1 ご存じのガリバーインターナショナル

20013年11月19日付けの東洋経済オンラインにで目を引く記事があった。

ガリバー、中古車“巨人”の大勝負 - 卸専業から小売り、海外へ

 

記事の内容は2つのポイントに要約される。

  • ガリバーが中古車の小売に力を入れ始めている。
  • 海外へ初めて進出する。

 

上記2つの方針をとる理由が、もちろん記事の中に書かれている。少し長くなるが、記事をそのまま引用すると、こう書かれている。

 

中古車の買い取りを主軸に業容拡大してきたガリバーは、全国各地に店舗ネットワークを展開、圧倒的な買い取り台数を確保し、中古車オークションを中心に卸売りすることで業績を伸ばしてきた。

 

だが、リーマンショック以降、業績が振るわない。国内新車市場の縮小傾向に伴い、買い取り台数は頭打ちの状況が続く。今後、人口が減少する国内において卸売りだけで成長するには限界が見えてきた。

 

卸売り依存の弱みが露呈したのが、自動車市場を押し上げたエコカー補助金導入後の収益悪化だ。

 

補助金で販売競争が過熱した新車ディーラーは、拡販施策として、実質的に値引きとなる中古車買い取り価格の引き上げを相次いで実施。その結果、市中の取引価格も上昇し、ガリバーのような中古車専門店も買い取り価格を上げざるをえなくなり、利益が急速に悪化した。

 

卸売り依存からの脱却を図る一手が「WOW!TOWN」などの小売り事業の強化だ。もともと消費者に直接販売する小売りは卸売りに比べ、一台当たりの粗利が2~3倍と大きい。

 

さらに小売り強化によって、車両整備や車検、自動車保険の販売などの収益機会も増える。中古車の買い替えにつなげる狙いもある。

 

「9割以上の中古車店は小売りからスタートする。19年前の創業時に決めたのは、中古車が生まれる川上をしっかり押さえて、川下である小売りに行こうということ。ようやく攻めの段階に入る状況が整った」と創業二代目の羽鳥裕介社長は言う。

 

ガリバーは17年度末に中古車小売りの年間販売目標を40万台(12年度は5.4万台)まで引き上げる目標を掲げる。国内店舗網は約2倍の800店まで拡大する計画だ。 

 

 

初の海外進出をタイで行う理由は、以下のとおりの記載がある。

 

「一定数の新車市場があることが中古車事業を展開する必要条件。新車販売が年間100万台以上のタイは安定的な市場として魅力的。所得水準から見て、最初の進出先はタイと決めていた」(許哲・執行役員)

 

13年に入り、タイでは新車購入時の優遇措置が昨年末に終了し新車販売が低迷している。が、「これまでタイは新車を並べれば売れていたが足元の販売は厳しいようだ。中古車事業をどう手掛けるかという声が現地ディーラーから出始めている。そんな今だからこそ、進出すべきと決断した」と羽鳥社長は強調する。

 

ASEANでも、将来的には小売り店舗も検討するが、まずは買い取りに専念し、中古車の調達力確保に力を注ぐ。

 

 

その後もガリバーの動向には注意を払っていたが、2014年7月14日付けで同じく東洋経済オンラインにて、以下の記事が掲載された。

ガリバーが挑むビッグデータ事業の関門 「LINE」を活用し新たなサービスを開始

 

今流行のビッグデータを利用した自動車関連の新しいビジネスモデルを作りたいとのことだが、具体的に何をするのかについては、この記事にこう書かれている。

 

同社での中古車購入者を対象に、走行データなどを集める装置(1万8000円相当)を販売し、車にある故障診断機能を備えた端子に装置を付け、無線通信でユーザーが持つスマホに情報を転送し、そこからスマホの通信機能を使ってガリバーのサーバーに情報をアップする。走行距離や走行時間、スピード、燃費、ガソリン残量やバッテリーの状態などに加え、スマホの位置情報も収集してサービスに生かす。

 

提供する具体的なサービスは、ショッピングモールなどの広い駐車場で自分の車の駐車場所がわからなくなったときに停めた位置を示したり、燃料残量と走行可能距離などを表示するというもの。ほかにも、バッテリーの電圧異常といったトラブルを自動検知して、ユーザーに知らせる機能も取りそろえている。サービスのやり取りはスマホの無料アプリ「LINE」を使う。利用料は月500円、2年利用を条件に無料で装置を提供する。

 

