して繁栄している企業とは、よい人材を採用し、なおかつ上手に育ててきた会社と言えます。

 

そうして会社が繁栄すれば、一層より良い人材を採りやすくなります。

 

だから、中小企業の社長の中には、「大手だからよい人材に恵まれている」とか「大手だから、そういう採用戦略がとれるんだ」と言う人がいます。

 

しかし、それは考え方の順番を取り違えています。

 

大手だからよい人材が採れるのではなく、よい人材を採り続けたから大手になったのです。

 

また、「俺は力のあるヤツには、ナンボでも金を払う!」などと、さも凄いことのように声高に言う社長がいます。

 

いやいや、力のあるナンバー2に高額の報酬を支払うのは、当たり前のことです。

 

きちんと報酬を支払ったうでで、さらにナンバー2の能力を最大限に引き出すために何ができるのか。

 

よいナンバー2を採るためには、そこまで考えなければダメです。

 

そのことが分かって初めて、社長が劉備から学ぶべきことが、大いにあることに気付くはずです。

 

劉備には大義名分があったからこそ、関羽、張飛、諸葛孔明といった逸材が集まり、自らの命を賭して劉備をもり立てたことが重要です。

 

よいナンバー2を獲得したいと思うなら、先に「投資」をしなければなりません。

 

高給を用意したり、一筋縄ではいかない仕事をつくり、レベルの高い人材が「やりがい」を感じるような環境を先につくってしまうのです。

 

そのうえで、明確に定義された自社の価値観に合致する人材を選べば、優秀なナンバー2を手に入れる可能性が格段に高まるはずです。

 

経営というのは、突き詰めて言えば「確率」の世界です。

 

まず先に投資し、後から回収する。それが経営です。

 

投資もしない者が、回収できるはずがありません。

 

投資である以上「リスク」が伴うのは言うまでもありません。

 

しかも、どれほど努力をしても確率は100%にはなりません。

 

でも、それを理解したうで、できるだけ確率を高めていくのが、できる社長というものです。

 

ところが、できない社長は、なんとかしてリスクを負わずに、よい人材を採ろうと考えてしまう。

 

会社の核となるナンバー2の候補者を、ハローワークで探そうとしている社長など、その典型と言えるでしょう。

 

優秀なナンバー2が欲しいと言いながら、先行投資を嫌う社長は、豊作を望みながら種まきをしない農民と同じです。

 

社長は、自分の姿を劉備玄徳ではなく、ごく普通の農民とダブラしてみたらどうでしょうか。