1 事業承継ファンドが流行っている

最近のニュースを見ていると、金融機関や商社が事業承継ファンドへ出資したという記事が目に付く。

 

個人的には非常に違和感を持つ記事なのだが、そもそも事業承継ファンドは何を目的にしているのだろう。

 

そのことが一番分かりやすく書いてあるのは中小企業庁のページだ。以下、中小企業庁の該当ページの引用。

 

後継者不在等の事業承継問題により新たな事業展開が困難となっている中小企業は、新事業展開を通じた経営の向上を図ることを目的とするファンドによる資金供給や販路拡大等、踏み込んだ経営支援を受けることができます。

 

<対象となる方>
優れた技術やノウハウをもっているが、後継者不在等の事業承継問題を抱え、新商品の開発、新事業の開拓等、新たな事業展開が困難となっている中小企業の方

 

<支援内容>
目利き能力や販路ネットワークを有する民間の投資会社等が運営するファンドに対して、中小企業基盤整備機構(中小機構)が出資(ファンド総額の1/2以内)を行うことで、後継者不在等の問題に悩む中小企業への投資機会の拡大を図っています。

 

これらのファンドを運営する投資会社の審査を通過すれば、オーナー経営者等からの株式取得による経営権の取得、各種手法による事業資金の供給、無限責任組合員による経営面での支援、各支部を活用した中小機構による各種支援等、販路拡大等の踏み込んだ経営支援(ハンズオン支援)を受けることができます。

 

後継者不在により、現経営者が引退したり亡くなったりしたあとに事業の継続が難しくなることはおおいにありえることだ。

 

しかし、後継者不在の問題が、果たして金で解決することなのか訝しむことしきりである。

 

オーナー経営者にとってみれば、ファンドが手持ちの株式の売却先になってくれれば、悠々自適な引退生活に入りやすくなるメリットはあるだろう。

 

でも、企業側としては、ハンズオン支援なんて受けてありがたいとは思えない。

 

ファンドが手配した何とかコンサルタントのような人が突然現れて、あーだこーだ言うのだろうが、それで企業が変わるのなら、今までいた経営者が無能だったということの証にしかならないし、企業変革に取り組む時期は、いずれにしたって事業承継よりもっと早い段階のはずだ。

 

だいたいにおいて、「新たな経営者が誰か」がもっとも重要なことで、そこはファンドが肩代わり出来る類のものではない。

 

2 後継者不在は中小企業の7割弱が抱える問題

事業承継において後継者不在は、一番大きな問題だ。2011年の帝国データバンクの調査によれば、国内企業の2/3にあたる65.9%が後継者不在だとしている。

 

なぜ、これほど多くの中小企業が後継者不在になるのだろうか。それは、現経営者が同族承継をしようと考えているからだ。そのため、子供が生まれれば年端もいかない頃から「将来会社を継げ」というような刷り込みを行う社長が多い。

 

でも、人間は強制されれば反発したくなるのが常で、子供の頃から後継ぎというアイデンティティを与えられると、自分らしい自由な人生を選びたくなるものだ。

 

結果的に、後継ぎとして教育にも十二分に金をかけられた子供は、優秀であれああるほど一流企業に就職したり、医者や弁護士を目指したりするケースが多発する。そして、親の思惑通りに自分の会社へ入る子供は、できの悪いどら息子ばかりということになる。

 

ここまで決めつけた言い方をするには理由がある。それは、私自身が二代目経営者だったうえに、大学時代の同期に跡取り息子が多かったという背景があるため、後継者の心理について知るところが多いからだ。

 

だから後継者不在問題の多くは、「息子(娘)が会社を継ぐ気がないので」という枕詞とともに語られることになる。なまじ同族承継なんて考えているから、後継者育成という時間も手間もかかる現経営者の責務の中で最も重要なことが、等閑にされているのだ。

 

そして、当てにしていた子供からそっぽを向かれると、後継者不在という重大な問題に直面することになる。

 

3 そももそ同族承継を考えるのをやめるべき

そこで思うんだが、一層のこと中小企業でも同族承継を最初から考えるのを止めた方がいい。

 

最近、日本を褒めそやすテーマの一つとして、世界的に見て老舗企業が多い国だという風説がある。

 

この主張の根拠になっているのが、韓国銀行が2008年5月に発表した「日本企業の長寿要因および示唆点」と題する報告書において、世界中で創業200年以上の企業は5,586社(合計41カ国)あり、このうち半分以上の3,146社が日本に集中しているという調査結果だ。

 

この調査結果は正しいとして、日本に老舗企業が多い理由はなんであろうか?