月間利用料は装置のコストなどを賄うために徴収するが、それで稼ぐことが主な目的ではない。自動車に関連するさまざまなデータを蓄積し、ユーザーとの関係を深めることで、収益につなげていくことが最大の狙いだ。まず、見込んでいるのが既存ビジネスへの波及効果。たとえば、車の使用状況データを蓄積することで、ユーザーが乗り換えるときの再買い取り時の査定精度を向上させる。ユーザーとの接点を継続することで、乗り換え時期の告知を行い、買い換え時のガリバーの利用を促すほか、車検や保険の更新需要も取り込む狙いだ。

 

自社での情報利用だけでなく、データのオープン化も視野に入れている。走行データを活用することで、保険会社やガソリンスタンドを運営する石油会社、飲食店、娯楽施設などと連携し、送客手数料や決済手数料のような形で提携先の事業者に課金するモデルも検討中だ。

 

普通に読めば、外部状況の変化に対応して合理的な戦略変更をしたという内容である。特別驚く話ではない。

 

しかし、実際には相当にサプライズする話だ。

 

2 『ストーリーとしての競争戦略』で取り上げられていたガリバー

2010年に出版され評判になった『ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)』という本がある。

 

この本の第6章「戦略ストーリーを読解する」において、名作戦略ストーリーとして紹介されている企業こそが、ガリバーインターナショナルだ。

 

第6章の冒頭で、ガリバーはこのように評されている。

 

マブチモーター、サウスウエスト航空、スターバックスコーヒーといった企業の戦略ストーリーは、いずれも「戦略ストーリーの殿堂」に入る秀逸な作品です。

 

ガリバーインターナショナルの戦略ストーリーは、こうしたクラシックとでもいうべき戦略ストーリーに比肩する「名作」で、間違いなく「殿堂入り」に値すると思います。

 

 

この本の詳しい説明は省くが、著者は戦略をストーリーとして仕立てることの有用性を主張している。

 

その戦略ストーリーを組み立てる柱として次の5Cをあげている。

 

競争優位(Competitive Advantage)

ストーリーの「結」・・・・・利益創出の最終的な論理

コンセプト(Concept)

 

ストーリーの「起」・・・・・本質的な顧客価値の定義

構成要素(Components)

 

ストーリーの「承」・・・・・競合他社との「違い」

クリティカル・コア(Criticl Core)

 

ストーリーの「転」・・・・・独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素

一貫性(Consistency)

 

ストーリーの評価基準・・・・構成要素をつなぐ因果関係

 

 

そして、ガリバーの戦略ストーリーにおける5Cについて、このような読解をしている。

 

競争優位とコンセプト

消費者からは中古車を買取専門とするコンセプトをとり、オークションを通じて他の中古車業者に卸売することで、コストとリスクから解放された。つまり、競争優位は「低コスト」にある。

 

「買取専門」のコンセプトを低コストに繋げるために、「小売をしない」「一定期間以上の在庫は持たない」「業界経験者をフランチャイジーにしない」などの様々な策をとった。

 

クリティカル・コア

「買取専門」に特化したこと。この一見不合理に見える方針が、ガリバーの競争戦略のキラーパスとなっている。

 

ストーリーの一貫性

 「買取専門」というクリティカル・コアを磨き上げるために複数の構成要素があること(=太さ)、そして、すべての構成要素が「低コスト」という競争優位を強化し、構成要素間に有機的な繋がりがあり将来に向けた拡張性を持っている(=長い)。

 

 

このように、『ストーリーとしての競争戦略』においては、ガリバーが行って来た競争戦略を「ストーリー性が高い」という著者の視点から、べた褒めに近い評価をしている。

 

3 ガリバーから「ストーリーとしての競争戦略」が失われた

東洋経済オンラインの記事と、『ストーリーとしての競争戦略』で成功事例として取り上げられているガリバーの戦略を比較すれば、誰でも気付くことがあるはずだ。

 

ガリバーは、これまでの快進撃を支えてきた戦略ストーリーの中で「買取専門」というクリティカル・コアとしてのコンセプトを捨てて、他の中古車業者と同じく小売に力を入れることで利益確保を図ることにしたことを、東洋経済オンラインの記事は伝えている。

 

ストーリーとしての競争戦略においては、一貫性に重きを置いていることから分かるとおり、期待する結果が出なくなったからといって、不具合を起こしている場所を探して、そこを治療すれば元通りになるとは考えない。

 

