「太っ腹」VS「細かい」世間のウケはどちらがよい?

人間は十人十色ですから、人それぞれ違ったタイプがあります。

 

そして、そうしたタイプの多くは、相反する2つの性質のセットとして語られています。

 

例えば、「楽天的」VS「悲観的」「社交的」VS「内向的」「優しい」VS「厳しい」・・・など、いくらでも列挙できます。組み合わせは色々あっても、共通点を探すと、どちらか一方が肯定的で、他方が否定的な意味合いであることが多いという点でしょう。

 

そんな中の一つに、「太っ腹」VS「細かい(ことにこだわる)」があります。

 

この組み合わせの場合も、「太っ腹」の方が肯定的に捉えられていて、「細かい」方は否定的に評価されるというのが世間の通説ではないでしょうか。

 

実際のところ、「お前は、いちいち細かいことにこだわる奴だな」と言われて、褒められたと思う人はいません。

 

でも、「さすが、太っ腹だね!」などと言われようものなら、一気に好感度が上がったと思って間違いありません。

 

日常生活においても「細かいことにこだわる」より「太っ腹」の方が好感を持たれているのだから、社長と呼ばれて組織を率いる立場になると、太っ腹社長になりたい(なるべきだ)と考える人が、ますます増えるのは不思議ではありません。

 

たしかに、社員にしてみると、いちいち細かいチェックや指示をせずに仕事を任せてくれるうえにカネ離れがよい社長の方が、気持ちよく仕事ができるという意味で嬉しいに違いありません。

 

反対に、一から十まで報告を要求し、仕事の進め方についても逐次指示をしてくるうえにしぶちんな社長は、仕事のやる気を削ぐという意味で毛嫌いされることが多いものです。

 

実際のところ、こんな調査結果があります。

 

毎年、明治安田生命は、新入社員を対象とした「理想の上司」についてアンケート調査を行っていますが、今年の結果を見ると、1位は松岡修造氏でした。

 

複数回答で上位を占めたその理由は、「熱血」(38.2%)「頼もしい」(18.2%)「指導力がある」(16.4%)です。松岡修造氏が持っているイメージがそのままプラスに評価された結果と言えます。

 

また、三菱UFJリサーチ&コンサルティングも「2016年度新入社員意識調査アンケート」の中で、理想の上司のタイプを選んでもらった結果を発表しています。

 

最も多かったのは「寛容型」(30.5%)で、以下「情熱型」「平凡型」(いずれも13.8%)、「カリスマ型」(12.7%)「調整型」(10.3%)と続きます。

 

さらに、理想の上司を動物に例えると「イヌ」が14.5%でトップになり、親しみやすくて忍耐強い「寛容型」のイメージが投影された結果になっています。

 

これら2つの新入社員向けのアンケート調査結果を見ても、経営者やマネージャー達が、どうせなら「細かい」タイプと思われるより、「太っ腹」タイプと思われたいと考えるのは無理からぬことです。

 

しかし、本当に好ましい社長のタイプは、世間一般でもウケがよい「太っ腹」タイプなのでしょうか? 実は「細かい」タイプの方が、経営をしていくうえで重要な素養を持ち合わせているのかもしれません。

 

そんな、世の中の定説にあえて異論を唱え、「太っ腹社長」VS「細かい社長」について考えるのが、今回のコラムのテーマです。

 

「細かい」リーダーの2タイプとは

どの会社にも「細かい(ことにこだわる)」上司はいるものですし、場合によっては、社長自身が細かいタイプということも少なくありません。

 

挨拶の仕方や服装の乱れをいちいち注意したり、仕事上の小さなミスにも目を光らせて叱りつけたり、あるいは営業マンに、微に入り細に入り毎日活動報告を求めてきたりという人たちです。

 

こうした「細かい」リーダーは、どんな組織でも嫌われていると相場は決まっています。

 

なぜ嫌われるのかと言うと、部下に対して小言や叱責が多いからでしょう。誰だって、文句を言われたり、叱られたりすることは好きではありません。

 

また、部下に任したはずの仕事に対しても、途中で横やりを入れてきて、「ここが違う」「あそこを直せ」と口を挟んでくるので、結局誰がやった仕事なのか分からず、部下は自分の存在意義を疑ってしまう場合もあるでしょう。

 

さらに悪いのは、そうした「ここが悪い」「あそこがダメだ」という指摘について、部下が納得できる説明もなければ、そもそも理論的な根拠に乏しく、単なる好き嫌いでものを言っているように思える場合があることです。

 

