時代を映したヒットCM

森永は昭和42年、大型の板チョコレート『エール』の発売を決めた。

 

商品コンセプトである「従来の板チョコより一まわりほど大きくて値段は50円のお徳用」を、広告でいかに強く印象づけるか検討して出てきた方針は、こうだった。

 

「今までの日本は、小さな幸せ、慎ましやかな幸せが美徳とされてきた。これまでにない速さで経済大国の道を歩みつつあるこれからは、もっとのびのびと胸を張って、大きいことはいいことだと主張しよう」

 

そうして誕生したコマーシャルが、当時、型破りでひょうきんな指揮者として人気を博しつつあった山本直純を起用した「大きいことはいいことだ」のテレビ CMだった。

 

経済の上昇気流に乗った日本を象徴するように、気球の上から1300人もの大群衆を指揮する山本センセイ…。ヒットするCMの裏には、キャラクターの魅力とともに、時代を的確にとらえた視点とメッセージがある。

 

この森永「エール」にまつわる話は、今や高度経済成長期を象徴する昔話に過ぎない。

 

もはや、「大きいことはいいことだ」ではなく「大きいことは良くないことだ」というのが、今回のテーマだ。

 

規模の経済の崩壊

新商品の開発、新たなサービスの提供、未知なる市場の開拓・・・イノベーションの競争スピードは増すばかりで、休んでいる暇はない。

 

あなたの会社が、次に来るもの、最高のものを見つけるや否や、業界の誰もがそれを真似しようと動き始める。

 

技術が特許に守られていたり、暗黙知に依存する割合が大きいイノベーションの場合、競合がその秘伝のソースを解明するのには何年もかかるが、単に着眼点の空白を突いただけのような低いハードルしか設定できない場合、何カ月も経たないうちに、利益を生む差別化がコモディティ同士の競争になり下がる。

 

こうした泥仕合を招く競争の嵐を避けるには、これまで「規模の経済」が最後に残された砦だった。

 

言い換えると、規模による優位性は、一部の企業には少しだけ安全な避難場所となってきた。

 

多くの企業は、自社の製品やサービスにおける次の成功のサイクルを模索し続けなければならないが、ごく一部の企業は、先見の明ではなく規模の活用によって利益を追求することができた。

 

公益事業会社が好例だ。電力会社がひとたび電線を張り、送電網と各家庭をつないでしまえば、新規参入業者が現れる可能性は低い。

 

イオンやセブン&アイなどの大規模小売業者も、仕入れコストを低く抑え、価格に競争力を持たせるために規模を活用してきた。

 

味の素やコカ・コーラなどの加工食品メーカーは、規模を活かして市場に素早く効率的に進出している。

全体として見れば、規模は世界中の大企業に戦略面で大きな恩恵をもたらしてきた。

 

起業家によるイノベーションの脅威から、多くの企業を守ってきたのだ。

 

しかし残念ながら、規模により獲得できる優位性は、長くは続きそうにない。

 

より厳密に言うと、規模によるメリットが消えてしまったのではなく、規模によるメリットが陳腐化したのだ。

 

今日の世界では、規模を活用するために、みずから規模を獲得する必要はない。

 

大企業における規模の経済の仕組み

30年以上前に、規模の経済と言った場合、営業面では点ではなく面で商圏を制圧することや、仕入面ではまとめ買いによる購入単価の引き下げを図ることを意味していた。

 

その後、インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー(ICT)の発達に伴い、大企業は情報システムを通じて規模の優位性を獲得する方法へと変わってきた。  

 

その結果、過去30年間大企業の経営陣は、国外移転やアウトソーシング、オープンイノベーションなどの手法を取り入れてきた。

 

こうした手法は企業活動を業務機能によってモジュール化する。言い替えると、これまでとても複雑で統合的だったバリュー・チェーンを、ずっと小型で専門化されたバリュー・チェーンの集まりのようにしていくことを意味する。

 

複雑な製造や社内の物流インフラに頼るのではなく、専門化すれば「効率」が高まると経営陣は気づいたのである。

 

しかし、小型化されたバリュー・チェーンの集まりをまとめて有機的に機能させるためには、社内外を1つにまとめる大型の情報システムが不可欠であった。世界で最も大規模な企業だけが、複雑な情報システムを築き、供給業者と配送業者を統合することで、規模と専門化の両方のメリットを享受することができた。

 

こうした情報の収集と分配は競争優位を促進したが、それを行うには相当な規模が必要だった。企業にとって、販売時点の情報を社内の調達チームに伝え、さらにはさまざまな製造のネットワークにまで伝えるのは、容易なことではない。こうした業務を調整できる経営資源を持った企業だけが、メリットを受けられたのだ。

 

しかし、このような調整上の規模の優位性をもたらした技術は、どんどん低価格になり、また広く行き渡るようになっている。

 

以前は、海外進出、海外製造、海外販売を行うには、独自の人材・独自の情報システム・独自の取引先開拓が必要だった。

 

しかし、今日ではアリババを使えば済む。また、以前は24時間営業のコールセンターを運営できるのは大企業だけだったが、今日では小さな企業でもグローバル・レスポンス(コールセンター業務を代行する会社)などを活用できる。

 

それだけでなく、クラウドサービスにより、最小規模の企業でも最上級の顧客管理システムを利用でき、フルフィルメント・サービス(商品販売における一連の管理業務)や、会計プログラムも利用できる。今日では、調達における規模のメリットすらも危険にさらされている。(日本ではこれからだが、米国では共同購買サービスを提供するOrderWithMe などがある)。

 

安定的な利益が存在するところには起業家が集まる。かつては、情報システムにはコストがかかり複雑であったため、規模による利益が確保できた。

 

そうした要因により、他社の台頭が阻まれ、小さな企業が団結して規模を活かした購買や製造を行うこともできなかった。

 

しかし、低価格でアクセスしやすいICT技術が入手できるようになって、すべてが変わりつつある。規模による優位性は陳腐化しつつあり、最小効率規模はどんどん小さくなっているのだ。

 

これからの時代 企業は”なに”で勝負するか

大企業ですら、規模の経済による差別化が難しくなった以上、企業経営者はすべてが陳腐化するという現実を受け入れること。

 

そして、最大であることに依存しない戦略を立てることが重要な使命になる。

 

同時に、これまで全ての戦略がその実現を目指していた「競争優位の持続」が不可能だという現実も受け入れなければならない。

 

代わりに、「一時的競争優位の連続」を実現する戦略思考をする必要がある。

 

これらの変化を自発的に行うためには、利益の源泉を「効率」から「顧客価値」、「必要」から「欲求」へと素早くシフトしなければならない。

 

言葉で語ることは簡単だが、規模の経済を無意識に追い求める発想に毒されてる経営者にとって、企業全体を生まれ変わらせるに等しい一大改革を行うことは、想像以上に困難が伴うはずだ。

 

反対に、小規模企業やベンチャー企業は、その小回りの良さを生かして、自社の「強み」を生かした利益創造、事業の新規展開と撤退サイクルの構築、容易に組み変え可能な経営資源体制づくりなどの、動的に安定する経営スタイルを早期に作りあげることを目指すべきだ。

 

これからは、競争に勝つのではなく、戦わずして勝つ土俵を自ら作りつづける企業が、規模の大小に関わらず成長と安定の両方を手にすることができる時代になると断言する。