ましてやクリティカル・コアを正反対に変更して成り立つ戦略などありえないことは、主人公を変更しては物語が成り立たないのと同じことだ。

 

ただし、ここで言いたいことは、ガリバーが今回行った戦略変更の内容の是非ではない。「ストーリーとしての競争戦略」という考え方に、同書が主張するほどの有用性がないかもしれないという疑義を呈したい。

 

4 ベスト・プラクティスへの後付け論理を脱していない

『ストーリーとしての競争戦略』の第一章「戦略はストーリー」の中で、著者は従来の戦略論がベスト・プラクティス(成功事例)から教訓を引き出すだけに留まっている点を批判している。

 

業界を含めた外部環境や人材を代表とする内部環境が異なる企業に、ベスト・プラクティスから引き出した教訓を適用したところで役に立たないことは、同書の指摘を待つまでもなく自明であろう。

 

ではなぜ著者は、「ストーリーとしての競争戦略」という考え方にこだわるのか。その理由をこう語っている。

 

何よりも、ストーリーとしての視点は、戦略をつくる仕事を面白くします。戦略をストーリーとして考え、組み立てるということは、そもそも創造的で、楽しい仕事です。

 

 

つまり、「ストーリーとしての競争戦略」は成功事例の分析手法ではなく、新たな戦略構築の視点として役立つことを主張している。

 

学者ではなく経営実務者にとっては、必要条件ではなく十分条件に過ぎない成功事例の分析結果を知ることよりも、持続的優位性を持つ競争戦略の立て方を誰でも知りたいはずだ。

 

そこで、同書では持続的成功を収めている企業には、戦略の中味ではなく、戦略の立て方に共通したストーリー性があることを解き明かしたので、それが何かを教えようという趣旨で書かれている。

 

しかし、同書で取り上げられている各企業の経営者が、著者が主張しているような手法に等しく則って戦略を考えているとは思えないことは、最初に通読した際に感じたことである。

 

戦略の「中味」から「立て方」に焦点が移っているだけで、ベスト・プラクティスに対して後付けで理論を被せたという点は変わっていない。

 

その証左の一つが、ガリバーが昨年からの一連の動きの中で、クリティカル・コアを捨てるような戦略の大転換を行っている事実ではないだろうか。

 

ストーリーとして戦略を策定出来る能力を有しているなら、他の中古車会社が伝統的に採用している小売にシフトするというコンセプトは絶対に出てくるはずがない。

 

なぜなら、同書において「模倣自体が差異を増幅する」として、こう書いてある。

 

優れた戦略ストーリーの競争優位が長期の持続性を持つ理由は、その企業の模倣を困難にする障壁があるというよりも、(中略)追いつこうとする企業が戦略を模倣しようとする結果、自滅していくからではないか。(中略)場当たり的に戦略を模倣しても、(中略)戦略は不全をきたし、かえてちぐはぐなことになります。「聡明にして間抜け」というわけです。これまでの戦略の一貫性や強みも破壊され、パフォーマンス低下の憂き目に遭うという成り行きです。

 

 

著者の上記の主張には、私も全面的に同意する。

 

5 『ストーリーとしての競争戦略』が見落としていたもの

ガリバーが、「買取専門」という特異なコンセプトを捨てて、競争という観点からは優位性を持たない他社と横並びの小売に注力する戦略の大転換を図るハメになった背景には、当然業績悪化がある。

 

業績悪化という現実は、採用している戦略が通用しなくなった結果を意味する以上、戦略の変更を行う必要が認識されることは当たり前だろう。

 

では、なぜ業績が悪化したかというと、その理由は東洋経済オンラインの記事の中に見てとれる。

 

リーマンショック後、国内新車市場の縮小傾向に伴い、買い取り台数は頭打ちの状況が続く。今後、人口が減少する国内において卸売りだけで成長するには限界が見えてきた。

 

卸売り依存の弱みが露呈したのが、自動車市場を押し上げたエコカー補助金導入後の収益悪化だ。

 

 

つまり、ガリバーが書き上げた「競争ストーリー」が前提としていた外部環境が変化したために、想定していた通りに物語りが進まなくなったわけだ。

 

戦略でも政策でも単なる方針でも同じことだが、何かを決める際には、想定している外部環境というものがある。そして、自らコントロール出来ない変数としての外部環境が変化した場合のバックアップ案を包括していることが、筋の良い戦略と言える。

 

