毎年決算書を作る意味とはなにか?

会社経営をしていれば、ほぼ100%税理士さんと顧問契約を行って、毎月何万円かの顧問料と年に一度6ヶ月前後の決算費用を支払っています。

 

年間でざっと見積もって数十万円は下らない金額になるでしょう。

 

そこで、私は経営者の方によくこんな質問をします。

 

「何のために毎年費用をかけて決算書を作っているんですか?」

 

 

この質問に対して即座に回答が出来ずに、口ごもる方も少なからずいますが、最終的に出てくる答えは大きく分けて次の2つのパターンに収束します。

 

A 税金を支払うため
B 経営の実態を数字で把握するため

 

でも、決算書を作る意味は、本当にこの2つの理由なのでしょうか? あるいは、決算書は本当にこの2つの目的を達成するために役に立っているのでしょうか?

 

残念ながら、決算書はこの2つの目的のために役立っていません。

 

驚くほど少ない継続黒字企業

先日、必要があって企業データについて調べました。条件は、未上場・売上高10~100億円・3期連続黒字・全国・全業種です。

 

結果は、約32,000社でした。

 

国税庁が今年8月に発表した情報によると、2013年度内に決算期を迎え、今年7月末までに税務申告した法人のうち、黒字申告の割合は前年度を1.7ポイント上回り29.1%でした。しかし、それは単年度の黒字企業の割合でしょう。

 

そこに3期連続黒字という条件を加えると、売上規模や未上場という制限があるにしても、全国277万1,000法人を母数とするなら、32,000という法人数は1.1%という割合まで減少することになります。ちなみに、上場企業数は約3,500社、リスクモンスターが2013年6月に発表した資料によると売上高100億円超の企業数は約13,500社です。

 

つまり、継続して黒字を計上している企業は1%強で、残りの99%弱は毎期黒字とは限らないということになります。

 

そうなると、毎年決算書を作る理由A「税金を支払うため」はおかしな話です。むしろ「税金を支払わないため」に決算書を作っているが実態ではないでしょうか。

 

しかし、その実態も宜(むべ)なるかなと思います。なぜなら、多くの中小企業は、節税のために法人を設立しているからです。

 

平成20年度「会社標本調査結果」によると、1,000万円~2,000万円未満の資本金額の法人割合が87.8%を占めています。

 

実際のところ1,000万円~2,000万円未満法人のほとんどが1,000万円法人だと推察されるので、法人全体の8割以上が節税目的の1,000万円法人ということになります。

 

1992年に廃止された個人事業主向けの「みなし法人課税制度」の廃止が背景としてありますが、とにかく節税目的で法人を設立すれば当然、年間利益額を予測して、その利益がゼロに限りなく近付くように役員報酬の額を設定する経営者が多いくなります。事実、税理士さんもそのように指導している方が多いのではないでしょうか。

 

残念ながら、このように事情で出来上がった決算書を分析する意味はありません。

 

そもそも、経営者自身が事業の採算性について適切な把握が出来ていないことが多いのです。

 

残念!その数字を見ても経営実態は把握できない

結果的に支払っていようがいまいが、「税金」を意識して決算をしている限り、そこには税法による実態との乖離が生まれます。

 

厳密に言うと、税率が高いとか低いとか、税法上の取り扱いの是非とかいう税法自体が問題なのではなく、税金を計算するための基準をそのまま中小企業の会計に導入していることに大きな問題があります。

 

そもそも税務会計とは、その文字が表すとおり税金を計算するための会計です。税務会計では、決して企業の経営実態を掴むことは出来ません。

 

ただし税法上、決算書を税金を計算するための基準だけで作成することを強制していません。企業には税務会計とは別に独自の経営実績の計算を求めています。

 

そのために、法人税は「法人税申告書別表4」で税務調整計算をするようになっています。

 

しかし、中小企業のほとんどは「法人税申告書別表4」による税務調整を実質的に行っていません。なぜなら、税法基準によって決算書を作成しているからです。

 

税法基準で決算書を作成することで、経営実態と乖離する原因は6つあります。

 

  1. 減価償却資産の耐用年数
  2. 一括償却資産の存在
  3. 貸倒損失の計上基準
  4. 繰延資産の存在
  5. 棚卸資産の評価基準
  6. 遊休資産の評価基準

減価償却資産の耐用年数について、ある外食業を営む企業の資産台帳を元に考えてみましょう。

 

