【要旨】

資金繰りが危機を迎えてからの再生は、時間との勝負になるために、初めて経験する社長が試行錯誤しながら進めるゆとりはありません。

 

では、業績に翳りが見えて来た初期段階でのプレ再生の方が簡単かと言うと、そうでもありません。

 

「このまま頑張れば何とかなる」という気持ちを強く持つ社長が多く、成功体験を思い切って捨て、本腰を入れて企業改革を行う決断ができないからです。

 

【本文】

企業再生では何を行うか

一般的な企業再生や事業再生においては、左記のタスクを実行します。

 

  • 資金繰り逼迫という緊急かつ重大な問題の解決
  • P/L改善のためのコスト削減
  • B/S改善のための資産と負債の整理
  • P/L改善のための事業戦略やビジネスモデル再構築

 

①~③の項目は緊急対応が必要とされるタスクなので最初に着手することが多く、そのうえで、再びP/L改善に舞い戻り、今度はカットする手法ではなくプラスオンする方法で利益を増やすために、④事業戦略やビジネスモデルの再構築を行います。時系列的には一部重なっている部分がありますが、優先順位という意味では、以上の順番になります。

 

ただし、外部の専門家を導入して行う再生プロセスのゴールは、ほとんど①~③までの範囲に留まることが多いのです。

 

経営改善計画書のうえでは新たな事業戦略やビジネスモデルについて記述されているものの、計画の実行まで責任をもって支援するというスタンスではなく、言い方は悪いですが、ステークホルダーとのタフな交渉を有利に進めるための材料という意味合いが強いのです。

 

ましてや、企業文化の刷新や組織体質の改革の必要性に触れることはあっても、具体的な計画を立案しハンズオンで実行をサポートすることなど皆無と言ってよいでしょう。

 

JALの事例に見る企業再生の現実

最近では、会社更生法を申請した日本航空(JAL)が短期間で再上場を果たし、再生の成功例と見なされています。

 

再生のために効果が大きかった施策は、公的資金の注入、不採算路線の廃止、人員整理・給料の引き下げ、金融機関による債権放棄、法人税の納付免除あたりに絞られます。これらの施策は、右記した再生ステップの①~③までの項目に該当します。

 

会長に就任した稲盛和夫氏が導入した「アメーバ経営」の手法により、日々1万円単位で収支の予実管理を行うことを厳しく求められた結果、どんぶり勘定から採算意識を持った組織体質へ代わったという効果もありましたが、コスト削減に結び付く施策であることに違いはありません。

 

JALはコスト削減にあらゆる手を打った結果、売上高は破綻前の38%強減少した一方で、営業費用の50%削減を成し遂げ、過去最高の2千億円強の営業利益を出すことで、経営破綻に伴う上場廃止から、わずか2年7ヶ月という短期間で再上場をすることができたのです。

 

特に人件費ついては、従業員の約四割にあたる二万一千人の削減と給料等の二割カットという荒療治を行っています。

 

しかし、事業ドメインを見直すとか事業戦略の大転換を図るとかビジネスモデルをゼロベースで刷新するという取り組みは行われていません。

 

周辺事業の整理統合はあったものの、本業である飛行機を飛ばして人や貨物を運ぶビジネスは、倒産前も後も全く同一のままです。

 

高名な稲盛和夫氏がCEOに就任して短期間で再上場を果たしたために、氏の経営手腕への評価はますます高まりましたが、実際に行ったことは、コスト削減と肥大した資産の整理でしかなく、根本的なビジネスの見直しは不十分な取り組みしかされていません。

 

例えば、JALのライバルである全日本空輸(ANA)は、格安航空会社(LCC)を多数傘下に収めるなど、航空運賃の低価格化の波にグループ全体で対応策を打っていますが、JALはその分野での取り組みは大幅に出遅れています。

 

それでも、JALはコスト削減効果で運行コストがANAをやや下回ることになり、当面の収益力は確保されましたが、LCCや欧米のビックキャリアのレベルには遠く及ばす、国際的に盤石のコスト競争力はありません。

 

公的支援を受けて再生したJALは路線開設が制限されていましたが、2017年4月からは新路線の開設が許されるようになり、成田―メルボルンと成田―ハワイ島の新規路線の発表をしました。

 

