1 サッカー日本代表監督に必要な条件

11月23日(金)に行われたアジア杯決勝トーナメント準々決勝の試合で、日本代表チームはUAEにPK戦の末に敗れた。

2014ブラジルワールドカップ以後、サッカー日本代表チームの監督はアルベルト・ザッケローニ氏からハビエル・アギーレ氏へと交代した。

ブラジルW杯での予選リーグ敗退という実力どおりと言えばそれまでだが、多くの国民の一方的な期待感を裏切った結果を受けて、2018年開催のロシアW杯予選突破という目標を遂行するに相応しい人材としてアギーレ監督は選ばれたらしい。

しかし、その目標を達成するために必要な日本代表監督の条件とはなんなのであろう。

世の中では、元サッカー選手、サッカー解説者、サッカーファンが好き勝手に、日本代表チームの監督に必要な条件について自説を展開したり議論を戦わせているが、日本サッカー協会が、その条件を具体的に示したという事実は見当たらない。

スポーツ・チームの監督とか、会社の社長とか組織のトップを担う人物が交代するときには、たいてい新しいトップに期待するものがある。

たとえば、プロ野球チームの監督ならリーグ優勝であったり、企業のトップなら黒字転換であったりする。

でも、リーグ優勝とか黒字転換とかは目標であって、その目標を達成するための資質なり条件について定義することの方が重要ではないだろうか。

こんなことを言うと、「いやいや、ちゃんと考えましたよ」「業績立て直しに実績のある人物という条件です」というような反論が俄かにやってきそうだ。

しかし、「業績立て直しのためには、業績立て直しに実績のある人物を求む」という物言いは、なんら具体性がないという点で「盗難事件を無くすためには、泥棒がいなくなればよい」と言っているのに等しい。

サッカー日本代表監督に必要な条件はなんのかを考えるのと同じように、企業の経営者の条件を具体的に考えることは大切なことだが、その際気を付けるべきことがある。

それは、スポーツ・チームの監督と企業の経営者は、似ているようでまったく異なるリーダーだという点である。

2 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

スポーツの世界には、名監督とか名将と呼ばれている方々がたくさんいる。

たとえば、ヤクルトと楽天の監督を務めた野村克也氏、元サッカー日本代表監督のイビチャ・オシム氏などをすぐに思い浮かべることができる。

「野村監督名言」「オシム語録」というキーワードで検索をすると、珠玉の言葉がちりばめられている。

このお二方の考え方や言葉が好きで、ビジネスの世界でも役立てている人もたくさんいるだろう。

実際のところ、ビジネス界で名監督は人気がある。

それが証拠に、毎年どこかが行っている「上司になってもらいたい有名人ランキング」には、たいていスポーツ・チームの監督がランクインしている。

参考になる部分は大いに取り入れればよいが、スポーツとビジネスでは決定的に違うことが一つあって、この違いを知らないでいると致命的である。

肥後国平戸藩第九代藩主 松浦静山の言葉だが、野村監督が有名にした『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』という言葉がある。

「勝つときにはたまたま勝つことがあるけれど、たまたま負けることはない。負けるときには負けるだけの理由がある」ということを意味している。

だからこそ、負けた原因を追究して負け数を減らしたり、負ける原因が発生する可能性を下げていくことが、安定した勝ち星や勝率につながるということだ。

まさにその通り、さすがは野村監督が口にする言葉だ。

自分らが努力して改善できるものに集中して、運不運に左右されないようにする。これはスポーツに限らず、あらゆるジャンルの仕事に通ずる真理なのではないかと思う。

しかし、この真理を間違えて理解している経営者に出会うことが多い。

その原因は、スポーツとビジネスの根本的な違いに気付いていないからだ。

3 スポーツとビジネスの「勝ちかた」の違い

スポーツとビジネスの最大の違いは「勝ちかた」にある。

スポーツで勝つためには、「不思議の負け」がない以上、負けた原因を徹底的に分析してその原因を取り除くことが必要だ。

まずは負ける理由を減らせば勝ちにつながる。これがスポーツにおける戦略思考だ。

しかし、この考え方をそのままビジネスに当てはめてはいけない。

ビジネスとスポーツの決定的な違いは、相手が決まっているかどうかだ。スポーツは相手チームとの一対一の勝負だから、相手の負けがイコール自分たちの勝利になる。

今回のアジア杯での日本vsUAE戦のように、ゲーム自体は圧倒的に日本が支配していても、最後のPK戦で本田と香川が外して日本が自滅してしまえば、UAEの勝ちになるのだ。

