1 うまくいっている企業に共通していること

うまくいっている企業は必ず、トップの軸がしっかりしてぶれない。逆にうまくいっていない企業は、多くの場合トップが軸を見失ってぶれまくっている。

 

短期間で成果が現れる取り組みなら、ほとんどの経営者がやり切ることができる。しかし、大きな変革ほど、短期間には成果は表れない。

 

それにも関わらず、変化が見られないとすぐに自信を失ってしまう経営者は、改善の積み重ねをすることはできても、革新を起こすことはできない。

 

持続的かつ大きな変化は、トップ自身が変わっていくことから生まれるものだ。社員が変わっただけでは、企業全体の変化には至らない。

 

だから、経営者の軸がしっかりとしているというのは正確に言えば、軸がぶれずにいながら、自分自身を変えようと努力を怠らないことを指す。

 

これが、まさしく「動的安定経営」を実現している企業の経営トップの姿勢なのである。

 

2 軸がぶれない経営のために不可欠な「問い」

ただし勘違して、滝打ち修行や座禅修行などしても、あまり意味がない。精神を鍛錬すれば、軸がぶれない経営が実現できるわけではない。

 

動的安定経営実現の第一歩として、最も重要なことは、正しい「問い」を立てることだ。

 

軸がぶれまくっている企業の風土的な特徴は、問題解決指向が強いことだ。組織内に問題解決指向が蔓延している。

 

つまり、常に「どうやるか」ばかり考えているということだ。

 

通常の社員は大抵、どうやってやるのかしか考えていない。それは致し方ないこととしても、経営トップまでもが問題解決指向に陥ってしまった企業は、遅かれ早かれ迷走を始める。

 

では、「どうやるか」に代わるどんな問いが必要なのだろうか。

 

その答は、「なんのために」である。

 

こういう話をすると、反論をする社長が現れる。

 

「なんのために?」
「そんなの売上と利益が伸びるために決まっているじゃないか!」

 

残念ながら、どう気色ばんでみたところで、こういう考え方こそが「なのために」が欠落した「どうやるか」経営の特徴なのだ。

 

また、「そもそも問題解決指向の何が悪いんだ?」という反論も受ける。

 

問題解決能力はあった方がいい。しかし、「どうするか」ばかり考えていて「なんのために」が希薄な企業の行動がどのようなものか、我々は知っているはずだ。

 

新聞やテレビなどで、法令違反を犯す企業、ブラックと言われる企業、クレームへの開き直りや隠蔽を図ろうとする企業のニュースが後を絶たない。

 

これも「なんのために」が欠落した「どうやるか」経営の特長である。

 

3 余人を以て代えがたい経営トップの役割とは

誤解をしてもらっては困るが、企業にとって売上や利益がどうでもいいという話をしているわけではない。

 

企業の存立基盤として、売上や利益は間違いなく必要条件である。しかし、売上や利益は十分条件にはなり得ない、ということを言いたいのだ。

 

では、企業存立の十分条件とはなんなのだろう。

 

それを明らかにしたいのなら、先ずは「企業における経営トップの役割とはなにか?」という問いに、経営者として答えてみることだ。

 

答は人それぞれかもしれないが、私は断言する。社長の役割とは、社員が目先のことしか考えていない時に、将来や未来のことを考えていることに尽きる。

 

それは同時に、この企業を通じて、この事業を行うことに対して、「なんのためにやるのか」「どういう意味があるのか」「目的はそもそも何なのか」という問いを立てて答え続けることが役割であることを意味する。

 

4 本当は答えるのが難しい「なんのために」

とは言うものの、実はこの程度の話は、すでに多くの心有る方々が語っていることに過ぎない。

 

「社長たるもの、理念や想いを語り、将来に向けての地図を描くことこそ最重要な仕事と認識すべし」と、偉大な先達が教え諭している。

 

当の社長だって、「なんのために」が大切だと考えるからこそ、「企業理念」やら「ミッション」やら「バリュー」やら「ビジョン」やらを明文化して、企業の公式HPに大々的に掲載している。

 

でも、そうした煌びやかな言葉の群れが本当に企業の原動力になり、決断を迫られたときに無条件に採用すべき基軸になっているだろうか。

 

多くの経営者の本音としては、「少しでも稼ぎたい」という欲と「積み上げてきたモノを失いたくない」という恐れの方がよっぽど強い動機になっているはずだ。

 

欲と恐れを持つことが悪いことなのではなく、それを上回る「なんのために」に対する答えを持ってていない実態に目を向けなければならない。

 

お題目ではなく、経営における真の原動力になる「なんのために」を明確にすることは、想像以上に難しいことである。

 

実際に「動的安定経営」を導入していくに当たり、最初にぶつかる壁は、できたつもりになっている中途半端な取り組みの残滓なのだ。

 

「理念」が未だ明文化されていないなら、早速探り当て文章化する取り組みに着手すればいいだけだが、下手に「企業理念」が社長室の壁に飾られていると、それを疑い、場合によっては一度ご破算にすることは、過去を否定されるという結果を伴うために心理的な抵抗が大きくなる。

 

飛躍的前進を図るためには、必ず創造的破壊が付いて回る。

 

この創造的破壊を起こすかどうかは、正誤の問題ではなく、まさに経営者の意思と決断の問題である。

 

5 「なんのために」を明らかにすることが「強み」へとつながる

「なんのために」を明らかにすることは、企業としての「強み」を抽出するうえでも重要なことである。

 

「なんのために」への突き詰め方が不十分なままに、「強み」の定義に走っても真の「強み」は浮かび上がってこない。

 

「なんのために」と「強み」は因果関係ではなく、一体不可分であり表裏一体の関係だと考えるべきだ。

 

昨今流行のマーケティング的なアプローチで「強み」を明らかにする手法では、「強みは自分では分かりづらいものだから、顧客に聞けば分かる」などと主張しているが、「なんのために」と一体不可分である「強み」は顧客に質しても分かるはずがない。

 

動的安定経営化にあたっては、「なんのため」と「強み」の重要性を極めて大きく評価しているために、スタートタスクとして、その明確化には独自の手法によって必ず取り組んでいる。

 

カオス理論において「初期値に対する鋭敏な依存性」という概念がある。この理論を企業経営に置き換えると、最初に「なんのために」への答を誤ると、その後のプロセスにおいて誤りの程度が加速度的に増加するということになる。

 

したがって、とりあえずという心持ちで「なんのために」や「強み」を形にすることは、意味がないどころか危険ですらある。

 

自助努力によって、自社のの存立意義や強みを考えるにあたっては、それらを見出すことの難しさを十分に理解したうえで取り組んでいただきたい。