民泊新法は何をもたらしたか

民泊新法施行後の2つの動き

民泊新法が施行されて約1ヶ月間に起きている世の中の動きには、次の2つの特徴があります。

  1. 既存ホストの民泊運営からの撤退
  2. 大手企業の民泊への新規進出

一つ目については、観光庁が発表した施行日時点の民泊ホストの届出件数が3,728件に留まっている事実が示しています。また、Airbnbの登録物件数も2018年春先の6万2千件をピークに、施工日時点では2万7千件へと大幅に減少しています。

それを裏付ける動きとして、家具の撤去サービス、部屋を賃貸や会議室へと転用を図るサービスなどの民泊からの撤退ビジネスが盛んになっています。

ただし、既存ホストが新法施行を契機に撤退することは想定内の事態です。民泊は都市部を中心に物件数が大幅に増加したことで価格競争が厳しくなり、既に採算性の面でうま味が減少していたからです。

そこに新法施行により、営業日数制限、新たな設備投資、自治体毎の上乗せ規制、届出書類作成の繁雑さが加わることで、多くのホストが撤退の潮時と決断したことは当然の結果と言えます。

既存ホストが撤退する一方で、新法を契機に増える大手企業の民泊進出

民泊新法が施行されるタイミングで、大手企業に以下の動きがあります。

1 パナソニック
パナソニックホームズを通じて簡易宿所の設計・建設から運営までを一括して受託する。

2 住友林業
心斎橋で国家戦略特区を活かし、賃貸マンションを民泊施設に転用した公認民泊マンションを開業した。

3 東武鉄道
東武不動産は、自社の所有建物を改装し、宿泊用の部屋の他、日本独自のナイトライフを体験できる商業テナントを入れた住宅宿泊事業法における家主不在型施設を開業した。

4 ワコール
京都市内で京町家や古民家を借り上げ、簡易宿所に改装する方法で民泊事業に進出し、2020年までに約50施設を展開する。

その他、コンビニ大手三社が店舗を民泊チェックイン場所として活用したり、楽天が仲介サイトを開設したりと、大手企業が民泊をビジネスの一部に取り込む動き増加しています。

大手企業が手掛ける民泊には、簡易宿所と特区民泊に集中している傾向がありますが、その理由は、年間180日の営業日数制限がある住宅宿泊事業法に基づいた施設ではビジネスとして成立しないからです。

善意の個人を閉め出しかねない新法

民泊新法の施行に伴って起きた変化は、法律の目的「国内外からの観光旅客の宿泊に対する需要に的確に対応してこれらの者の来訪及び滞在を促進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の発展に寄与すること」に適っているのでしょうか。

これまでヤミ民泊物件で頻発していた近隣住民とのトラブル発生を防ぐ可能性は高いでしょう。同時に、本来的にはC2Cの世界で展開されていた民泊が、新法の施行によりB2Cのビジネスライクな世界に移行していく圧力が増しています。

とは言うものの、アーリアダプターである初期の民泊ホストは、カルチャーとしての民泊を楽しんでいたが、レイトマジョリティである最近の民泊ホストの多くは、運営業者に丸投げして楽に稼げることが動機へと変わっていたため、ビジネスライク度を高めたのは新法のせいとは言い切れません。

むしろ問題なのは、新法の施行によってカルチャーとして民泊を提供していた善意ある個人ホストまでも閉め出すことになったことです。

新法によって違法民泊は排除されるのか

今後は届出番号を持たない民泊物件は完全に違法になるが、届出件数が極端に低調な状況を見ると、違法物件のまま営業を続けている物件が多数存在することが疑われます。

実際、Airbnbは6月21日に虚偽の届出番号を表示していた数千件を違法として登録抹消しました。こうした状況を見ると、新法の要件充足の厳しさが、民泊物件の適法化を図る以上に、アングラな違法物件を助長する結果を招くことを危惧する声が出てきています。

