1 業績が良い会社の経営者ができる社長とは限らない

いろいろな社長とお会いしてきた中で気付いたことがあります。

 

いま業績が良い会社の経営者が、できる社長とは限らないということです。

 

料理の世界に例えれば、本当に旨いものは値が張りますが、大枚をはたいたからといって必ずしも旨いとは限らないのと似ています。

 

その理由を解き明かすキーワードは「運」です。

 

マイケル・J・モーブッサン氏は著書『偶然と必然の方程式』の中で、人間が行う活動は、その種類によって運が結果にもたらす影響の大きさに違いがあることを指摘しています。

 

氏によれば、チェスなどは運がつけ入る隙がない実力100%の世界です。

 

一方、完全に運任せの代表は、ルーレットやスロットマシンです。

 

そして、スポーツの中でも球技については、種類によって運が影響する度合いが異なり、運が影響する強さ順に並べると、アイスホッケー>ラグビー>サッカー>バスケットボールとなります。

 

この順番にはちゃんと理由があります。

 

簡単に言うと、チャンスの回数と得点がイコールにならないスポーツは番狂わせが起きやすく、チャンスの回数がそのまま得点になるスポーツでは番狂わせが起きずらいのです。

 

同様に、ビジネスと一口に言っても、様々な業種・業態、時期、場所などの要因があるので、運に影響される度合いは同じはずはありません。

 

また、ビジネスの成否を分かつ要素として、その他に戦略(=打ち手)が妥当であったかどうかも無視できません。

 

この運と戦略という2つの要素を組み合わせると、下図に示すようにビジネスを4つのカテゴリーに分けることができます。

 

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運は、外部要因ですからコントロールすることはできません。

 

一方、戦略の妥当性は内部要因なので、経営能力の問題と言い替えることができます。

 

2 4つのビジネス・カテゴリー

カテゴリーC 運に影響される度合い【小】戦略の妥当性【小】

このビジネスを行っている企業あるいは事業は、戦略の妥当性が低いので失敗する可能性が高く、しかも運が失敗を帳消しにしてくれる可能性が低いので、高い確率で失敗する。

カテゴリーD 運に影響される度合い【大】戦略の妥当性【小】

このビジネスを行っている企業あるいは事業は、戦略の妥当性が低いので基本的に失敗する可能性が高いが、運に恵まれると結果オーライになることがある。

カテゴリーA 運に影響される度合い【小】戦略の妥当性【大】

このビジネスを行っている企業あるいは事業は、戦略の妥当性が高いので成功する素地はあるうえに、運に左右されることが少ないので、着実に成果を積み上げていく。

老舗といわれる企業は、このカテゴリーに入っていることが多い。

カテゴリーB 運に影響される度合い【大】戦略の妥当性【大】

このビジネスを行っている企業あるいは事業は、戦略の妥当性が高いので成功する素地はあるが、悪運に見舞われると、敗退する可能性がある。

 

いま業績が良い会社の社長が、できる経営者とは限らない理由は、もうお分かりでしょう。

 

戦略の妥当性が低ければ、合理的判断をする限りでは、ビジネスが成功することはありえないはずです。

 

しかし、現実においては「運」というもう一つの大きな成功要因に恵まれると、結果オーライになることが少なからずあるのです。

 

これが、いま業績が良い会社の社長であっても、できる経営者ではない場合を生んでいるのです。

 

かつて日本全国の社長全員が、この運に恵まれた時期がありました。そうバブル景気のときです。

 

一方で、どんなに秀逸な戦略を立案し遂行したとしても、カテゴリーBに属するビジネスを行った場合は、運の女神が微笑まなければ灰燼に帰す可能性があります。

 

このケースの典型的な例として、ソニーのベータ規格がVHS規格に敗れた話が有名です。

 

このように、好き嫌いは別として、ビジネスの成否を考えるときに、戦略のほかに運という要素は無視できません。

 

それにも関わらず、マスメディアで取り上げられる成功事例では、成功という結果を導いた要因としての戦略と運の貢献度の分析が行われていないことが多いのが特徴です。

 

どちらかというと、話として面白味が増しやすい運による成功譚の方がより多く流布している気がします。

 

成功事例を読む際には、ぜひ戦略と運の貢献ウエイトを推察してみてください。

 