この資産台帳は税法の定める耐用年数によって作られてますが、ある店舗の建物が20年、空調設備が15年という耐用年数で減価償却を行っています。

 

この店舗は、オープンして6年経ちますが、今年から繰延資産として計上されていた開業費の償却も終わり、毎月儲けがコンスタントに出ています。

 

しかし、設備の痛みが目立ち始め、2年以内に大幅なリニューアルが必要だという経営判断をしています。

 

はたして、この店舗は儲かっていると言えるのでしょうか。

 

もし、5年で建物や空調設備の減価償却を行っていたら採算性が極めて低い可能性が出てきます。

 

このように減価償却資産の耐用年数は、企業の利益額に大きな影響を与えますが、税務上の耐用年数は間違いなく実際の耐用年数より長く設定されています。

 

課税側の立場で考えれば、耐用年数を長めに定めることは当然です。なぜなら、その方が所得を大きくしてより多くの税金を徴収できるから。

 

減価償却資産の耐用年数以外の他の5つの原因についても、税法が定めるところは損や経費はなるべく認めずに、なるべく多くの利益(税法では所得)が上がる方向で決められています。

 

つまり、税法基準によって作成された決算書や月次試算表などを見たところで、経営実態を正確に把握することは不可能なのです。

 

さらに税法基準による会計という問題に加えて、前項で述べた節税目的で役員報酬を過大に計上している中小企業特有のバイアスがかかった決算書をベースにして、経営分析やら財務分析をしても実態把握には役立たないことが多いのです。

 

事業計画における利益をどう算定しているか

税理士や経営コンサルタントなどの専門家の多くは、事業計画(あるいは経営計画)の重要性を主張します。

 

しかし、事業計画を策定する際に重要なことは、利益をどのように算定しどのようにモニターするかという最も基本的方針の部分にあるはずです。

 

それにも関わらず、税法基準で作成された決算書の数字をベースにした投資計画(税法基準による償却年数を採用)で採算性を計算する意味があるでしょうか。

 

決算書は過去の結果を表しているに過ぎず、1年も前の事実をトレースしていることに価値はないという厳しい意見があります、税法基準とは異なる経営者の意思が反映された基準をもとに算定された決算書であれば意味があります。

 

同様に、事業計画も無いより有った方が良いという次元に留まらずに、意思を持った企業の未来像を描くにあたっては、数字によって語られる青写真は間違いなくあった方がいいでしょう。

 

そのためには、経営者自身の意思を反映した評価基準を持った事業計画である必要があります。

 

しかし、多くの経営者は、自社の会計に対して意思を持っていません。

 

将来のビジネスに対するビジョンは描いていても、将来のバランス・シートに対するビジョンを描いている経営者がどれだけいるでしょうか。

 

税法を基準とした決算書を財務分析したり投資計画を策定しても、そこには経営者としての意思はないがゆえに意味がありません。

 

財務分析をしたところで業界の平均値を基準として自社を評価するだけでは、データを集めればそこに何か答が見えるはずだと考える意思なき経営に過ぎません。

 

財務分析とは、目指すべきバランス・シートの形とそれを可能にするための損益計算書を自ら定義し、それを基準として行ってこそはじめて意味が出てくるものです。

 

同様に、事業計画とは売上高と利益額の予測をするものではありません。ストーリーとしてのビジネスシナリオが存在し、同時に目指すべき財務体質を実現するための具体的施策が含まれている必要があります。

 

つまり、経営者としての意思があってこそ財務分析も事業計画もその真価を発揮するものなのです。

 

最後に

動的安定経営においては、経営の実態把握と将来的な企業像を描くにあたって、その企業独自の会計基準づくりを必ず行います。なぜなら、これからの経営とは意思を持って行うべきものだからです。

 

経営者の方は、自社の決算書を見て「法人税申告書別表4」にて所得額の調整を行っているかどうか、先ずは確認してください。

 

もし、決算書の利益≒税額計算上の所得であるなら、経営の実態把握が出来ていないうえに意思を持った企業の未来像も描けないという意味において、極めて危険な状況です。

 

今現在好調だとしても、果たしてその儲けは本当の儲けでしょうか。

 

多くの場合、薄氷の儲けなのです。

 

だから、好調を経験した企業ほど、成功体験が足かせとなって転落が早くなるのです。