人は「集める」のではなく「集まる」を目指す

短期間でボクシング強豪校になった芦屋大学

2015年関西学生ボクシングリーグでは、創部わずか3年で1部に昇格したばかりの芦屋大が、全勝で優勝をするという快挙を果たしました。

その後、芦屋大学は2017年まで三連覇をして、2018年は近畿大学が21年ぶりに優勝をして2位になりましたが、創部6年で優勝3回、2位1回という好成績を収めています。

なぜ芦屋大のボクシング部は、短期間で圧倒的な力をつけて全勝優勝を飾れたのでしょうか。

その要因のひとつは、よい選手が集まったからです。

でも、いったいどのような方法で、芦屋大に優秀な選手が集まってきたのか?

先ずは、芦屋大が創部と同時に、素晴らしいトレーニングジムをつくったことがあげられます。

つぎに、ボクシング部を大学だけに置くのではなく、「芦屋学園ボクシングクラブ」として中高大と10年間の一貫指導をすることで、選手が「練習しながら勉強できる」環境を整えたことがあげられます。

しかし、芦屋大に優秀な選手を惹きつけた最大の要因は、優れた指導者を招聘したことにあります。

監督には元WBAバンタム級チャンピオンの六車卓也芦屋大学特任教授が、ヘッドコーチには、ロンドンオリンピックでボクシング日本代表コーチを務めた樋山茂氏が特任教授として就任しました。

実際、兵庫・相生学院高時代に高校3冠を達成した山内祐季選手(2年)は「海外選手の技術を知っている方の指導が受けられる」と、進学の決め手を語っています。

よい指導者とよい環境よい選手、この3つが揃えば鬼に金棒です。

名伯楽を招聘しものすごい施設を整備したら西日本全域からよい選手が集まり、芦屋大は関西学生ボクシングリーグで全勝優勝することができたのです。

よい人材を「集める方法」ばかり考えている企業の実態

結果から見れば、芦屋大の採った戦略は当たり前のことのように思えるかもしれません。

しかし、実際にはなかなか実行することが難しい優れた戦略です。

ボクシングに限らず普通の大学の運動部は、まず選手を集めることから始めます。

いい選手が集まって初めて、よい監督を連れてこようとか、練習環境を改善しようとか考えるのです。

この例は、企業にもそのまま当てはまります。

普通の企業は、人材が「集まってくる方法」を考えるのではなく、よい人材を「集める方法」を考えてしまいます。

だが、人は集めようとしても、なかなか集まるものではありません。

だから、士業やコンサルタントのおおくは、次のようなことを経営者に提言します。

「中小企業では、よい人材を採用することにこだわるのは現実的ではない」

  • 「入社してきた普通の人材を研修で鍛え上げればよい」
  • 「人材の良し悪しに左右されない仕組みづくりをすればよい」

専門家を名乗りながら視点の転換をせずに、人材を「集める方法」に焦点を当てていると、自ずとこういう考え方になります。

芦屋大のボクシング部のように、人が魅力を感じるものを最初に用意して適切にメッセージを発信することで、しゃかりきになって募集活動をしなくても、人は勝手に自分から集まってきます。

『人材は「集める」ではなく「集まる」を目指す』とは、そういう意味です。

だから経営者が考えなくてはならないのは、よい人材を集める方法ではなく、よい人材が集まる企業づくりです。

「人が集まる」会社づくりで重要なポイントとは

よい人材が「この会社で働きたい」と思うような魅力を、明確につくりだせるかどうかが、これからの時代の企業の明暗を分けることになります。

こう言うと、「なんだ、やっぱり金がある大手の方が有利じゃないか。うちのような小さな会社は、そんな魅力づくりは難しい」と思われるかもしれません。

でも、それは違います。

企業の持つ「人が集まる」力は、業種や知名度といった短期に変えることできない固定的な要素と、採用のノウハウや給料のように変えやすい流動的な要素、そして、社長の人材観、企業文化、社内環境など、変えることは難しいけれど、その気になれば変えられる準流動的な要素に分けて考える必要があります。

固定的な要素では、大手に敵わないでしょう。

流動的な要素は変えやすいのですが、給料を吊り上げて、採用のノウハウを金で買えばいい人材を集めることができると考えるのは浅慮というものです。

規模の大小に関わらず、最も重要なことは、準流動的な要素のブラッシュアップにいかに取り組むかにかかっているのです。

社長が先ず人材観を変えれば、企業文化も社内環境も変えることはできます。でも逆に、社長に人材観を変える意思がなければ、何も変えることはできないでしょう。

畑を耕さず、種もまかずに収穫を望む農民はいません。

優秀な人材を欲しながら先行投資をしない社長は、豊作を望みながら種すらまこうとしない農民と同じです。

そして、「人が集まる」力が上がらないと、いい人材が来なくなり、業績も上がらない。

集まって来た人が決める企業の将来

社長自身がどれだけ仕事ができる人であっても、間違った人材観を持った社長の会社は、結局淘汰される運命にあると言っていいと思います。

会社の場合、運動部の指導者に相当するのは社長です。

社長自らが人材観を高め、会社の魅力を高め、さらには個人的な魅力を高めていくことが、よい人材を採り、会社を繁栄させていくための一番効果的な方法と言えます。

動的安定経営においては、企業自体の魅力を高めて、よい人材が「集まる」会社を目指します。

そのためには、企業の価値観を明確にすることが第一歩になります。

スキルは後から身に付けることができても、その人の価値観を変えることはできないからです。

採用時に価値観の異なる人材を紛れ込ませない。

そのうえで多様性を確保することが、動的安定経営の人的あるいは組織的な基盤となります。

これを機会に、ご自身の人材観について、よく考えてみてはいかがでしょうか。