デフレ経済での勝ち組企業

 バブル景気で一攫千金を首尾良く成し遂げたどうかを意味する表現として、1900年代半ばくらいから「勝ち組」とか「負け組」という言い方が一気に社会に蔓延しました。

 

このときは、どちらかというと個人に対するラベリングだったのですが、その後バブル景気が崩壊してからは、デフレ経済のもとで成功している企業を見分けるときの表現として「勝ち組」「負け組」という言葉は生き続けました。

 

個人的には「勝ち組」「負け組」という表現は好きではありません。たった一つの、しかも金銭という尺度で、ゼロかイチかデジタルに評価をする手法だからです

 

ですから、ビジネスの会話の中で、「勝ち組」とか「負け組」という言葉を口にする人がいたら、その人の知性を疑うようにしています。

 

話が最初から横道にそれたので、元に戻します。

 

デフレ経済のもとでの勝ち組とされた企業とは、「どうせ消費マインドが冷え込み、実際に可処分所得も減っているのだから、皆さんにそこそこのモノを思い切り安く提供しますよ」という発想で、何のヒネりもない「安かろう、でも悪くはない」というビジネスに邁進して規模を拡大した企業を意味します。

 

そして、デフレを逆手にとって上手いことやっている企業が続出したものだから、その他の企業も「やっぱり安くしないと売れないや」と思って安値合戦に参加して、終いには「安かろう悪かろう」が紛れ込んできて、デフレはますます加速していったという流れです。

 

でも、もうお気付きの方も多いとは思いますが、その昔デフレの勝ち組と言われていた企業が、一本調子で業績を拡大出来ずに苦労をしている姿を良く目にするようになりました。そうなると、デフレだから本当に安値で販売することが経営方針として妥当なのかが気になります。

 

また、政府はデフレは脱却したと言っていますが、それは単に原材料になる資源の値上がりから製造原価が増加し、”やむを得ない”値上げが実施されたために物価が多少上昇しただけで、そこかしこで「今までは不当に安売りしていたので値戻しします」というような動きは見られません。

 

そこで今回は、一体いつどのように値上げをしたいいものなのでしょうか、と言う素朴な疑問をテーマにしたいと思います。

 

外食業界 勝ち組企業の現在

さて、具体的にデフレの勝ち組企業というと、どんな企業名を思い浮かべるでしょうか。

 

外食業界では、2000年代前半はマクドナルド、ワタミ、牛丼3社(吉野屋・松屋・すき家)あたりが勝ち組とされていた時期がありましたが、その後勝ち組と言われた全ての企業が業績不振に陥りました。

 

現在の状況はと言うと、マクドナルドがポケモンGO効果も手伝ってか2016年上半期は、売上高・客数ともに大きく伸び、営業利益が2年ぶりに黒字転換しました。

 

日本マクドナルドホールディングス株式会社 平成28年12月期第2四半期連結決算状況のお知らせ

 

ワタミは、2016年3月期の決算で、3期連続で営業損失を出したものの、介護事業の売却益で当期純利益が3期ぶりに黒字化したという状況です。介護事業の売却により当面の資金は手に入れたものの、国内外外食事業の立て直しはまだ出来ていません。

 

ワタミIRライブラリー 平成28年度3月期 決算短信

 

牛丼業界は、最新の2016年7月の売上高と客数の実績を見ると、3社とも既存店ベースで前年同月比プラスとなっています。客単価だけは、吉野屋のみマイナスですが、松屋とすき屋は売上高・客数・客単価ともにプラスとなっています。

 

全社プラス継続中・・・牛丼御三家売上:2016年7月分:ガベージニュース

 

マクドナルドは、ポケモンGO効果がない第1四半期から業績が回復傾向を示していましたが、もうこれ以上は落ち込みようがないところまで業容が減速していたことを考えると、打ち手に妙があったかどうかの判断は難しいというのが正直な感想です。

 

相変わらずランチを早く安く済ませたい人が多い状況の中で、身近で便利なマクドナルドを選択肢から排除し続けることに顧客側が疲れてしまい、ある程度時間が経過したところで拒否から許容に態度が変化したという側面があるのではないでしょうか。

 