だから「不思議の勝ち(=相手の負け)」があるが、ビジネスの世界では同じことが起きるとは限らない。

隣の店に閑古鳥が鳴いているからといって、自分の店が繁盛するわけではない。

繁盛するには繁盛する理由、選ばれる理由、つまり勝つ理由が必要なのだ。

負けなければ勝つのがスポーツ。しかし負けなくても潰れることがあるのが企業。そもそも勝ちかたが違うのだ。

それにも関わらず、売れない理由を減らしていけば、もっと売れるようになると考えている経営者は多い。

この考え方は、市場占拠率が独占的に高い大企業や、特定の地域において極端に競合が少ない中小企業では有効な戦略になることはある。

離島で二軒しかない食品店のうち一店が潰れたら、顧客は残った店へ行くしかない。顧客に選択肢が少ないときには、負けない経営が勝つ経営となるのだ。

しかし、いまはまったく状況が異なる。現在の日本においては、あらゆるビジネスの分野で顧客側の選択肢は溢れかえっている。

当然、マイナス・ポイントを潰すことにまったく意味がないとは言わない。もしも、顧客がだれ一人として賛同することがない致命的なものであるならば、その欠点は修正する必要がある。

だが、誰かにとってのマイナスが、他の人にとってもマイナスだとは限らない。

大事なことは、選ばれない要因をなくすことではなく、選ばれる理由をつくり出すことだ。

「付き合いたくない会社」であることと「付き合いたい会社」であることとの間には、想像以上の隔たりがある。

嫌われないための努力と、好かれるための努力はまったく別物なのだ。

嫌われないための経営に徹した結果、誰からも好かれない経営に成ってしまっている会社は意外なほど多い。

4 「差別化されない」ための戦略では動的安定経営は実現できない

勉強熱心でより良い経営を目指している経営者であれば、「中期経営計画」の策定を行っていることが多いはずだ。

ところが、5ヶ年の中期経営計画策定後、1年半もすると全面的な計画の見直しを行わざるを得なくなる企業は少なくない。

その理由は、日本企業の経営会議で「戦略」という言葉が使われる瞬間に象徴されている。

多くの場合、「戦略」が議論されるのは、「ライバル企業が、こう動いた。さて当社はどうするか?」という文脈でなされることが多いのだ。

もちろん、こうした議論は、競合他社の戦略的な打ち手に対する「対抗戦略」をどう打つかという視点で議論されることもあるのだが、多くの日本企業の場合、「対抗戦略」ではなく「追随戦略」とでも呼ぶべきものになってしまうのだ。

言葉を変えれば、無意識に「ライバル企業に置いていかれないために、どうすればよいのか?」と発想してしまう。そして、本能的にライバル企業の打ち手の物まねをしてしまう。

追随戦略をベースとした経営計画を策定している限り、戦略の前提である相手の動きがますます早くなっている分、経営計画の寿命は短くなるのは当然だ。

それでも、日本経済全体が右肩上がりで成長している間は、追随戦略を採用してもそれなりの成果を得ることができた。

しかし、低成長を前提としたこれからの時代においては、真の意味での「差別化戦略」とさらにその上をいく「独占戦略」を打ち立てて実行する経営しか生き残れない。

そのためには、不動の核心的競争力(コア・コンピタンス)を明確にした後に、競合他社に対して受身で反応するためではなく、「主体的に戦略を不断に見直す経営能力」と「変化した戦略に迅速かつ柔軟に適応可能な企業体」を築き上げる必要がある。

動的安定経営とは、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」の一歩先をいく「勝ちに不思議の勝ちなし、負けに不思議の負けなし」を実現する経営なのである。

その意味において、スポーツ・チームの監督と企業経営者の条件は異なる。