1 そもそも「黒字」とか「利益」とかを厳密に定義する

企業経営に携わる者なら誰でも、「黒字」を意識しているはずだ。

 

放漫経営でやりたい放題の社長の場合は、黒字かどうかなどお構いなしかもしれないが、その場合経営自体をしているとは言えまい。

 

黒字を意識している真っ当な社長だからこそ、語る言葉にもそれが表れる。

 

「経営課題は、赤字か黒字かではなく、黒字の水準をどの程度に・・・」
「黒字を出し続けることで、自己資本比率を高めることが・・・」
「うちは、ずっと黒字だから実質無借金経営なんですよ・・・」

 

「黒字である」ということを言い替えれば、「利益が出ている」ことになる。

 

では、「利益」とは何かを具体的に定義することはできるだろうか。

 

会計的に表現すればこうなる。

 

[売上高]-[売上原価]=[売上総利益]
[売上総利益]-[経費]=[営業利益]
[営業利益]-[営業外損益]=[経常利益]
[経常利益]-[特別損益]=[税引前当期利益]

 

利益と言っても、何段階かに分かれているのだが、利益の種類とかその算出方法などは、この際どうでもよい。

 

何が重要かというと、その答をピーター・ドラッカー先生が教示している。

 

 

「企業人自身が利益について基本的なことを知らない。そのため彼らが互いに話していることや、一般に向かって話していることが、企業の本来とるべき行動を妨げ、一般の理解を妨げる結果となっている。

 

利益に関して最も基本的な事実は、そのようなものは存在しないということである。存在するのはコストだけである」(『すでに起こった未来』)

 

 

「利益は存在しない」。いみじくもドラッカー先生がおっしゃっているにも関わらず、世間には実態のない幽霊を追い求める怪談話が溢れている。

 

「自分の給料分くらい儲けろ!」とか「慈善事業じゃないんだから、利益を上げろ!」などと、社内に向けてハッパを掛ける社長は多いだろう。

 

一方で、「この方法で利益倍増!」とか「これから儲かる商売はこれだ!」などと喧伝するコンサルタントの先生方が跋扈している。

 

「利益は存在しない」とするなら、「利益を出す」とか「儲ける」ために、具体的に何をしているのだろうか。

 

[売上高]-([原価]+[経費])=[利益]

多くの人は、無意識にこの等式を知っている。

 

だからこそ、この等式の値が最大になるようにすることが、「利益を出す」とか「儲ける」ための具体策だと考えている。

 

  1. 売上高を伸ばす
  2. 原価を下げる
  3. 経費を削る

 

そう、表面的にあーだこーだ色々言ってたとしても、詰まるところこれら3つの要素をマネージすることが利益を出すために必要にして十分であり、それが上手に出来る人は経営能力が高いとされる。

 

そして世のコンサルタント達も同様に、これら3つの要素を「簡単」かつ「迅速」に改善出来ますというメッセージを発信することで、経営者の内懐に飛び込まんとしている。

 

だからこそ、売上高を伸ばすために販売力強化を試み、原価を下げるために大量購入や現場改善を行い、経費を下げるために非正規社員の増加やアウトソーシングの導入が進んでいるのだ。

 

利益がなければ、コストを賄うことも、リスクに備えることもできない。社会が必要とする財・サービスを提供できず、人を雇用することもできない。したがって、利益を上げることが企業にとっての第一の社会的責任であることは間違いない。

 

だが、利益は目的ではないし、動機でもない。利益とは、企業が事業を継続・発展させていくための条件である。明日さらに優れた事業を行なうためのコスト、それが利益である。

 

 

「利益と社会的責任との間にはいかなる対立も生じない。真のコストをカバーする利益をあげることこそ、企業に特有の社会的責任である」(『すでに起こった未来』)

 

 

では、「明日行うさらに優れた事業」とは、どのようなもので、どのようにして生み出したらいいのだろうか。

 

形のない「利益」にのみ囚われて、等式を構成する3つの要素の改善に留まる限り、努力の甲斐あって黒字が出たとしても真に価値ある事業を創造することはできない。

 

最も大切なことは、利益を生み出す源が、企業の存在意義と一致しているかどうかなのだ。そして、世の利益至上主義においては、99%そこにズレがある点に問題がある。

 

2 二つの利益 効率利益とそれより重要な利益

業種に関係なく、すべての企業組織は、つぎの4つの部門にから構成されている。

 

  1. モノ・サービスを開発する部門(開発部門)
  2. モノ・サービスを生産する部門(生産部門)
  3. モノ・サービスを販売する部門(販売部門)
  4. 上記3部門の業務を支援する部門(管理部門)

 

企業組織における部門の性格を分類する方法の一つとして、会計学由来のコストセンターとプロフィットセンターに二分するやり方がある。

 

  • コストセンター = コストだけが集計される部門
  • プロフィットセンター = コストと収入が集計される部門

 

この考え方に基づいて、上記4部門をコストセンターかプロフィットセンターに類別するとこうなる。

 

  • コストセンター:開発部門 生産部門 管理部門
  • プロフィットセンター:販売部門

 

これが、世間一般で認知されているコストとプロフィットから見た部門の性格分けになる。

 

では、コストセンターとして位置付けられ、在籍する人々も同様のアイデンティティを持っている場合、部門メンバーの努力目標または行動規範とはいかなるものになるだろうか。

 

コストしか集計されないのだから、コストを削減することが仕事上の使命になるはずだ。コストを削減することは、イコール業務効率を上げることを意味する。

 

より少ない人員で、より多くの仕事を、より正確に、より早く行うことで業務効率はアップし、その結果コストが削減される。

 

