戦後37年間で50倍に急拡大した日本経済

ところで、資産運用の世界ではα(アルファ)値とβ(ベータ)値という言葉が使われます

 

厳密な定義はこの場では必要ないので簡単に言うと、βとは市場全体のリターンを表す言葉で、αとは個別銘柄のリターンとなる。αは当然βを上回ることもあれば下回ることもある。

 

つまり投資家は、この2つの選択をして投資をしていることになります。

・どの市場(β)に投資するか
・誰の運用方針(α)に投資するか

 

この2つの値を経営の世界に当てはめると、以下のとおりになります。

・αは、経営者の手腕
・βは、日本経済の成長

 

βを表すものとして、1992年のGDPを100とした日本の過去60年間の名目GDPの推移を表したグラフを示す。

 

GDP推移

 

このグラフを見れば明らかなとおり、1990年代に入るまでの日本経済のβは順調に推移していた。

 

バブル景気崩壊後から2年が経過した1992年のGDPを100とすると、「もはや戦後ではない」と言われた1955年のGDPは2でしかありません。

 

それが、1955年から25年経過した1980年に50となり、1980年からは半分の12年間で100に達している。実に37年間で50倍になったのです。

 

1970年代に2度ののオイルショックという景気後退期があったにも関わらず、日本経済は急激な成長を続けて来たことが分かります。

 

日本経済という拡大市場に乗っかっていれば、よほど間違った経営をしない限り誰でも経営ができた。それが戦後の日本経済だったのです。

 

多くの社長が自分を名経営者だと信じた日本経済の拡大期

こうした恵まれた環境のもとでも、経営者の手腕であるαの差は存在していましたが、日本経済のβが順調に伸びていく限りは、誰もが大小の違いこそあれプラスのリターンを得られました。

 

前年に比べて今年は市場が10%拡大したときに、優秀な経営者は企業を20%成長させ、出来の悪い経営者は8%に留まっていることがありましたが、対前年比の数値がプラスであるということで、多くの経営者が会社を順調に運営していると信じ、自分の経営手腕に自信を深めていったのです。

 

特に、堅実な経営を行うより借入をして成長する市場に投資をした企業は、無借金経営の企業より大きなリターンを得たはずです。仮に、多少投資に失敗しても、市場の成長がその傷跡をすぐに癒やしてくれました。

 

グロバリゼーションの本質は国際展開ではなく質的変化を伴わない拡大

この時代の経営者は、何か一つビジネスモデルを持てば、あとは市場の拡大に追いつけ追い越せで、商圏の拡大、生産力の強化、販売力の強化をすることが経営戦略でした。

 

質的変化を伴なわない拡大。このことを「グローバリゼーション」といいます。

 

グローバリゼーションを「国際展開」という意味で理解するだけでは不十分です。水平的展開を図るにあたり、「ビジネスの質的進化を伴わない」という重要な特徴を見逃してはいけません。

 

商圏の拡大が、国内に限定されていた時代には「拡販」とか「エリア開発」と言っていたものが、国境を越えて商圏が拡大した途端に「グローバリゼーション」という格好の良いカタカナ言葉に変わっただけです。

 

もちろん、行く先々の国の文化や習慣に合わせて販売上のアジャストは必要でしょうが、拡大の効率を上げるためには、ビジネスモデルそのものは維持するところに意味があるのです。

 

グローバリゼーションとは、言い替えれば「馬鹿の一つ覚え」ということになります。

 

日本経済の拡大が止まるとともに浮かびあがった経営者の本当の力

しかし、1990年代に入り日本のβは一変しました。

 

それまでの右肩上がりの市場の成長は消え失せ、日本経済というβの場では、α=経営者の手腕が重要な要素になってきたのです。

 

そこで、市場が10%伸びているときに自社の成長が8%であることに危機感を抱いていなかった経営者は、市場がゼロ%成長になると、自社はマイナス成長に転落して慌てることになりました。

 

だが、市場の拡大に乗じて経営する手法しか知らない社長に、市場の成長を上回る自社の成長を成し遂げた経験はないし、知識も能力もないというのが残酷な現実なのです。

 

ゼロサム・ゲームで安売りに走りデフレを加速した経営者達

市場のパイが増加しなくなったどころか、減少し始めると、ビジネスは限られたパイを他社から奪って自社のものにするというゼロサム・ゲームへと変化しました。

 

しかも、ゼロサム・ゲームに勝つための手段が「安売り」オンリーになったのが、バブル景気崩壊後の日本の企業行動です。

 

限られたパイに対して儲けを削って安売りを行えば、その市場の儲けの総和は当然に減少します。

 

そのうち必要なモノを安く手に入れ終わった消費者が、「どんなに安くても、必要がないモノは要りません」という状態になったことで、デフレが加速しました。

 

多くの企業は、「デフレだからモノが売れない」と考えていますが、それは順逆が違います。必要がないからモノを買わないだけです。

 

しかもデフレを長引かせている責任の一端を担っている企業の数は、驚くほど多い。

 

経営者自身が、デフレの被害者ではなく、むしろデフレの加害者であるという認識を持たない限り、アベノミクスがあろうがなかろうが、この長いトンネルから抜け出すことは難しいでしょう。

 

自ら価値の創出が出来るかどうかで決まる経営者の手腕

そのうえで、日本経済というβが期待できない場では、αとしての「経営者の手腕」が剝きだしで問われる時代になったという痛烈な認識を全ての経営者が持つ必要があります。

 

もちろん、この事実に早々に気付いて経営者としての研鑽を積み増している方も少なからずいます。

 

しかし残念ながら、MBAを取得しようが、企業風土改革をしようが、ICTを導入しようが、期待を上回る効果を得られていないはずです。なぜなら、それらは対処療法に過ぎないから。

 

どこまで行っても、顧客の財布の中身を他社から奪うために何をするかという発想を持っている限り、ゼロサム・ゲームから脱出することはできません。

 

奪い合いの思想から価値の創出をいかに行うかという考え方にパラダイムシフトすることが、経営者の手腕としてのα値を上げるための必須の条件なのです。