サッカー日本代表は2014年ブラジルW杯の失敗から何を学んだのか

8月にリオ・オリンピックが終了し、スポーツの世界では2018年ロシアW杯サッカーに向けてのアジア最終予選に注目が集まっています。

 

2014年ブラジルW杯の最終予選では、ヨルダンに2-1で敗れる試合があったものの、全般的に好調を維持して、予選を1試合残した時点で、世界で最も早く本戦出場の切符を手に入れた日本代表チームでした。

 

ところが、今回の最終予選は前回とは様子が異なり、苦戦を強いられているという印象です。

 

昨日(10月11日)最終予選の第4戦目に当たる対オーストラリア戦が1-1の引き分け終わりましたが、過去W杯予選で6戦して2敗4分で1回も勝利したことがなかった歴史を塗りかえることは出来ませんでした。

 

オーストラリア戦を含めたここまでの4戦の結果は、以下のとおりです。

 

日本 VS UAE 1-2
タイ VS 日本 0-2
日本 VS イラク 2-1
豪州 VS 日本 1ー1 引き分け
  得失点差 +2 2勝1敗1分

 

2勝1敗1分という結果だけを見ると、負け越しているわけではないので、大騒ぎするほどのことはありませんが、無失点のゲームが1試合しかないことや2勝とも1点差の辛勝であること、また内容的には攻めまくっていたタイ戦で2点しか取れなかったことなどを見ると、楽勝だった試合は1つもなく、四苦八苦している様子がうかがえます。

 

前回大会の予選では、サッカー専門家から内容についても高い評価を受けていて、本戦では最低でも決勝リーグには進出するだろうと見込まれていました。

 

当然、代表チームの選手本人達も自信満々で、本田選手は「日本はW杯で優勝できる」とまで言い切り、多くのサッカーファンは期待に胸を膨らませて本番を迎えました。

 

その結果がどうだったか? ご存じのとおり、1分2敗と1勝も出来ずにグールプ最下位で予選敗退となりました。

 

予選を絶好調で突破した前回大会の結末がこうだったことを考えると、アジア各国のレベルが4年前より格段と上がっていることを差し引いても、サッカー日本代表チームがブラジルW杯での手痛い敗戦を糧に、大きな進歩や成長を果たしたと言えるでしょうか?

 

この4年間で何が一番変わったかというと、それは代表チームの監督です。アルベルト・ザッケローニ氏の後を受けて、ハビエル・アギーレ氏、そして現在のヴァヒド・ハリルボジッチ氏と2人の監督が就きました。

 

その一方で、選手の方は大きく様変わりしていません。ブラジルW杯の日本代表メンバーだった23人のうち、現在も代表チームに留まり、最終予選を戦っている選手が14人います。

 

当時ボランチとして司令塔の役割を果たしていた遠藤保仁選手は、年齢のことがありブラジルW杯後代表メンバーから外れましたが、それ以外の主力メンバーはすべて残っていることは、以下の直近のメンバー表を見ると明らかです。

 

赤字=2014年ブラジルW杯でも代表メンバー

ポジション 背番号 名前 所属
GK   1 川島永嗣 メッス
23 東口順昭 G大阪
12 西川周作 浦和
DF        5 長友佑都 インテルミラノ
20 槙野智章 浦和
6 森重真人 東京
3 太田宏介 フィテッセ
22 吉田麻也 サウサンプトン
2 丸山祐市 東京
19 酒井宏樹 マルセイユ
21 酒井高徳 ハンブルガーSV
MF      17 長谷部誠 フランクフルト
7 柏木陽介 浦和
10 香川真司 ドルトムント
13 清武弘嗣 セビリア
16 山口蛍 C大阪
15 大島僚太 川崎F
FW      9 岡崎慎司 レスター
4 本田圭佑 ACミラン
14 小林悠 川崎F
11 齋藤学 横浜
8 原口元気 ヘルタベルリン
18 浅野拓磨 シュツットガルト

 

1勝も出来ずに予選リーグ敗退という事実を見る限り、2014年ブラジルW杯で日本代表チームは「失敗」したと言わざるを得ません。

 

では、日本代表メンバーや日本サッカー協会は、この「失敗」から何を学びとったのでしょうか?