しかし、『ストーリーとしての競争戦略』においては、外部環境の変化についてこう語っている。

 

戦略とは将来や世の中や環境が「こうなるだろう」(だからそれに適応しよう)という予測ではありません。自分たちが世の中を「こうしよう」という主体的な意図の表明です。

 

羽島さんにとって、中古車業界の将来は、予測の対象となるような外部要因ではなく、自らつくり上げるべきものでした。戦略ストーリーはそのための設計図なのです。

 

 

企業の将来を予測するのではなく、意思を持って描こうというスタンスは、私が提唱している動的安定経営の中核をなす考え方で、大いに同意する考え方である。

 

しかし、「ビックデータを活用して新たな自動車ビジネスモデルを作りたい」という現在のガリバーの考え方に意思はなく、情報をかき集めればそこに何かが見えてくるのではないかという予測と成り行きの姿勢が現れている。

 

 6 戦略とストーリーに真に不可欠なものとは

同書で語られている外部要因のとらえ方は、言葉としては美しいが、何かが違う。この違和感を生み出す原因として、大きく2つのポイントが考えられる。

 

一つ目は、「戦略」と「ストーリー」という言葉の定義を曖昧なままに話を展開していることである。

 

ストーリー仕立てになっているかどうかは別にして、企業が競争市場でどのようなオペレーションをするか、あるいはステークホルダー(利害関係者)に対してどのように価値創造を図るかを表すものは、戦略ではなくビジネスモデルだ。

 

企業がどの市場でどのように競争していくのか、すでに選択している以上、そこで語られていることは、戦略を映し出しているが戦略ではない。それはビジネスモデルという。

 

戦略とは独自の価値あるポジションを築くための、他者とは一線を画する活動を含む計画のことを指す。同時に、戦略とはどのビジネスモデルを使うかに関するコンティンジェンシー・プラン(不測事態対応計画)と言える。ここにおけるキーワードは「不測の事態」だ。

 

実際に起きるかどうかに関わらず、戦略には一連の不測の事態(たとえば、競争相手の動き、突発的な法規制など)に対抗する規定が含まれている(と言うか、含まれている必要がある)。

 

どの組織も商活動を行っている以上、ビジネスモデルは持っているが、必ずしも戦略(起こりうる不測の事態に対する行動計画)があるわけではない。

 

そういう意味では、『ストーリーとしての競争戦略』で取り上げられているガリバーの「戦略」とは、本来「ビジネスモデル」だ。

 

二つ目は、外部要因の変化に対応する計画を事前に持っていなかったという意味で、そもそも「戦略」が不在だったということだ。

 

「本当のストーリー」とは「ストーリー仕立て」とは異なり、「戦略」や「戦術」や「ビジネスモデル」の中で語られるものではない。

 

どのような「戦略」を取ろうが変わらないより高位にある「理念」や「ビジョン」として語られる「お話」だろう。

 

今回、「買取専門」の表看板を捨てて小売にも積極的に進出することになったガリバーを紡ぐ「ストーリー」は何なのだろうか? その答は『ストーリーとしての競争戦略』の本の中にも東洋経済オンラインの記事の中にも見当たらない。

 

7 最後に

外部環境の変化が早く、しかもドラスティックな変化が起こる可能性が高いこれからの企業経営において、コンティンジェンシー・プランとしての戦略を立てることは不可欠であろう。

 

同時に、企業が持続的存続・成長を図るためには、手段や方法どころか事業分野まで変化していくことが求められるが、企業としてのアイデンティティを維持するために「何のために」あるいは「何を実現するために」につい書かれた豊かな「ストーリー」持った企業だけが生き残って行けるはずだ。

 

そのために、企業に必要なものは「ストーリーとしての競争戦略」以上に「ストーリーから生まれた競争戦略」ではないだろうか。

 

動的安定経営とは、まさにストーリーとしての競争戦略を基軸とした経営ではなく、真のストーリーから生まれた競争を越えたメタ競争戦略を基軸とした経営を実現することを目的としている。

 

現在好調な企業の経営者も、自社にどのような豊かなストーリーがあるのか問いただしてもらいたい。

 

<追記>2016/08/04

株式会社ガリバーインターナショナルは、中古車小売事業を拡大するために、2016年7月15日に株式会社IDOMへ社名変更をした。

参考リンク▼

商号変更及び定款の一部変更に関するお知らせ

なお、中古車買取りのブランド名としての「ガリバー」は、商号変更後も使用する。