 

その答は、同族承継に拘らなかったからであろう。より厳密に言うと、基本的に同族承継を考えていたが、現在のやり方とは異なっていた。江戸時代の商家の考え方は、無条件に男系子息に経営を引き継ぐのではなく、最も優秀な番頭と娘を婚姻させることで、血統の永続性と経営の手腕を担保するという一粒で二度美味しいものであった。

 

冷静になって考えてみれば、古の商人の視点は合理的で現実的なものだと思う。家とか血の系譜は引き継ぎたいが、企業の持続性を高めるためには優秀な経営者が必要である。そのためには、息子に必ず経営を引き継ぐことに拘ることは、息子が常に優秀な経営者としての資質を持っている保証がない以上、危険である。

 

だからこそ、血の系譜の存続は娘に託し、経営の手腕は外部調達するという、現代風に言い替えると、資本と経営の分離をする発想がすでにあったからこそ、老舗企業になり得たのではないだろうか。

 

社長が自分の息子に会社を継がせたいと考えるようになったのは、大東亜戦争後の僅か70年のことに過ぎない。

 

それでも、世の中全体が、右肩上がりで成長していたり、少なくとももっと安定性が高かった時代は、同族承継を第一にして、結果的にボンクラな息子が後を継いでも何とか会社が存続することができた。

 

しかし、付加価値の低い労働集約的な仕事がどんどん新興国へ流出して、日本の産業全体が情報産業化していく中、大志もなく能力も低い経営者が舵取りする会社は遅かれ早かれ潰れる。

 

経営者に求められる資質が30年前とは比べものにならないほど高度化しているのだから、仮に自分の子供が会社を継ぐと言ったとしても、その器にあらずということがどんどん増えるだろう。

 

だとするなら、最初っから同族承継を考えることをやめて、次世代の経営者は一から見つけ育てるという方針で時間をかけて取り組みするしかない。

 

そんな時間はないというなら、自分一代限りで会社を清算することも意味のある選択肢の一つになるはずだ。

 

後継者が不在ならM&Aでどこかの会社に買ってもらえばいいという考え方も最近の流行だが、特許に守られた技術があるような製造業ならいざ知らず、卸売業とか建設業のような受注型のオールドエコノミーに属する業種では、買ってくれるような会社はないと思った方がいい。

 

最終的には清算する方向で経営をするなら、誰かに言われるまでもなく、無闇に借入金を増やすことも避けるだろうし、退職慰労金を確保するために内部留保の積み上げやオフバランスの資産の積み上げという真っ当な努力を自然とするようになり、かえって経営が健全化するはずだ。

 

とにかく、最近事業承継というテーマは、相続にしろM&Aにしろ出口戦略をどうするかという観点で取り上げられることが多すぎる。

 

それはイコール考えていることが泥縄ということで、もっと早い段階で着手すべき課題であるという本質を忘れているということだ。

 

4 事業承継成功のポイントは選択肢の多さ

事業承継に経営者がもっと早い段階で意識して取り組めば、選択の自由度が高まる。自由度が高いということは、それだけストレスが少なく、しかも選択した方針の成功率が高まるということを意味する。

 

そのうえで、なお結果として同族承継が行われることはあるだろう。でも、おこぼれに預かったわけではない事業承継が行われていれば、企業にとっても前経営者にとっても現経営者にとってもハッピーなはずだ。

 

動的安定経営を実現するにあたり、事業の持続性を考えるとき、事業承継についての基本方針を決めるのだが、事業承継を出口戦略と考えていない以上、時期的に早すぎるということは決してない。