 

外から見ている範囲で分かることは、「監督は変える必要があるが、主力選手に問題はない」ということです。

 

だから、監督がザッケローニ氏からアギーレ氏、そしてハリルボジッチ氏と替わる度に、選手の陣形とかプレスの方針とか、細かい戦術面での変化は起きていますが、チーム編成においては、ブラジルW杯から主力選手は維持したまま本田選手を中心に置くという方針に微塵の変化はなく、その結果が4年前を上回るチーム力に結び付いているとは言えません。

 

また、本田圭佑選手は昔から「日本代表チームをさらにレベルアップするためには、個の力を高めることが重要だ」と口にしていますが、本田選手をはじめ欧州組の選手は軒並み所属チームでの出場機会を失っているし、Jリーグ組から目を見張るような新戦力が現れていない状況を見ると、4年前と比べて「個の力」が格段にアップしているとも言えません。

 

私自身はサッカーのプレー経験が乏しく、熱烈なサッカーファンでもなく、もちろん専門家でもありませんが、あえて問いかけます。

 

果たしてブラジルW杯の「失敗」から学ぶべきことは、「監督は変える必要があるが、主力選手に問題はない」ということ、そして「個の力を高める」ということで良かったのでしょうか。

 

サッカー日本代表を引き合いにして、企業経営においても重要な「失敗から学ぶこと」の本質を考えることが、今回のコラムのテーマです。

 

「失敗から学ぶ」ことを簡単に考えていないか

サッカーで、サイドから上がった絶妙なセンターリングをヘッドで合わせ損ねたとか、せっかくペナルティキックを得たのにゴールの枠外にボールを蹴ってしまった、といった一つ一つのプレーの失敗については、選手は二度と同じミスを犯さないように、練習に励むという対策をとりやすいものです。

 

一つの失敗から学んで改善とか成長に繋げることができるのは、そこに明確な「成功のイメージ」があるからです。サッカーで言えば、走り出しやジャンプのタイミング、あるいはキックやヘディング自体をそうした成功のイメージに近づけることこそが、失敗から学ぶことになります。

 

それでは、ゲームに負けた場合はどうでしょう。よく試合後のインタビューで選手がこう答えているのを耳にします。「負けてしまったことは残念だが、修正しなければならないポイントがいくつかはハッキリしたので、次の試合に向けてきちんと直していきたい」

 

ここで言っている修正ポイントとは、やっぱり特定の局面における選手の動きを指していると思います。例えば、ゴール前でのマンマークのやり方とか、中盤でボールを奪った後に相手DFの裏へ走り出すタイミングとかです。

 

でも、日本代表チームのようなレベルの高い監督や選手をもってしても、90分間全体のゲームの成功のイメージを明確に描くことは、非常に難しいはずです。なぜかというと、ゲームというのは相手がいるからです。

 

ですから、勝ちゲームのイメージが明確に描けずに、全力でボールを奪いにいく、一対一で相手選手を徹底的にマークする、シュートチャンスでは迷わず打つ・・・程度のイメージしかなければ、負けたチームが修正ポイントが分かったつもりになって一生懸命練習しても、また同じように負けてしまうのは当然のように思えます。

 

だから、サッカーの試合に負けてそこから何かを学ぶということは、ゲーム全体の明確な勝利のイメージがなかったことが分かった、あるいは一応あったけれど間違っていたことが分かった、ということがスタートになります。

 

つまり、敗戦から学ぶことが、勝利のイメージに近付くことだとすれば、学ぶべきことは「新たな勝利のイメージ」を見つけること抜きには成立しないはずです。

 

そして、そのためには負けた原因の分析を一生懸命しているだけでは、新たな勝利のイメージは分かるものではないということが、最も重要なことなのです。

 

それにも関わらず、失敗から学ぶという出発点が十分に理解されないままに、失敗したら「二度と起こらないように気を付けますと謝り、何らかの対応をする」ことが失敗から学ぶことだと、ゆるく考えている限り、たいした学びは得られません。

 

日本代表チームの選手は、よく「負けたものは仕方がない」「次に向けて切り替えていく」という表現をインタビューで使います。

 

9月1日、ブラジルW杯最終予選の初戦のUAE戦に1-2で負けた後のインタビューで、本田圭佑選手は以下のように語っていました。

 

 

最悪のシチュエーションですね。

 

こういう結果は非常に受け入れ難いですけど、終わってしまったことは仕方ない。

 

しっかり切り替えて、次またアウェーでタイとあるんで。

 

 

かつて日本代表チームの監督だったイビチャ・オシム氏は、この表現に対して苦言を呈しました。

 

 

選手やコーチたちがよく使うコトバで嫌いなものが2つあります。

 

「仕方がない」と「切り替え」です。

 

それで全部ごまかすことができてしまう。

 

「仕方がない」という言葉は、ドイツ語にはないと思います。

 

「どうにもできない」はあっても「仕方がない」はありません。

 

これは諦めるべきではないない何かを諦めてしまう、非常に嫌な語感だと思います。

 

 