3 運ではなく実力で行う経営

このように、社長ができなくても、たまたまビジネスが時流に乗ったために売れてしまうことがあるのです。

 

その結果は、「たまたま」であって、実力の賜とは言えません。

 

それにも関わらず「運も実力のうちだ!」と自信満々に語る社長もいますが、どう自惚れようと、長期間に渡って「たまたま」売れつづけるということは、さすがにありません。

 

だから、いま「たまたま」売れている社長は、そのビジネスモデルが通用している間に、次の手を打っておかなければ未来はありません。

 

いまと比べると一昔前は、変化のスピードがすべてにおいてゆっくりしていたので、ひとつのビジネスモデルが30年間も通用しました。

 

しかし現在は、変化の振り幅もスピードも大幅に増加したので、「たまたま」あるビジネスが当たり業績が伸びたとしても、そのビジネスモデルが10年いや5年ももつことはないでしょう。

 

そして、この「たまたま」という奇跡が、社長にとって大きな足かせになります。

 

時代の変化が激しいため、好業績を謳歌する幸せな時間はどんどん短くなっていくばかりか、少しばかり成功してしまったため、「自分は経営者として才覚がある」などと勘違いしていまいます。

 

ただし、運の経営を頭から否定しているわけではありません。

 

そもそも運を完全に排除した経営などあり得ませんから。

 

しかし、なるべく運の影響度を減らし、その代わりに実力を身に付け、実力が最も効果的に発揮できる市場で商売をする。

 

このことを基本に、ときには、運の影響度が少し大きい市場にも参入していく、という考え方が大切だと思うのです。

 

しかし、問題は、実力の定義はかなり難しいということにあります。

 

4 経営の実力をあげるためには

サッカーの試合を見ていると、ゴールには結び付かなかったプレーに対して、解説者が「いまの展開はよかったですね」と言っているのを耳にすることがあります。

 

常識で考えれば、点に結び付かない攻撃など価値がないはずです。

 

「この解説者は適当なことを言っているのかな」と思って見ていると、何分か後に、同じような攻め口からゴールが決まることがあります。

 

その道のプロが言うことは、あながちウソではないということです。

 

冒頭で、実力100%の世界の代表格としてチェスをあげましたが、チェスと同じく実力のみがものをいう将棋の羽生善治名人が、「ミスをしない対局はほとんどない」と言っていました。

 

ただ、そのミスは明らかなミスではないとのことです。

 

ミスには、「明らかなミス」と、正解に近い「ニアミス」があり、プロは明らかなミスはしないので、分かりにくいだけだと言うのです。

 

私は、サッカーも将棋も素人同然ですが、学生時代に打ち込んだことがあるアイスホッケーのプレーを見ると、筋の良いプレーとそうでないプレーは簡単にわかります。

 

そして、仮にゴールに結びつかなかったプレーだとしても、そのチームやプレーヤーの実力をうかがい知ることできます。

 

実は、どんな分野でも、実力を付けていくことは、この「ニア」のレベルを上げていくことなのです。

 

そのための唯一の方法は、考えて行動をすることを続けることしかありません。

 

考え、アイデアを出し、ときに情報を集め、パンパンに膨らんだ頭から行動を通じて不要なものを削り落とし、またパンパンに膨らんだ頭から同じく行動を通じて不要なものを削り落としていく。

 

一見すると遠回りなようですが、それを繰り返すことでしか、経営の実力は上がっていきません。

 

しかし、そのように日々努力を積み重ねているにも関わらず、思ったように成果が上がらないならば、可能性は一つに絞られます。

 

それは、削ってボツにした案やアイデアをきちんと消化していないことが原因です。

 

人の性として、成功と失敗があると、成功を見てその秘訣を知ろうとします。

 

でも、成功をいくら見ても、本当に大切なことは分かりません。

 

成功の型は常に変化しているからです。

 

時代によって人が求めるものは変わるし、相手によっても求めるものは異なります。

 

だが、失敗の要素というのは、時代が変わっても、相手が変わっても、実はあまり変化しません。

 

だからこそ、ボツをしっかり検証して、明らかなボツとニアなボツを識別していくことが、経営の実力をあげていくために不可欠なことなのです。

 

明らかなボツを知り、その要素を一つずつ取り除いていけば、結果的に成功の確率は上がっていきます。

 

