デフレ状況下での外食業界とアパレル業界の状況について
デフレ経済での勝ち組企業の特徴とは
バブル景気の波に乗れたかどうか表す言葉として、1900年代半ばくらいから、「勝ち組」とか「負け組」という言い方が一気に社会に広まりました。
当初は、個人に対するラベリングだった「勝ち組」「負け組」という表現は、バブル景気が崩壊後は、デフレ経済のもとで成功している企業かどうかを見極める表現に変化しています。
デフレ経済のもとでの勝ち組とされた企業とは、「どうせ消費マインドが冷え込み、実際に可処分所得も減っているのだから、皆さんにそこそこのモノを思い切り安く提供しますよ」という発想で、何のヒネりもない「安かろう、でも悪くはない」というビジネスに邁進して規模を拡大した企業を意味します。
そして、デフレを逆手にとって台頭した企業が続出したのを見て、その他の企業も「やっぱり安くしないと売れない」と信じたことで、市場全体が安値合戦となりました。
最後には「安かろう悪かろう」が紛れ込むことで、デフレはますます加速していったという流れです。
でも、一度はデフレの勝ち組と言われていた企業が、一本調子で業績を拡大出来ずに苦労をしている姿を良く目にするようになりました。
そうなると、デフレだから本当に安値で販売することが経営方針として妥当なのかが気になります。
外食業界 勝ち組企業の現在
さて、具体的にデフレの勝ち組企業というと、どんな企業名を思い浮かべるでしょうか。
外食業界では、2000年代前半はマクドナルド、ワタミ、牛丼3社(吉野屋・松屋・すき家)あたりが勝ち組とされていた時期がありましたが、その後勝ち組と言われた全ての企業が業績不振に陥りました。
直近の業績を見ると、マクドナルドがポケモンGO効果も手伝ってか2016年上半期は、売上高・客数ともに大きく伸び、営業利益が2年ぶりに黒字転換しました。
日本マクドナルドホールディングス株式会社 平成28年12月期第2四半期連結決算状況のお知らせ
ワタミは、2016年3月期の決算で3期連続で営業損失を出したものの、介護事業の売却益で当期純利益が3期ぶりに黒字化したという状況です。介護事業の売却により当面の資金は手に入れたものの、国内外外食事業の立て直しはまだ出来ていません。
牛丼業界は、最新の2016年7月の売上高と客数の実績を見ると、3社とも既存店ベースで前年同月比プラスとなっています。客単価だけは、吉野屋のみマイナスですが、松屋とすき屋は売上高・客数・客単価ともにプラスとなっています。
全社プラス継続中・・・牛丼御三家売上:2016年7月分:ガベージニュース
マクドナルドは、ポケモンGO効果がない第1四半期から業績が回復傾向を示していましたが、もうこれ以上は落ち込みようがないところまで業績が低迷していたので、経営手腕のおかげかどうかは分かりません。
相変わらずランチを早く安く済ませたい人が多い状況の中で、身近で便利なマクドナルドを選択肢から排除し続けることに顧客側が疲れてしまい、ある程度時間が経過したところで拒否から許容に態度が変化したという側面があるのではないでしょうか。
ワタミが現在進めているのは、看板の掛け替えです。かつては絶対的ブランドだったがイメージが毀損した「和民」「わたみ」を捨て、新たに複数のブランドを作り出して店舗リニューアルを続けています。
また、ワタミはブラック企業という烙印を押され悪化したイメージを払拭するために、2016年5月16日の創業記念日を機に、グループメッセージやロゴ・カラーを見直したようです。
【2018.10.12 追記】
2018年3月期の決算で、ワタミは5年ぶりに黒字転換を果たしています。
マクドナルドが単一のブランドを維持しながら、メニューや店舗オペレーションのみで改善・改良を加えてきたのと比べると、ワタミの取り組みは正反対とも言えます。
最後に牛丼業界ですが、3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持しているのが現況です。
2013年4月、まだ牛丼1杯280円で各社がしのぎを削っていていたとき、松屋フーズの緑川社長は、こんなことを語っていました。
「・・・280円だと原価率は約40%。外食業での平均原価率が30%台前半だと言われているのに、こんな高コスト商品はあり得ない」
そこで、原価率を30%台前半にするために350円まで引き上げてはどうかと記者に問われて、