競争の少ない路線を増やして、少し高目の運賃を稼ぐ方針と見受けられますが、今後とも航空運賃の低価格化の流れが加速する経営環境のもとで、このやり方だけで生き残っていけるかどうかは不透明です。

 

統計数字に表される再生の難しさ

JALの再生事例から分かることは、誤解を恐れずに言うと「大企業は、再生がしやすい」ということです。

 

もちろん、大企業であっても売却することでしか存続できないケースや山一証券のように破産して消え去った企業もありますが、規模が大きいことは再生においてはメリットなのです。

 

なぜなら、図体が大きいためにぜい肉や体脂肪が驚くほどたくさん蓄積されているため、その削減効果は絶大で、債務超過を解消したり黒字化したりするための材料に事欠きません。

 

しかし、その図体が大きいメリットは、根本的に企業文化や風土を刷新したり、ビジネスモデルを再構築したりするとき、反対にデメリットとなって立ちはだかります。

 

なぜなら、現行ビジネスの運営に最適化されている巨大組織で、カルチャーを塗り変えることは困難を極めるからです。また、新たなビジネスモデルの導入をしようにも、新ビジネスに対応するための経験も能力も備わっていない人材によって構成されている組織が、反射的に抵抗を示すからです。

 

実際のところ、帝国データバンクの調べでは、1962年以降会社更生法を申請した上場企業は139社ありますが、再上場出来たのは、JALを含めて9社のみで全体の6.5%に留まります。

 

また、再建を目指していたものの、再び法的整理に追い込まれた企業は24社と全体の17.3%になります。

 

さらに、東京商工リサーチによると、2000年から導入された民事再生法についても、手続き開始申請後、事業継続が出来なかった企業の割合は7割に達します。

 

法律を後ろ楯にした再生型手続きを活用してもこの数値ですから、崖っ縁まで追い込まれた企業が自主再建することが、どれだけ難しいかは言うまでもありません。

 

以上の事実を踏まえると、先ほど「大企業は、再生がしやすい」と言いましたが、正しくは「コスト削減による一時的な収益力の改善はしやすいが、持続的な再生に繋がる組織文化の革新やビジネス自体の再構築をすることは難しい」になります。

 

中小企業の再生の現実

さて、JALのような大企業ではなく中小企業の再生の現実はどうなのでしょうか。

 

「キャッシュ」があることが大前提です。

 

JALの場合も、最後は資金ショートが目前に迫ったために、会社更正法申請前に、一千億円規模のつなぎ融資が行われ、最終的に企業再生支援機構による三千五百億円の資本が注入されました。

 

こうしたキャッシュがなければ、JALは破算する可能性が高かったのです。

 

しかし、JALとは異なり、潰れかけている中小企業に、銀行も役所も一円たりとも資金を出すことはありません。

 

オーナー社長が多い中小企業の場合、会社と経営者を一心同体と見なして、資金捻出を図ります。B/Sについても、簡易的に会社と経営者個人を連結して状況把握をすることもあります。

 

会社の財務が相当疲弊していても、経営者の個人資産に余力が残されている場合は、再生のための時間と原資を手にする可能性が高まります。

 

裏を返すと、経営者が個人資産をなげうってでも企業を立て直す意思があるかどうかが、最初の試金石になるということです。

 

中小企業の場合、折り返し融資により借入本数が増え、残高が減少せずに元金返済額が年々増え続け、毎年の元金返済額が年商の1~2割を超えていることは珍しくありません。

 

こうした状況の場合、元金返済の猶予が得られるだけで資金繰りが一気に改善します。

 

いずれにしても、最低でも1年は資金繰りが持つ見通しが立たないと、腰を落ち着けて再生に取り組む環境が整いません。

 

当社が手掛けた中小企業再生の成功案件でも、キャッシュが極限まで枯渇していなかったという共通した特徴があります。

 

建設業が本業のA社の場合、無節操な多角化を図り、飲食業FCに加盟し多店舗展開をしていました。

 

加盟と出店に必要な資金をすべて借入金に依存したために、本業の建設業が不調になるにしたがい、資金繰り不安が出てきた状況で相談を受けました。

 

飲食業の方も採算割れだったために、単純に考えると畑違いでしかも赤字の不採算事業からの撤退という処方箋が考えられますが、短期間でキャッシュを生み出し資金繰りを改善する必要があったために、本業である建設業の事業再構築では間に合いません。

 

