【要旨】

資金繰りに行き詰まりが見えてから再生に着手すること自体が、再生の可能性を下げます。いま業績好調な経営者は、無限成長や永続繁栄を信じるのではなく、企業にもライフサイクルがあることを受け入れ、資金繰り改善から入る再生に陥ることがないように、常日頃から組織老化への対応と事業価値の向上に努める経営を行うことが大切です。

 

【本文】

再生ができる例と再生できなり例

「再生できる企業」と「再生できない企業」の違いは何かについて、現場で企業再生に携わる立場から答えるならば、いくつかの例をあげることが出来ます。

 

  • 日銭が毎日入って来る一方、支払いが月締めで後払いになっている飲食業などは、資金の先食いが極限まで進行するので、キャッシュが底を突きそうになってからの立て直しが難しい。
  • 差別化された技術や特許がある製造業の場合、仮に資金難に陥っても知的財産を軸に打ち手を講じることが可能となり、再生のオプションが多くなる。
  • 設備投資を借入金ではなくリース契約で行っている企業の場合、解約に伴う違約金支払いが設備縮小の障害となり、ダウンサイジングによる再生が難しい。
  • 再生局面では、長年に渡って蓄積された社長の通信簿が示される。難易度が高く再生が危ぶまれる場合でも、「この社長の頼みなら」と受け入れてくれる取引先と社員がいる場合、債務の繰延払いや給料の減額により資金繰りと損益を改善して、再生の途に着くことができる。

 

このように、瀬戸際に立った企業が再生できるか否かを決める要因は、多分にテクニカルな話題になり、読者の現在の経営に直接的に役立つとは限りません。

 

想像するに、読者の経営する会社は、再生局面に陥っていることはなく、むしろ好調な業績で推移しているはずだからです。そうでなければ、向学のために本稿を読んでいる余裕はないでしょう。

 

しかし安心してはいけません。再生局面に陥った企業が再生できる否かは、テクニカルな手法の巧拙がもたらす結果論だけではなく、むしろ危機が表面化するはるか以前に行っていた好調時の経営のあり方が、潜在的に影響を与えているのです。

 

そこで、本稿では、好調な企業にも役立つように、将来を見据えて取り組むべき課題についても明らかにしていきます。

 

再生可能性の評価軸①-キャッシュ

再生支援についての相談を受けたとき、再生の道筋を描くにあたって、主に3つの評価軸から、その企業の現状を把握することに努めます。

 

一つ目は「キャッシュ」です。倒産する企業には漏れなくキャッシュがないと言うより、キャッシュがなくなったら倒産するが正確かもしれません。裏を返せば、赤字だけで企業は倒産することはありません。

 

例えば、毎年1億円の赤字を10年間出し続けていても、キャッシュが100億円ある企業は何十年間も潰れる心配がありません。

 

また、癌の特効薬を発明した研究者が、製品化のために起業したが、10年の期間と500億円の費用がかかる場合でも、全世界の投資家から5000億円くらいの資金が集まるでしょうから、10年間で500億円の赤字を出したとしても何ら問題ありません。

 

しかし、いま10億円あっても、毎年2億円の赤字を出し続けていたら、5年で底を突くことになるので、この企業は5年以内に事業を黒字化する必要があります。

 

つまり、キャッシュは、ある時点で企業の寿命を測る物差しであり、改革を実行して結果を出すまでの時間的猶予を与えてくれます。

 

その意味で、キャッシュは「時間」と言い替えることが出来ます。再生局面においてキャッシュが多ければ、より長い時間軸でプランを構想出来ることになり、その分採用可能な施策の選択肢が増えるため、再生可能性は高まります。

 

再生可能性の評価軸②-事業価値

2つ目の評価軸は「事業価値」です。事業価値とは、将来生み出されることが見込まれるキャッシュによって測定されます。

 

事業価値が高い場合、そこには先進的技術や特許、安定的な販売網と顧客、築き上げられたブランド、継続的に収益を生む固定資産(賃貸物件・宿泊施設・工場設備等)などが存在します。

 

再生局面では、目前の危機である資金繰り改善に意識が傾きがちですが、それは必要条件に過ぎず、事業のリストラクチャリング(再構築)という十分条件を満たさなければ、持続的な再生は成功しません。

 

当然、再建に着手した時点で、高い事業価値を有していれば、再構築の難易度は低く、成果を上げるまでの時間も短くて済みます。逆に事業価値が低ければ、難易度は高く、長い時間が必要になります。