しかし、その可能性は低いでしょう。なぜなら、民泊の自己集客は難しく、仲介サイトの利用が避けられないため、サイト側が届出番号の精査を継続すれば、違法物件が営業を行うことが難しいから。

ただし、Airbnbや日本企業が運営する仲介サイトでは、適法物件を高精度にフィルタリングする努力を期待できますが、実は勢力を伸ばしている中華系の仲介サイトに同様の成果を期待できるのか一抹の不安が残ります。

そこで、中国系の大手民泊サイトの一つである「自在客」を見ると、現在日本国内の登録物件数が1,181 ホームステイ1,248部屋と表示されています。5月の登録物件数7,730ホームステイ778部屋と比べると、大幅に減少しています。その原因として、違法物件を登録削除した可能性が高いが、物件概要の項目に日本の届出番号がないため断言は難しい。

そもそも民泊とは何なのか?

新法施行からの1ヶ月の動向を見ると、「そもそも民泊とは何なのか?」という根源的な疑問が出てきます。民泊のオリジン的な話は省略しますが、ここ数年の範囲で見れば、民泊は増加する訪日外国人旅行客に対して不足するホテルのキャパ不足をカバーする手段として注目されたという経緯があります。

2014年以降、訪日外個人客が急増し、ホテルの客室不足する状況を追い風として、ヤミ民泊が急速に成長しました。そこで安倍政権は、不足する宿泊施設の補完策として、法律を制定することで民泊を適法化する意図が当初ありました。

しかし、その後ホテルの新築や改築の計画が急ピッチで進んだため、2020年時点でホテルの客室数不足はほぼ解消されるとの見通しがみずほ総研から出ています。

さらに、ここにきて異業種の大手企業が簡易宿所という形で民泊に進出して廉価な宿泊場所を多量に供給し始めると、住宅をベースにした住宅宿泊事業法に基づく民泊は、差別化のために何を打ち出すかを強く問われています。

これまで民泊物件の多くは、低価格、立地、清潔、内装や家具のオリジナリティという要素で物件の優位性を競ってきましたが、これは全て有形の箱モノに付随する要素に過ぎません。有形なスペックの競争の行き着く先が価格競争になることは理論的にも経験的にも証明されています。

その自明の結果を避け住宅ベースの民泊が、適法に一定のポジションを得るためには、賃貸と民泊の二毛作のようなテクニカルな技法に解決策を求めるのではなく、ゲストの滞在を快適かつ印象的にするための無形のサービスに目を向けざるを得ないでしょう。

ただし、無形サービスのブラッシュアップが求められるのは民泊だけの課題ではなく、むしろ既存の宿泊事業者に突き付けられた課題です。訪日外国人旅行者の中で、特に富裕層のカスタマーが日本の高級ホテルへ抱く不満が、「設備は華美だが、それに伴うスタッフの質と提供するサービスがチープだ」という話を聞くと、真のラグジュアリーホテルが日本にはないことが分かります。

日本が観光立国を実現するためには、宿泊の量の問題だけ囚われずに、質をどう高めるかがクリティカルイシューであることを認識すべきなのです。

話を民泊に戻すと、180日という年間営業日数の制約が、住宅をベースとした民泊をビジネスとして成立することを難しくしています。

したがって、今後の民泊の将来を予測すると、大手企業を中心とした廉価な簡易住宅が成長するとともに、宿泊事業宿泊法に基づく民泊は、職業体験・伝統工芸体験・ホストとの交流などを主たる付加価値とした民泊の本来的な姿に立ち戻り、家主滞在型、そして都市よりも地方に今後の民泊の活路があると考えられます。

※本記事は、2018年7月30日号『週刊トラベルジャーナル~【特集】民泊新時代 新法施行1カ月で見えてきたもの』に寄稿した「新法施行から1ヵ月を読む~撤退と参入が交差 活路浮き彫りに」をベースに一部加筆修正を加えてあります。