こういう「細かい」リーダーは、性格的に細かいことに気になって仕方がなく、デスクに置いてある電話機の位置が少しズレると思わず直してしまう潔癖症のようなタイプと言えます。

 

言い替えると、「細かいこと」をキチンとすることが目的となっているリーダーです。

 

一方で、同じように小言を口にすることがあり、細かな指摘をするリーダーでも、少し視点が違う人もいます。

 

挨拶ができない、服装が乱れている、あるいは書類の不備は、もちろんそれ自体が出来ていないだけでも問題ですが、むしろその背後にあるさらに大きな問題との繋がりを懸念して注意をするリーダーです。

 

そのリーダーは、こう考えます。

 

普段挨拶が出来ていない部下が、取引先へ出向いて急にしっかりと挨拶が出来るはずがない。挨拶もろくに出来ないのに、その先の商談が、うまくまとまるはずがないことを懸念しています。

 

また、社内の書類の不備は後からリカバリー可能ですが、顧客との契約書にミスがあれば大問題に発展する可能性があり、それを避けるためには、普段から社内外を問わず書類を完璧に作成することを習慣付けようとしています。

 

服装の乱れについても、最近急に目立つようになったのなら、プライベートでトラブルを抱えているサインかもしれないと慮っています。

 

さらに付け加えると、「割れ窓理論」の立場からは、「細かいこと」を見逃すことで、社内の規律が緩み、全体の士気が落ちることを未然に防ぐために、「細かいこと」をあえて指摘しているという場合もあるでしょう。

 

ただし、大事につながる可能性がある「細かいこと」について注意をするリーダーであったとしても、「ここが悪い」「あそこがダメだ」という指摘は、常に理路整然としているわけではなく、やはり一見したところ根拠が乏しかったり、好き嫌いから出て来ているように見えることもあるはずです。

 

特に最近の若者は、「納得しないと動かない症候群」に陥っている人が多いのですが、実務経験が豊富な人ほど、経験に裏打ちされた鋭い直感を持っているために、言葉でうまく説明できないことが、価値がないとは限りません。

 

私たちが、「細かい」リーダーというと、ついつい前者の「細かいこと」が目的になっているタイプを思い浮かべることが多いものです。

 

そのために、「細かい」リーダーは嫌われるし、「そんな小さいことに関わっている暇があるなら、もっと大局的に物事を考えたらいいのに」などと陰口を叩かれることになります。

 

しかし、だからと言って、後者の「細かいこと」がより大きな問題の「サイン」だと洞察するタイプのリーダーの価値を否定してはいけません。

 

残念ながら、前者と後者を比べると、圧倒的に前者の「細かい」リーダーの数が多い現実は否めませんが、十把一絡げに「細かい」リーダーはイケていないと考えず、むしろ後者の「細かい」リーダーが存在しない企業は大きなリスクを抱えていると思った方がよいでしょう。

 

将来を左右するサインは「細かいこと」として現れる

私たちは、「細かいこと」「小さなこと」=「重要ではないこと」と思いがちです。そして、重要度の尺度は、見かけの大きさや目立つかどうかで無意識に決められています。

 

しかし、「細かいこと」「つまらないこと」かどうか、あるいは「重要か重要でないか」について絶対的な尺度があるわけではなく、基準次第でいかようにも変わるものです。

 

そして、その基準は、概ねこれまで成功してきた体験や知識によって決まっています。

 

だから、「細かいこと」「瑣末なこと」と思われていることの中には、本当につまらないこともたくさん含まれていますが、一部には、見方を変えると極めて重要なことが混在していることを忘れてはいけません。

 

これまでのルール、見方を変えてしまうような新たな考え方や技術であるからこそ、古い基準や価値観からすれば「つまらない」「細かい」「重要ではない」としか映らないかもしれないという可能性があるのです。

 

「細かいこと」それ自体は、つまらない問題かもしれません。しかし、それがより大きな、本質的な問題のサイン、現れであることは、人間が病気にかかったときと同じように、企業についてもしばしば見られます。

 

もう一つ大切なことは、「細かいこと」を「小さな問題」として対処することは、おおくの場合その場しのぎに過ぎないと言うことです。「問題」と「原因」は別の場所にあるかもしれないからです。

 

経営において大切なことは、変化を見逃さないこと、そして、できる限り早く手を打つことです。

 

そして、そうした変化の「兆し」「サイン」は、常に「細かいこと」と決まっています。大きかったら、そもそも「兆し」などとは呼びません。

 

また、経営には合理性が求められる一方で、つまらないように見える「細かいこと」が人の気持ちを大きく動かしたり、経営を左右するきっかけになることもよくあります。

 