 

ただし、キャッシュの枯渇は、収益性の悪化による既往のしわ寄せであることが多いため、再生局面に入った企業の事業価値は低いことがほとんどです。

 

再生可能性の評価軸③-組織老化

続いて、3つ目の評価軸は「組織老化」です。組織老化の具体的症状には、次のようなものがあります。

 

  • 成功体験がもたらす過信
  • 無謀な成長指向
  • 事実とリスクの軽視
  • 乾坤一擲の大勝負
  • 機能体から共同体への変質
  • フィロソフィの喪失

 

組織老化は独立した問題ではなく、事業価値低下の原因となります。

 

会社は、成長することを当然の前提としていますが、成長の先に老化がやってくるのは、人間も企業も同じです。

 

そして、組織の老化がもたらす思考・行動様式が、ビジネスモデルの刷新を妨げ、誤った戦略を採用する原因になるのです。

 

その意味で、組織老化は、企業が衰退する原因の最も根本に位置するものです。

 

組織の老化を無視したまま、戦略やビジネスモデルを描いても、実行段階で必ず失敗します。

 

ところが、老化した組織は自己を客観視することが難しく、実行フェーズに問題があったにも関わらず、戦略やビジネスモデル自体がダメだったという間違った教訓を得るだけなので、新たな戦略策定を行っては失敗するという負のスパイラルから逃れることが出来なくなります。

 

最も重要なのは再生を決断する時期

3つの評価軸を使って企業の再生可能性を測定した結果、キャッシュ「多」、事業価値「高」、組織老化「低」の状態であればあるほど、再生の難易度は下がり成功の確率は高まります。

 

しかし、実際に持ち込まれる相談のほとんどは、キャッシュ「少」、事業価値「低」、組織老化「高」という状態です。

 

企業内では、発生時期が早いものから順番に、組織老化→事業価値の低下→キャッシュの枯渇という因果関係で問題が起きるために、キャッシュが少なくなった時、その原因となっている事業価値の低下と組織老化が進んでいるのは、当然のことです。

 

再生支援の現場において、企業の再建を難しくする最も大きな原因は、経営者が企業存続の危機を感じて、具体的に再生に取り組みを始める時期が、十中八九、資金ショートという最終的な症状が出てからというタイミングの遅さにあります。

 

何が問題かと言うと、キャッシュ残高が少ないことで、V字回復するための十分な時間を確保することが難しいことが一つ目の問題です。

 

二つ目の問題は、本来は因果関係にしたがって、組織老化の対策に取り組み、つぎに事業の再構築を行い、結果的に財務体質の改善を図るのが、急がば回れで、最も効果的で効率的な取り組みなのですが、再生局面という緊急時には、先ずは資金繰り改善を行い、つぎに収益力強化を行い、最終的に組織老化に手を着けるという全く逆の順番で取り組むことを余儀なくされるので、効率も効果も低くなりがちなことです。

 

つまり、「再生できる企業」と「再生できない企業」の境目は、企業の個別属性に立ち入る以前に、「どれだけ早い段階で、再生を行う経営判断をするか」にかかってきます。

 

「資金繰りが苦しい」という最終段階に入ってからでは遅いのです。

 

事業価値の低下を迅速に察知するセンサーを持ち、その事実をキャッチしたら、事業ドメインやビジネスモデルの見直しに即座に着手すると同時に、組織の世代交代を先取りして進め、常にイノベーションを生み出す組織を育て続ける努力を行う企業に、資金繰り難という課題が突き付けられることはないでしょう。

 

仮に、僅かでも資金繰りが苦しくなった場合でも、それを小さな問題と考えずに、再生を断行するサインだと捉えられれば、企業が生まれ変わる可能性は幾何級数的に高まります。

 

でも実際には、相談を受けた時点で、経営者が各種カードを小出しで使い切ってお手上げ状態ということがよくあります。「専門家なのだから、そこを何とか出来ないのか」と言われるのですが、それは無理筋というものです。

 

資金繰りに不安を覚えた経営者は、次のような典型的な行動パターンをとります。

 

  • 銀行から自力で新規融資が引き出せなくなると、資金調達コンサルタントを頼る。
  • 高利の資金に手を出す。
  • 銀行と交渉をして元金返済を1年間程度猶予してもらう。
  • 税金・社会保険料の滞納、買掛金支払の未払い、リース料の未払い、給料の遅配