かつてオシム氏が、日本のサッカー関係者に対してせっかく鋭い指摘をしてくれていたのに、本田選手をもってしても、「仕方ない」と「切り替え」という言葉を多用するマインドは全く変わっていません。

 

これでは、「失敗から学ぶ」ことをずいぶんと簡単に考えているのではないか、と思われてしまいます。

 

「失敗から学ぶ」ことの本質とは

失敗から直接学べることは、こうしたら失敗することだけであって、必ずしもこうしたら成功するということではありません。

 

失敗とは、いくつもある戦略や施策のうちの一つがダメだったということを示すに過ぎず、それでは残りの選択肢のうち、どれが正しいのかを教えてくれるわけではないからです。

 

仮に、戦略や施策がダメだったとしても、厳密な評価のためには、さらに気を付けるべきことが2つあります。

 

一つ目は、スポーツの場合もそうですが、企業においても、戦略や施策を「やり切った」うえで失敗したのかどうかの判断が曖昧なままに、失敗の原因分析をしていることが多いのです。

 

やり切れなかった(あるいはやり切らなかった)ことで、当初の思惑どおりの成果が得られていないならば、「やり切る」ために必要な要因を明らかにして改善可能であれば、セカンド・トライをする意味はあるでしょう。

 

しかし、そもそも現在のチームやメンバーにはやり切ることが無理なタスク(例えば、センターラインを超えたらドリブルで駆け上がって一人でシュートまで完結する)の場合、他のチームでは有効な戦略になり得ても、そのチームにおいては戦略が悪いことになります。

 

二つ目は、因果関係の分析をする場合、アプローチに2つの種類があることを意識する必要があります。それは、シングルループとダブルループです。

 

よく使われるサーモスタットの例で言えば、シングルループのレベルでは、設定した温度(例えば24度)を上手く維持するという目的のために、もし温度が設定値に対して大きく上下するようなら、原因を分析し修正をかけて温度維持性能を高めることをします。企業において、売上を伸ばすことが正しい答であれば、その戦略やスキルを磨くことです。

 

それに対して、そもそもサーモスタットを何度に設定すべきか、戦略の仮説や前提や視点が正しいかどうかがダブルループのレベルになります。企業においては、そもそも売上を伸ばすことが最善の解なのか、もう一度見直すことです。

 

個人のプレーのレベルでは、「あのとき、こう動いておけばよかった」「あの判断は間違いだった」と振り返っていろいろ思うところがあるでしょう。同じように、企業における戦略の失敗でも「顧客のニーズを見誤った」「部門間のコミュニケーションが不十分だった」など、いろいろ出てくるはずです。

 

ただし、個人のプレーとは異なり、組織の戦略や方針が正しかったか間違っていたかの評価は、いくつもの要因が絡んでいるため複雑で難しい作業です。

 

それでも、適切にもつれた糸を解きほぐして因果関係を解明し、当初の仮説(設定温度)からズレていた原因がわかれば、的確な対応をとることが可能です(シングルループの学び)。ところが、そもそも仮説自体が間違っていた場合、シングルループの学びだけでは解決できないことになります。

 

例えば、市場調査をして顧客ニーズを特定して、いざ商品開発をして売りだしてみたら、そのニーズが見当外れだったため全く売れなかった場合、失敗の原因が「顧客ニーズを外していた」ということや「その市場調査会社は信用がおけない」ことは分かりますが、「本当の顧客ニーズがどこにあるのか」ということや「信用がおける市場調査会社はどれか」ということまでは分かりません。

 

今後、同じ調査会社を使って顧客ニーズを見誤るという失敗を繰り返すことは避けられるでしょうが、それは新商品をヒットさせるという成功を意味しません。

 

結局、失敗の分析をしても、してはいけないことが分かるだけで、何をしたら成功に繋がるかまで明確になる保証はありません。

 

だからと言って、失敗の分析を全くする必要がないわけではありません。失敗の原因の中に、新たな「成功のイメージ」に繋がる発見をする可能性は大いにあるからです。

 

ただし、成功するはずの戦略を立てた本人の頭の中味は、残念ながらすぐには変わらないので、その失敗を分析しようにも、前提や見方が間違ったままであることが多いのです。

 

したがって、ダブルループのレベルで失敗を振り返ろうとしても、そもそも新たな「成功のイメージ」がないから失敗したのだから、その新しい「成功イメージ」は本人の辞書にはない可能性が高く、失敗した原因を分析するといっても、自分が分かっている範囲だけで解釈せざるを得ないことが多くなることを忘れてはなりません。

 

本田選手は、ヨーロッパでプレーをしながら、強豪クラブチームのプレーを目の当たりにして、戦術も素晴らしいが、何よりもその戦術を可能にする選手個々の力が高いことをヒシヒシと感じているはずです。