そこで、借入金の元金返済猶予の他、日銭が稼げる飲食業の立て直しに優先して取り組みました。

 

各店舗の現状を精査したところ、二割程度の店は閉店しましたが、残りの店舗は現場任せにしていた運営を改善することで、黒字化が可能との判断ができました。

 

その結果、半年程度で飲食店の業績が大幅に向上して、キャッシュ創出に大いに貢献してくれたという例もあります。

 

このように、中小企業でも再生に必要なキャッシュを確保して、V字回復する事例はいくつもあります。

 

しかし、基本的に資金繰り不安が出てきてから再生へ取り組むことは、キャッシュ確保の手段が限られている中小企業の場合、即アウトになる危険があります。

 

もっと早い時期に、企業改革や経営改革という形で着手すべきなのですが、では具体的に「いつやるの?」という質問をよく受けます。

 

資金繰りの問題が大きくなってから相談に来る企業の財務諸表を見ると、十中八九「お化粧」がされています。

 

売上の水増し、経費の仮払いによる資産化、在庫の水増し、減価償却不足・・・。

 

なぜ決算書をお化粧するのかというと、上場企業のように開示義務のない中小企業の場合、理由は簡単です。

 

借入金があり、継続して融資を受けるためには、銀行へ提出する決算書が赤字ではマズイからです。

 

この事実から「いつやるの?」についてお答えすると、「決算内容を調整して業績を実態より良く見せたくなったとき」になります。

 

理想を言えば、そもそも「借入金が必要になった」時点で経営課題が発生しているので、その時期まで早められればベストです。

 

社長では企業再生できないワケ

ここまで、再生の現実について見てきましたが、本稿の主題である「なぜ社長では企業再生ができないのか」に話を進めます。

 

先ず、半年後に資金ショートするというような危機的状況になってからの再生は、時間との勝負になるため、初めて経験する社長が試行錯誤をしながら進めるようなゆとりはありません。

 

やるべきことの順番を間違えることは許されないし、決断を迫られて悩んでいる時間もありません。

 

しかし、会社をギリギリの状態まで追いやってしまう社長は、そこに至るまでの経営の中で、やるべきことの順番を間違い、問題を先送りしてきた社長なのです。

 

残念ながら、土壇場になって急に変身する可能性は低いと考えるべきでしょう。

 

つぎに、瀬戸際に立つ以前の早い段階で行う「プレ再生」についてはどうでしょうか。

 

プレ再生は、企業改革的な取り組みで、組織の活力やクリエティビティを高めるために企業文化を研ぎ澄ますとか、ライフサイクルを見越して事業転換を大胆に図っていくことなどを行います。

 

これについても、社長が一人で行うことは難しいでしょう。

 

その理由は、アルバート・アインシュタインの金言「問題を引き起こしたのと同じ考え方で、その問題を解決できるはずがない」が端的に語っています。

 

プレ再生において重要な取り組みの一つは、有名無実化している企業フィロソフィを再起動させることですが、喪失した組織が再びそれを取り戻すことは、口で言うほど簡単なことではありません。

 

そして、成功体験があればあるほど、現在のビジネスを否定する、あるいは5年後の衰退を見越して目先の利益を捨てる決断することが難しいこと。

 

さらには、仮に過去の成功体験が通用しなくなったことを認め失敗の分析ができたとしても、それが新たな成功のためのストーリーにはならないからです。

 

失敗の原因と成功のための条件は違います。

 

プロスポーツの世界では、優秀な選手ほど自費でコーチを付けています。

 

なぜコーチが必要なのでしょうか。

 

それは、具体的な技術を教えてもらうこと以上に、自己を客観視するために、第三者的視点を持つことにこそ意味があります。

 

ところが、経営の世界では、自己を客観視するための視点づくりを積極的に行う経営者が少ないのです。むしろ、他人にとやかく言われるのを嫌う傾向すらあります。

 

本当に優秀な社長は、「何でも一人でできる」と過信している人ではなく、「自分一人でできることの限界を知っている」人です。

 

大企業と比べて社内の人的リソースが不足している中小企業の場合、外部に必要なリソースを求めることを厭わない社長であれば、プレ再生に着手し成功させる可能性が格段に高まるはずです。

 

※本コラムは、『近代中小企業』11月号に掲載した5回連載記事の第3回「なぜ社長では企業再生できないのか」をベースに一部加筆修正をしたものです。