「(顧客は)他社に流れるだろう。牛丼の価格を上げる勇気はない」
しかし、その後勇気を出して値上げに踏み切り、現在は2年前の7月と比べて、客単価の伸びは3社中最も低い代わりに、客数の減少も3社中最も低く抑えた結果、売上高の伸び率は3社中トップにあるのが松屋の現状です。
前々期同月比比較
(出典:ガベージニュース)
松屋に留まらず、安さだけの勝負から、各社がメニューの幅を拡げてそれぞれ特徴を出しながら、客数が減ることを覚悟で、客単価を引き上げ利益を確保する業界に変化しているのは間違いないようです。
アパレル業界 勝ち組企業の現在
外食業界と同様に、アパレル業界において勝ち組だと言われてきたのは、長らくユニクロ(ファーストリテイリング)としまむらの2社です。
しかし、ユニクロの2017年2月期上半期(2015年9月~2016年2月)連結決算を見ると、苦戦している様子が分かります。
売上高は6.5%増えていますが、内訳を見ると、増加分は海外店舗分で国内店舗の売上高は減少しています。
上半期だけで海外店舗を新規に100店舗増やしたことが、全体の売上高に繋がっただけです。
つぎに、本業の収益力を見る営業利益率(営業利益÷売上高)を見ると、前年度上半期の15.8%から9.8%へと、大きく下落しています。
営業利益率の低下については、国内だけに留まらず海外でも生じています。
ユニクロ側は、この原因を「暖冬の影響」と説明していますが、実際には客離れにより売上が不振だった冬物を値下げセールで売り切ったことで、利幅の減少を招いたのではないでしょうか。
ユニクロは、2014年に5%、2015年に10%の値上げを実施していることはご存じの通りですが、これにより客離れが進んだと言われています。
しかし、牛丼御三家は、値上げにより客数が減っても客単価を引き上げることで、売上と利益を伸ばすという方法がとりあえず成功しているのに、ユニクロは同じ手法をとったにも関わらず、10%を上回る大幅な客数減少を招き、客単価は上がったけれど売上と利益は維持出来なくなるという反対の結果になっています。
ユニクロの場合、セカンドブランドとしてGUが存在します。ユニクロとは異なりGUは業績が好調であることを考えると、ユニクロ・ユーザーの中で主力を占める廉価品志向が高い顧客の一部が、値上げによってGUに流れた可能性が高いように思えます。
では、一方のしまむらは過去3年間で一度不振に陥り、どのようにV字回復したのでしょうか。
しまむらは、ユニクロと違って同じアイテムを大量に生産する方法ではなく、少量多品種のトレンド商品を中心に、売り切り御免で追加生産しないスタイルで成長してきました。
しかし、ベーシック商品を中心にアイテム数が増えすぎた結果、売り切れずに不良在庫が発生し、その処分のために値下げセールを行うことで粗利率が下がり、全体の業績も押し下げる悪循環に陥りました。
それを断ち切った要因は、単品で大量に売れる高価格のコア商品の開発だったようです。
具体的には、2015年の秋冬シーズンに売り出してヒットした「裏地あったかパンツ」には3900円のプライスタグが付けられていました。
しまむらの通常パンツの価格が1900円であるのと比べると、倍以上の価格です。さらに、この商品は2014年にも2900円で販売していたにも関わらず、2015年には1000円の値上げを野中社長が断行したとのこと。
2014年の発売当初、現場では「2300円でも売れない」との声が大きかったけれど、2014年に60万本、値上げした2015年には110万本を売り切る大型ヒット商品になりました。
ユニクロは値上げをして客離れを招き、一方でしまむらは、しまむら「らしさ」を捨ててユニクロ的に大量生産品を導入して高価格で販売したら上手く行った。
この事実だけを見ると、同じことをしているのに正反対の結果になっています。
アパレル業界の国内大手2社を見ても、商品開発と価格設定に一筋縄ではいかない難しさがあることが分かります。
ましてや、大手ではない中小規模のアパレル・メーカーや販売店は、外食業界以上に、消費構造の変化を感じているはずです。
安売りとブランドの乱立で悪循環に陥ったアパレル業界
アパレル業界は、以下の理由により外食業界以上に消費財業界を代表する特徴を持っています。
- 消費者の嗜好性が強い
- 製造-卸売り-小売りというサプライチェーンが1本道ではなく、複数のチャネルが複雑に絡み合っている