ところが、「細かいこと」は、身の回りにそれこそ無数にあり、その中で大切なものとそうでないものを見分けることは簡単ではありません。

 

見逃してしまったり、逆にあまりにも大切でないことにこだわって、本当に大切なことがおろそかになってしまったりすることもあります。

 

ただし、間違いなく言えることは、市場や環境の変化が最初に現れるのは、現場だということです。

 

顧客の趣向、商品の売れ行き、競合の動きなど、第一線の社員の目前には、さまざまな変化の予兆やサインが現れているはずです。

 

しかも、企業の衰退のはじまりや戦略のほころびは、まず「細かいこと」として現れるのです。

 

少しくらいビジネスモデルが時代遅れになったからといって、急に売上がゼロになったり、資金繰りがショートしたりはしません。

 

例えば、顧客からの細かい苦情が増えたとか、上得意が離脱したとか、顧客との商談の中で競合他社の話が増えたとか、担当者の態度が何となくよそよそしいといった「細かいこと」から始まるのです。
 
 

しかし、そうした予兆やサインを「つまらなこと」「細かいこと」として無視していたとすれば、第一線の現場から上司にあげる意見には何も新しい価値がなくなるのは当然です。

 

さらに考えてみると、そのように社員がサインとしての「細かいこと」に鈍感な理由は、かつて上司が部下から報告された「細かいこと」に意味を見出さずに軽んじてきた結果である可能性もあります。

 

「太っ腹社長」よりも「細かい社長」を目指す

経営者の中にも、「細かいことに関わっている時間はない。私は忙しいのだ」と言う人は多いものです。

 

実際に、「私に持ってくる案件は、優先順位を付けて重要なものだけにしろ」「細かい話はいいから、ヘッドラインファーストで結論を簡潔に言え」と、部下に厳命している社長がいます。

 

するとどうなるか。現場からトップに上がるにつれ、重要でない(と思われる)こと、細かい(と思われる)ことは少しずつ切り落とされていきます。

 

情報に優先順位が付けられるのは悪くないのですが、問題は、重要かどうかは基準よって変わる相対的なものなので、現場と部長と社長では、必ずしも一致しません。

 

また、経営書を読みあさったり、さらに一方踏み込んでMBAまで取得する勉強熱心な経営者が少なからずいます。

 

そういう「優秀な」経営者ほど、戦略思考を身に付けているがゆえに、現場は現場に任せればよい、社長の仕事は目の前の小さな問題ではなく、もっと本質的で会社の生き死にに関わる大きな問題や方向性を考えることだと、思い込んでしまう人が多いのです。

 

さらに 、そうした姿勢が高じると、「経営者の目線で考えろ」と言い出す経営者がいますが、それは「現場の細かいことを無視しろ」ということではないはずです。

 

「現場でしか気づかない小さなことが、どのように経営に影響を与えうるかをよく考えてみる」ことが重要なのだと、きちんと伝えていく必要があるのです。

 

何が重要かは、現在の基準ではなく、未来から逆算されなければなりません。

 

経営にとって本当に重要な情報とは、現場からトップに上がってくる過程で「小さい」「つまらない」「重要ではない」として捨て去られてしまうことの中に含まれているのです。

 

実は、多くの会社がいつのまにかおかしくなるのは、これまでの基準だけで情報にフィルターをかけて、将来への示唆を含んだ「細かい」「つまらない」ことに注意を払わない、あるいは払えないところにあるのです。

 

性格的に、「鷹揚で、度量が大きく、細かいことにこだわらない」という太っ腹な姿勢は好ましいと思いますが、ことさらに自分を大きく見せるために、豪放磊落さを意識して、「大きなことしか考えない」という社長は、必ず近い将来において企業を危機に陥れる可能性が高いという意味で危険な存在です。

 

むしろ、「細かいこと」の中に、将来を左右する布石が潜んでいるに違いないことを知って、常に目を光らせている「細かい」社長の方が、企業にとっては望ましい存在と言えます。

 

誰もが気づく明らかに「大きなこと」を声高に叫ぶだけではなく、「細かいこと」の中から人や組織の抱える本質的な問題に気づいて、小さなうちに対応できるかどうか・・・本当に優れた経営とは、ファインプレーをファインプレーと見せない守備の力と似ているところがありそうです。

 

こうした意味で、「細かいこと」を考えてみることは、経営というものの奥行きを考えることにつながるのではないかと思います。

 

これを機会に、「細かいこと」の重要さを認識して、「細かい社長」を目指してみてはいかがでしょうか。