規模の利益の喪失

外食産業の注目株「いきなり!ステーキ」は、積極的な出店攻勢をかけ、数年で500店弱まで店舗数を拡大させたが、ここに来て成長に急ブレーキがかかり始めている。(2019年9月時点)

既存店で売上高の前年割れが続く中、新規出店を強引に続けることで増収を維持してきたが、19年8月既存店売上高は65%の水準まで落ち込み、全店売上高が初めて前年割れの95%となった。その原因として、過剰出店と類似業態の新規参入増加が指摘されている。

「いきなり!ステーキ」を他山の石として、観光業が未来の経営に活かすべき学びの一つは、「規模の経済」の弱体化だ。

業績の維持発展のために新規事業の開拓は不可欠だが、あなたの会社が幸運にも金鉱を探り当てるや否や、業界の誰もがそれを真似しようと動き始める。特許に守られた技術や暗黙知が核心となる新ビジネスの場合、競合がその秘伝のソースを解明するのには何年もかかるが、単に着眼点の空白を突いただけの低いハードルしか設定できない場合、何カ月も経たずして差別化の効果が薄れ、コモディティ同士の価格競争になり下がる。

こうした泥仕合を避けるために、規模による優位性は一部の企業に少しだけ安全な避難場所を提供し、次の成功サイクルを模索し続ける中で、先見の明ではなく規模の活用によって利益を追求することを可能としていた。しかし、消費者の飽きの早さと相まって、差別化要因が陳腐化するスピードが加速したことで、規模の経済による利益獲得が難しくなった。

したがって、経営者は、特に新規事業を構想するにあたり、最大であることに依存しない戦略を立てる必要がある。ただし、差別化の効果が持続し規模の経済が生み出されない環境において、戦略が目指すゴールは当然変化することなる。

これまで戦略は、先ず競争優位を確立することを目的とし、次に確立された競争優位を維持し続けることを目的としてきたが、今後は一時的な競争優位を繰り返し生み出すための新たな戦略シナリオが必要になる。

例えば組織については、業績が悪化してから極端な人員削減と業務再編を行うのではなく、継続的な変革と再編を行う。エース級の人材をいま金のなる木に投入せず、次の一手のために機動的に配置するなどの変化が必要だろう。

また、新規事業においては、ビジネスモデルの賞味期間を設定し、最初から撤退の基準と手続きを明確化しておく計画策定が必要になる。また、予測志向から仮説志向、正味現在価値(NPV)志向からオプヨン志向への転換などが求められるだろう。

将来の経営においては、「一時的なものを持続的なものと勘違いする」ことなく、危機の出現前に継続的に経営資源を組み替え、新たなビジネスチャンスに迅速に適応する経営基盤を持つことが生き残りのために不可欠になるのだ。

※ 本記事は、『週刊トラベルジャーナル』2019年9月16日号に寄稿した連載コラム「観光経営の未来シナリオ」の記事をベースに一部加筆修正をしたものです。