当然、業績評価や人事考課も、コストの削減の度合いが重要な意味を持ってくることになる。

 

一方で、プロフィットセンターとして位置付けられ、在籍する人々も同様のアイデンティティを持っている場合、部門メンバーの努力目標または行動規範とはいかなるものになるだろうか。

 

収入とコストの双方が集計されるのだから、収入を伸ばしつつコストを下げることを同時に実現することが望ましいのだが、現実はもう少しだけ複雑な要素を考慮する必要がある。

 

収入を伸ばすためには、通常金がかかることが多いからだ。

 

[利益]=[売上高]-[経費]という等式から自明であるとおり、収入を得るために投資(インベストメント)を行うことで、投資を上回るリターンが得られるのならば利益は増加する。

 

そのため優れた販売部門は経費を最小化する努力を行うより、利益を最大化するための投資について頭を巡らすものである。

 

したがって、販売部門は経費を投入してでも、売上高をどれだけ伸ばせるかを最大の使命と考え行動することになる。

 

しかし、ここで提起したい疑義がある。

 

販売部門がプロフィットセンターとして獲得した利益は、実はその企業の存在意義をなすものではなく、単に営業業務の効率アップの結果生じる効率利益(決算期内に生じる実現利益)でしかないのではないかということだ。

 

つまり、効率をキーワードとして利益を得ているという意味において、コストセンターと大同小異という見方ができることになる。

 

しかし、多くの企業では、販売部門こそが企業の利益の源泉であると錯覚し、営業部門を過大評価している傾向がある。

 

本来、販売部門は、開発部門が技術開発するモノを消費者へ受け渡すための機能であり、消費者の満足のなんたるかを認知することはできても、開発できる部門ではない。

 

営業部門に対する過大評価は、ときには消費者の満足を無視し、売上中心主義に走り、結果的に、消費者の不満足を発生させる原因にすらなり得る。

 

販売部門至上主義は、その企業の存続を是非する問題を発生させる危険性を含んでいるのだ。

 

絶えることなく頻発する金融・保険・証券企業の不祥事が、その最もたる実証例だろう。「とにかく売ってしまえば、あとは野となれ、山となれ」なのだから。

 

企業において真の利益を生み出す泉は効率利益ではなく、企業の存在意義がもたらす中核的利益であるということを明確に認識しなければならない。

 

企業の中核的利益は、企業の存在を成すモノであり、その存在を成すモノが、顧客の共感を得ていることが企業発展の基本と言える。

 

[利益] = [効率利益] + [中核的利益]

[中核的利益] = 企業の存在意義

 

3 中核的利益 それはなにか? どこから生まれるか? 

だとすると、販売部門はコストセンターに過ぎず、真のプロフィットセンターは開発部門かというと、そういう話ではない。

 

そもそも、コストセンターとプロフィットセンターという考え方自体が原価管理をするうえで、会計学の中で生まれてきた概念に過ぎない。

 

SAPの導入コンサルだったら、コストセンターは主にこうした会計的意味で、会社の組織定義のプロセスで使っているはずだ。

 

会計学の特徴として、用語の定義はきわめて厳格だが、価値判断からは中立だ。会計士は、この製品はイケているとか、あの部門はアホだとかは言わないのである(少なくとも表向きは)。

 

しかし、会計学に隣接する経営学の世界にこの言葉が取り込まれたことによって、用語は厳密性より説得力が求められるようになった。

 

さらには、経営学のさらなる隣地である経営コンサルタントの世界では、概念の物語性が最大の価値となる。

 

経営学の分野ではマネジメントが主題である。

 

そのため、部門をマネジメントする際に、その部門の性格と管理目標がテーマになる。

 

そこで、コストセンターは費用だけが集計される部門であり、費用で管理するべきだし、プロフィットセンターは収入と費用の両面で(つまり収入-費用=利益で)管理すべきだ、という見方が誕生した。

 

長々と説明をしてしまったが、コストセンターとかプロフィットセンターとかいう概念でマネジメントを行うことは、今や時代遅れなので忘れてしまって一向に構わない。

 

重要なことは、市場環境の変化によって、利益を創出する源が「効率」から「中核的価値」へ推移しているという洞察を持つことである。

 

そして中核的価値の実現は、どこか特定の部門で行われるものではなく、経営者を中心として全社で一貫した活動を通してできることなのだ。

 

拡大を続ける市場を背景に、作れば作っただけ商品が売れた時代は、利益は効率から生まれるという認識のもとに経営を行っていても一応の成果を上げることができた。

 

しかし、市場の成長が期待できず、便利に応える必需品ほど安値競争が起きている状況では、どんなに効率を追求しても、全ての企業に利益をもたらすことはあり得ない。

 

これからの企業、特に中小企業は効率利益に向けていた目線を中核的利益に移す必要がある。

 

なぜなら、企業利益の中には、効率利益(決算期内に達成できた実現利益)と中核的利益が含まれているが、利益の源泉としての重要度が効率利益から中核的利益に移行しているからだ。

 

では、中核的利益はどのようにして生み出すことができるだろうか。

 

顧客の創造、あるいは顧客の満足が中核的利益の醸成のためには必須だが、ニーズに応える、便宜を提供するといったマーケティング的な視点に立ちすくんだままでは難しい取り組みになる。

 

「第29話強みが分かれば苦労はない」で述べたように、事業における絶対に譲れないこだわりとしての「強み」を明らかにして、その世界観に共感する顧客を巻き込むことではじめて、企業の中核的利益の源が起動することを理解してもらいたい。

 

この先の時代においては、利益を出して黒字を確保している企業とは、漏れなく中核的利益の源を掘り当てて、その価値で顧客を創造している企業であることを断言する。