伝統的な考え方を捨てる

現在日本では、多くの業種において人手不足が重要な経営課題となっているが、観光業も例外ではない。だが人手不足という状況は外部要因に過ぎない。経営者はコントロール可能な自社内の課題に置き替えていくが必要がある。

典型的な旅行代理店の損益モデルは、売上高100営業収益10経費が9.5(内半分が人件費)最終利益0.5で示すことができる。観光業とは、低収益で労働集約性が高いビジネスの代表であることがわかる。

それを裏付けるように、2018年東洋経済が発表した64業界別40歳モデル平均年収ランキング*1で、旅行業は前年から11段階落ちた52位となっている。低収益かつ労働集約型のビジネスには給料を引き上げる余地がないため当然の結果だ。したがって、旅行会社の多くは、人を投資対象ではなく削減すべきコストと見なしているのだが、この努力の先に明るい未来はないだろう。

そこでいま経営者に問われていることは、人手不足とは関係なく、つぎのような当然とされてきた伝統的な考え方を捨て去る決断ができるかどうかなのだ。

  • 最安値を提示すれば最大のシェアを獲得できる。
  • 最も低賃金で従業員を雇用すれば利益を極大化できる。
  • 最も生産性が高ければ競争優位を強化できる。

新たな視点に立てば、世の中全体で人手不足なのだから、必要な人数を確保できない、優秀な人が来ないという結論にはならず、働き手から見て低い旅行業の魅力をいかに引き上げていくかという課題に置き換わるはずだ。

人手不足と言いながら、応募者が殺到している会社や業種が存在している状況を見れば、将来に向けて旅行会社が求める人材は、現在ほかの仕事を選択している人の中に求めるしかないだろう。

その意味で、効率化を推進し生産性を高めることは、就業時間の短縮につながりホワイトな労働環境を実現するために不可欠である。しかし、AIやRPAを活用した業務のプロセス改善はゴールではない。人間を排した機械化でコストが低下することで、つかの間の利益は生まれるが、ライバルとの競争を続ける限り価格の下げ圧力は弱まらず、最終的に利益増には繋がらない。

また、そもそも自動化や効率化を可能にする源は利益であるため、全ての会社の解決策にはなり得ない。重要なことは、人をルーティン業務から開放して、ゼロからイチを生み出すような付加価値を創造する仕事に就けることだ。

ただし、その仕事を行える人材は、残念ながら社内にいない可能性が高い。その手の優秀な人材は、好待遇で外部から引き寄せるしかないのだが、仮に高給を保証したとしても、企業風土や文化が旧態依然としていれば、長居をせずに去ることになる。

引く手あまたの人材は我慢をしてまで仕事をする動機がないからだ。このように、本気で周囲を巻き込む経営の未来シナリオを描くことは、経営者が持つ世界観、仕事観、人材観にコペルニクス的転回を迫るタフな取り組みなのだ。

*1  https://toyokeizai.net/articles/-/240069

※ 本記事は、『週刊トラベルジャーナル』2019年5月20日号に寄稿した連載コラム「観光経営の未来シナリオ」の記事をベースに一部加筆修正をしたものです。