- 売上・収益の低迷が続き、打開のためには構造的な変革が必要である
とは言うものの、アパレル業界にも良い時代はありました。
バブル景気が華やかだった1990年代までは、ショップ店員はハウスマヌカンと呼ばれ、何を作っても売れる時代でした。
その後、バブルの崩壊とともに売上が一気に落ち込んだため、小売側は安売りしても利幅を確保出来るように、メーカーに対して仕切り値の引き下げを求めました。
この要求に対して、メーカー側は中国への生産拠点のシフトという手段を中心に、製造原価の引き下げをすることで対応しました。
いつの時代でも、需要の減少により過当競争が発生した場合、先ずはコスト削減を行うことは当然です。ただし、嗜好性の高いアパレル業界の場合、顧客の嗜好性の変化を観察したり、自社の個性を反映したブランド構築という努力を同時に行うべきでした。
ところが、特定の顧客層に絞り込むことで売れなくなるリスクを怖れ、収益性は下がってもある程度は売れる安牌なブランドづくりに走り、「売れ筋の後追い」と「万人受け」をコンセプトとする商品開発に向かってしまった。
結果的に、雨後の竹の子のようにブランドの数だけは増えたものの、消費者から見ると、何の違いがあるのかが分からず、ブランド・ロイヤリティを生み出すことが出来ませんでした。
ブランド規模の小ささがブランド戦略を不在にしている
2012年の少し古いデータですが、有名なLVMHグループ(仏)は、12のブランドを保有して、アパレル関連で1兆2,904億円の売上高を上げているので、平均すると1ブランド当た1,075億円の売上高になります。
同様に、KERINGグループ(仏)は、18ブランドで1兆2,657億円を売り上げているので、1ブランド当たり703億円の売上高になります。
一方、日本では、売上高が1,855億円で38ブランド、売上高3,365億円で91ブランドを擁する企業があります。それぞれの企業の1ブランド当たりの売上高は、37~38億円にしかなっていません。
ブランドが多すぎれば、ブランド・マネジメントが不在となり、しかも少ない売上高しか確保出来ないので、ブランド戦略立案が出来ないという悪循環に陥っています。
また、欧米の有名ブランドというとデザイナーが目立っていて、クリエーターの感性でデザインした商品ありきのビジネスをしているように思えますが、実のところは、商品企画・開発の現場にはユーザーのニーズも把握したうえで、「誰に・何を・どのように」販売するかを戦略的に判断する科学的なアプローチが採用されています。
反対に、日本のアパレル業界の方が、感性が大切な産業なのだから科学的アプローチが不要だと思っている傾向が強いのです。お洒落とされているモデルとタレントが、すぐにブランドを起ち上げたりプロデュースすることが多いのが、その最もたる証拠です。
おまけに、コスト削減によって利潤を確保しようという方針が、売場に対しても一貫して採られたために、人材に投資をせずパート・アルバイトが増加する一方で、商品知識やコミュニケーション力を持つプロフェッショナルな人材が減少しました。
常態化するセールが招いた低いプロパー消化率
このように、消費者の嗜好に十分に焦点を当てない商品開発と小売現場における販売力の低下により、売れ残りを増やし、在庫を処分するためにセールが日常化・長期化する事態を招いています。
実際のところ、アパレルの現場で重要な指標の一つであるプロパー消化率(定価で販売できた割合)を見ると、経済産業省がヒアリングした国内のアパレル数社では、目標値を60%に置きながら、現実は60%には届かず50%を切ることが多いとのこと。
一方で、伊藤忠ファッションシステムが仏企業に対する調査を行ったところ、プロパー消化率の平均値67.1%という結果が出ています。
こうした事実は、一重に「安くしなければ売れない商品」を作っているために、実際に「安くして売っている」アパレル業界の実態を表しているのではないでしょうか。
その結果、世界のファッション業界では、機能素材のファッション化、ファッションの機能素材化が主流になっていますが、日本の繊維素材を作っているメーカーは優秀で、開発した高機能素材に世界的注目が集まっているにも関わらず、低価格指向を続けた日本のアパレルメーカーが、それらを使わない(と言うか、使えない)という何とも皮肉な事態になっています。