 

そこで、本田選手は、ヨーロッパや南米の強豪国に勝つためには、そうした国々が採用しているプレースタイルを日本も実現して、しかもレベルにおいて追いつけ追い越せと考えるているようですが、一つの考え方としては正しいでしょう。

 

だからこそ、日本代表チームがが負けるたびに、個の力が弱いと言い続けています。たしかに、個の力は強いわけではないので、間違ったことを言ってはいませんが、本当にそう、あるいはそれだけなのでしょうか。

 

場合によっては、個は弱いけれど、最終的に勝てる作戦はないのでしょうか。

 

実際のところ、そういう本田選手自身が、ACミランで思うように活躍出来ず、日本代表チーム全員の個の力を上げることで強いチームを作るという戦略自体が、妥当かどうかが問われています。

 

現在の主力選手の後を引き継いでいくであろう若い世代を見ても、 U-23の五輪代表は、リオ五輪でグループステージで敗退し、フル代表に2、3人しか送り込めないというレベルです。

 

さらにその下のU-20では、W杯に4大会連続、8年間も出られていません。つまり、現在の日本サッカーは、A代表チームに限らず、次の世代も育ってきていないという危機的状況にあります。

 

となると、シングルループのレベルでは、個の力を高めることは正しいかもしれませんが、ダブルループのレベルで考えなくてはならないことの筆頭は、日本におけるサッカー自体のあり方でしょう。

 

Jリーグが発足してから20年以上経過して、昔に比べるとサッカー人気がものすごく高くなったような気がしているけれど、実はサッカー人口はほとんど増えていないのが現実です。

 

また、日本サッカー協会の姿勢にも疑問があります。若手の育成方針であるとか、興行優先で格下の国としか親善試合を行わないとか、アディダスという大口スポンサーの意向で特定の選手の起用がされている疑惑があるとか・・・

 

こういった現状のままで「W杯でベスト4を目指す」などと啖呵を切ってみたところで、絵に描いた餅にしかならないでしょう。

 

さらに、テクニカルな面では、日本代表チームとしての「勝利のイメージ」について、その時々の監督の過去の成功体験で右往左往している現状を改めて、「誰か」がキチンと確立して、それを基準にして負けた試合を評価をして、失敗から学ぶことを積み重ねていくことが必要だと思います。

 

企業経営にも当てはまる「失敗から学ぶ」ことの本質

ここまで、サッカー日本代表チームを引き合いにして、「失敗から学ぶ」ことについて考えてきましたが、どうやら日本人はシングルループの学びを活かすことの方が得意な傾向があるようです。

 

実際、リオ五輪での日本の成績を見てると、金メダルを獲った種目は、体操、陸上、柔道、水泳、レスリング、ボクシング……と、個人種目ばかり。団体競技で近年、好成績を挙げたのは2008年北京大会のソフトボールと、2012年ロンドン大会の女子サッカーぐらいでしょう。サッカーをはじめとして団体競技のほうが競技人口は多いはずなのに。

 

それはともかくとして、ダブルループのレベルで失敗からの学びを活かすことは、組織が関係してくる企業経営や戦略にも同じように求められます。

 

自社に置きかえて考えてみて下さい。あなたの会社にとって、「失敗」とは何を意味していて、その「失敗」から何を学びとっているでしょうか?

 

多くの経営者は、失敗を好んで認めたくないものの、最後は失敗を受け入れざるを得ないことがあるはずです。

 

でも、失敗から学ぶことを軽視しているために、それが失敗の本質かどうかよりも、「わかりやすい」「つっこまれづらい」を無意識のうちに重視して、学んだことにしてしまう誘惑に打ち勝てていません。

 

また、ミクロなシングルループのレベルでしか失敗の因果関係を考えていないことも多く、改善には余念がありませんが、そもそも採用した戦略や方針が間違っているかもしれないというダブルループのレベルまで考えが及びません。

 

スポーツにしろ企業経営にしろ、本当に強くなるためには、手痛い敗戦を幾度も経て、そこから這い上がっていくしかありません。

 

そのときに必要なものは、タフな精神だけではありません。せっかく経験した失敗から何を学びとるかの違いが、単に負け続けて消え去る者と、負けを糧にして確固たる成功を手に入れられるかの差になって現れるのです。

 

そのために大切なのは、失敗を通じて常に「成功イメージ」をバージョンアップすることですが、新たな成功イメージは、失敗から学ぶための目指すべきゴールというだけではなく、同時に失敗から学ぶための基準=出発点であることに気付いているリーダーは、スポーツであれ企業であれ栄光の高みへと導いていくことができるはずです。