 

とにかく、資金ショートを避けることだけに躍起になり、なりふり構わず資金の帳尻合わせをした後に、「うちの会社どうにかなりませんか」と相談に来られても、資金繰り改善のためのカードは全て切られているため、事業価値を上げる施策を立て実行する時間もなければ、投資する資金もありません。

 

リスケを含めた資金繰り改善のためのカンフル剤は、基本的に1回しか使えません。

 

その目的は、事業価値の向上に取り組むための時間的猶予を得るためで、資金繰り改善はその手段に過ぎません。

 

そこの理解が出来ていない経営者は、せっかく一時的であれ資金繰りが改善したにも関わらず、「今はたまたま売れ行きが悪いだけだ」「営業が死ぬ気で頑張ればなんとかなる」「大きな物件を受注すれば大逆転だ」と過去の延長線上で考えるだけで無為な時間を過ごしているために、どんどんジリ貧になって行き、資金繰りの打ち手がなくなってから初めて外部の専門家に相談に来て、引導を渡されることになります。

 

組織老化への取り組みとは

企業の衰退は、組織老化から始まるという話をしましたが、このことを聞いて「組織を不老不死にするためにはどうしたらいいか」とか「組織のアンチエイジングに何が役立つか」などの問いを立てても意味はありません。

 

残念ながら、組織はすべて不可逆的に老化をします。成長のスピードが速ければ、その分老化スピードも上がります。

 

最近の「老舗礼賛ブーム」も手伝って、業績順調な経営者は「百年企業を目指す」などとぶち上げることが多いのですが、組織老化のプロセスを知らぬまま自社の永続性を志向することが、崩壊へのスイッチを押す危険があります。

 

人間と企業は、自然人と法人と言い替えられますが、企業を人間とのアナロジーで表現することがよくあります。

 

起業して間もない時期の社長は、「うちの会社は、まだヨチヨチ歩きで」と語り、単年度黒字を達成すると「やっと当社も一人前になりました」と語ります。

 

ところが、このアナロジー関係は、最後に不整合を来たし始めます。人間については寿命があるけれど、企業については不老不死を望み、それが可能だと信じているからです。

 

でも現実は、全企業の平均寿命は24.1年(2015年東京商工リサーチ)であり、人間の寿命と比べたら三分の一程度しかありません。

 

この事実を受け入れた経営をしている人がどれだけいるでしょうか。

 

実は、企業にとってより危険度が高いのは、組織が老化することよりも、不老不死を望み組織老化を前提とした経営をしていなことにより、かえって企業の寿命を縮めていることなのです。

 

この指摘に対して、当社は「新卒者の採用を積極的に行っている」「前社長から現社長にバトンが渡されて年齢が一気に30歳若返った」と言って、新陳代謝が活発な組織であることを主張する人がいるでしょう。

 

しかし、その認識は危険です。人間は、「新しい世代を生み出すこと」によって種を保存し、人類全体を存続させていますが、企業の場合、器はそのままで「会社自体を若返らせようとする」考えに陥っていることに気付いていないからです。

 

社長や社員が若返ろうとも、組織が持っている基本的な常識や価値観が変わらなければ、真の意味で世代交代したことにはなりません。二代目が会社を潰すのは、経営手腕以前に、パラダイムシフトが出来ていない結果なのです。

 

唯一無二の企業づくりが経営者の使命

最後に、「再生できるか」「再生できないか」という可能性の議論以外に、どの企業にも永続する価値があるとは限らないという厳しい現実に向かい合う必要があります。

 

再生への早期取り組みのタイミングを逸し、企業価値が大きく毀損している場合は、利害関係者に迷惑をかけ続けるよりも、企業を解体した方が社会にとっては良いのです。

 

「諦めなければ失敗はない」という言葉に惑わされることなく、「当社が退場したとき、社会は何を失い、市場にどういう悪影響が及ぶのか」という問いに対して、自他ともに納得のいく答が出せないのであれば、潔く幕引きをする勇気が必要です。

 

だからこそ、平常時の経営においては、企業が単に生き残るよりも大きな目標を立て、強固な基本的価値観に基づいて、他社によっては穴埋めができない企業を築くことに、経営者として不動の意思を持ち続けなければならないのです。

 

※本コラムは、『近代中小企業』10月号に掲載した5回連載記事の第2回「”再生できる会社”と”再生できない会社”の違いとは」をベースに一部加筆修正をしたものです。