予測以上に大切なものとは

「経営とはなにか?」という問いに対して色々な答えが考えられるが、その一つとして「未来に関わる意思決定をすること」という表現ができるだろう。ただし目前の業務に忙殺されていると、今を乗り切ることが経営であり、浮き足だって先のことなど考えている暇はないと思うかもしれない。

しかし、マネジメントとしてあなたが下す決断は大小を問わず、すべて会社の将来の業績に影響を及ぼす。これは間違いのない事実だ。その意味で、経営とは未来に関する意思決定をすることだと言える。

だからこそ、経営をしていくうえで戦略や計画が重要になるが、「戦略を練る」「計画を立てる」ことが未来を予測することと同義になっている企業が業界を問わず多い。考えているつもりが、つい予測することに頭を使いがちになる。結果的に予測の精度を上げようとすればするほど、将来は現在の延長線上にあるという仮定を置かざるをえない。

当然、予測することの中には競合他社の動きが含まれている。すると、相手がどう出てくるかを踏まえたうえで、自社の動きを決める考え方に流れがちになる。しかし、これでは後手に回って対策を考えているだけで、相手に出し抜かれる心配は減っても差別化は実現出来ない。そこで「未来シナリオ」の存在が必要になってくる。

観光業の中には様々な種類のビジネスが含まれるが、主に旅行会社を中心に焦点を当てていく予定だ。理由は、訪日外国人旅行客が3千万人を超え、一見すると観光業全体が活況を呈しているように見えるが、旅行会社は苦戦を強いられているからだ。

その原因はインバウンド需要が取り込めていないこと、主要市場の国内旅行需要が人口減少と所得の伸び悩みの影響を受けて減退傾向にあることの2つにある。加えて、ICTの発達によるOTAの出現、FITという旅行スタイルの普及により、既存の旅行会社は存在意義が希薄化する厳しい状況に置かれている。

旅行会社のマネジメント層の多くは、「このままではいけない」「変化が必要だ」と思っているはずだろう。しかし、残念ながら多くの会社は簡単には難局を乗り越えることは難しい。

なぜか? 従来通り予測に力点を置いた「未来予想図」を作っただけではブレイクスルーは起きないからだ。予測以上に大切なものは「何をしたいのか」という自らの意思を込めた「未来シナリオ」である。

ただし、未来シナリオはベストプラクティスではないため、たった一つの正解はない。他社の成功事例を参考にするのではなく、観光経営に携わる各社各人が、エクスクルーシブな未来シナリオを描こうと決意するところから第一歩が踏み出される。

未来シナリオという考え方は、最近流行のシナリオ・プランニングとも異なる所があるが、その辺りも含めて次回以降の回で話を展開していく予定だ。

※ 本記事は、『週刊トラベルジャーナル』2019年4月15日号に寄稿した連載コラム「観光経営の未来シナリオ」の記事をベースに一部加筆修正をしたものです。