プロが明らかなミスを犯さないのは、正解を知っているからではありません。

 

明らかなミスとは何か分かっていて、それを選択肢の中から排除しているからなのです。

 

5 五年後を見越して、目先の金を捨てられるか

では、ビジネスにおける明らかなミスとは何でしょうか。

 

営業力が弱いとか、資金が足りないとか、クラブ通いにハマって交際費を使いすぎたとかではありません。

 

永久に機能するビジネスモデルや収益をあげ続ける事業は基本的に存在しない。この事実を見過ごすことです。

 

たまたまではなく、継続的に会社を繁栄させることができる社長は、この事実から目を反らさずに受け止める勇気を持っています。

 

そのために、現在のビジネスがあと何年くらいで下り坂に入るのか、それまでに何をしなければならないのかを明らかにし、的確に手を打つことがてきるのです。

 

いまの時代は、相手と自分の立っている位置関係が、いつ逆転するかが分からない非常に不安定な時代です。

 

織田信長が火縄銃を手に入れたことで、当時圧倒的に強かった武田勝頼率いる騎馬隊を破った長篠の戦いのようなことが、いつどこの業界で起きても不思議ではありません。

 

古代中国の兵法書『孫子』に「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という有名な言葉があります。

 

「敵を知り己を知る」というところだけクローズアップして、この教えを理解している人が多いのですが、それは違います。

 

どんなに知識をインプットしたところで、「百戦危うからず」といういう以上は、たくさん戦わなければ意味がありません。

 

先日のことですが、「いままで大した失敗もしないで上手くやってきました」と言う社長に会いました。

 

よくよく話を聞いてみると、何のことはない、ずっと同じことしているだけだったのです。つまり、一戦しかしていないことになります。

 

バッターボックスに入って、絶対にバットを振らずに球を見逃し続けていれば、一度も空振りをしたことがないバッターにはなれます。

 

その場合、投手が自滅して四球で出塁することはあるかもしれませんが、バットを振らない限りヒットを打って自ら出塁することはあり得ません。

 

気付いたら見逃し三振でアウトです。

 

でも、空振りのリスクを恐れずにバットを振って、ファールでもチップでも続けていれば、最後はヒットが出る可能性は格段に高まるはずです。

 

いま業績好調な会社の社長に、「業績好調ないまだからこそ、先を見越して自らビジネスモデルを変えていく必要がある」という話をよくしますが、このバッターの例え話のようなことが起こります。

 

バットを振らないどころか、バッターボックスにすら入らない経営者が多いのです。

 

だいたい100人の社長と話をして、すぐに着手する社長は2,3人です。

 

残りのうち30人は、変えなければならないということは理解してくれますが、すぐには変えられないという社長です。

 

そしてマジョリティに属する64~66人の社長は、変えられないというより、変えようとしない社長です。

 

最後に残った2,3人の社長は、一番救いようがありません。いまのビジネスを、同じスタイルのままで一層強化することに熱意を傾けているからです。

 

いま正に危機に直面していれば、どんな社長でもすぐ動きます。

 

だから企業再生の局面では、社長がいてもたってもいられずに、むしろ少し落ち着くように諭す必要すらあるのです。

 

でも、いま現在何も変えなくても7000万円なり8000万円なりの利益が確実に上がっている状況では、人はなかなか動けないものです。

 

どんなにいま頑張っても、5年後には衰退すると、頭ではわかっていても、いまは止められないのです。

 

しかし、衰退し始めてから方向転回をしようとしても、現実には選択肢は極めて限られてしまいます。「それまでになんとか」では遅いのです。

 

いま利益が出ているうにち、5年後を見越した新たなビジネスモデルを考えておかなければ、結局は会社を潰すことになります。

 

一方で、継続して安定した業績をあげている中小企業は、変化に強いという特長を持っています。

 

したがって、これからの時代の経営者は、変化に対して受動的に強いだけではなく、能動的に変化を起こすことのできる企業文化を確立し、組織・財務等の経営基盤の柔軟性を高めることが唯一にして最大の経営課題であることを断言します。

 

あなたは経営者として、崖に向かって真っ直ぐに進んでいるにもかかわらず、ハンドルを切らず、プレーキを踏んでスピードを落とすだけのドライバーになっていませんか。