ワタミは何をしているかと言うと、かつては「和民」「わたみ」という絶対的なブランドで店舗展開していたけれど、ブランドが毀損してしまったので、和民ブランドを捨て、代わりに(ワタミを前面に出さない)複数のブランドを新たに作り出して店舗リニューアルをしていこうという方針を展開しています。

 

また、ワタミはブラック企業という烙印を押され悪化したイメージを払拭するために、2016年5月16日の創業記念日を機に、グループメッセージやロゴ・カラーを見直したようです。

 

マクドナルドという単一のブランドを維持しながら(維持するしかないが・・・)、メニューや店舗オペレーションのみで改善・改良を加えてきたのと比べると、ワタミの取り組みは正反対とも言えます。

 

一度、すべてを水に流して、業態もブランドも新たに作り直そうとしているからです。しかし、限られた資金とそれほど多くない時間的猶予という条件の中で、こうしたご破算方法が成功する可能性は低いでしょう。

 

理由は、このコラムで以前書いた記事(第49話:ご破算に願いましては・・・好きな日本人)をご覧ください。

 

最後に牛丼業界ですが、3社が客単価の引上げにより客数の減退を補い(あるいは客数減退を覚悟しても客単価の引き上げを模索し)、売上を維持しているのが現況です。

 

2013年4月、まだ牛丼1杯280円で各社がしのぎを削っていていたとき、松屋フーズの緑川社長は、こんなことを語っていました。

 

「・・・280円だと原価率は約40%。外食業での平均原価率が30%台前半だと言われているのに、こんな高コスト商品はあり得ない」

 

そこで、原価率を30%台前半にするために350円まで引き上げてはどうかと記者に問われて、

 

「(顧客は)他社に流れるだろう。牛丼の価格を上げる勇気はない」

 

しかし、その後勇気を出して値上げに踏み切り、現在は2年前の7月と比べて、客単価の伸びは3社中最も低い代わりに、客数の減少も3社中最も低く抑えた結果、売上高の伸び率は3社中トップにあるのが松屋の現状です。

 

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前々期同月比比較
(出典:ガベージニュース)

 

松屋に留まらず、安さだけの勝負から、各社がメニューの幅を拡げてそれぞれ特徴を出しながら、客数が減ることを覚悟で、客単価を引き上げ利益を確保する業界に変化して来ているのは間違いないようです。

 

アパレル業界 勝ち組企業の現在

外食業界と同様に、アパレル業界において勝ち組だと言われてきたのは、長らくユニクロ(ファーストリテイリング)としまむらの2社です。

 

しかし、ユニクロの2017年2月期上半期(2015年9月~2016年2月)連結決算を見ると、苦戦している様子が分かります。

 

ファーストリテイリング 財務・業績

 

売上高は6.5%増えているのですが、内訳を見ると、増加分は海外店舗分で国内店舗の売上高は減少しています。

 

上半期だけで海外店舗を新規に100店舗増やしたことが、全体の売上高に繋がっただけです。

 

つぎに、本業の収益力を見る営業利益率(営業利益÷売上高)を見ると、前年度上半期の15.8%から9.8%へと、大きく下落しています。

 

営業利益率の低下については、国内だけに留まらず海外でも生じています。

 

ユニクロ側は、この原因を「暖冬の影響」と説明していますが、実際には客離れにより売上が不振だった冬物を値下げセールで売り切ったことで、利幅の減少を招いたのではないでしょうか。

 

ユニクロは、2014年に5%、2015年に10%の値上げを実施していることはご存じの通りですが、これにより客離れが進んだと言われています。

 

しかし、牛丼御三家は、値上げにより客数が減っても客単価を引き上げることで、売上と利益を伸ばすという方法がとりあえず成功しているのに、ユニクロは同じ手法をとったにも関わらず、10%を上回る大幅な客数減少を招き、客単価は上がったけれど売上と利益は維持出来なくなるという反対の結果になっています。

 

ユニクロの場合、セカンドブランドとしてGUが存在します。ユニクロとは異なりGUは業績が好調であることを考えると、ユニクロ・ユーザーの中で主力を占める廉価品志向が高い顧客の一部が、値上げによってGUに流れた可能性が高いように思えます。

 

では、一方のしまむらは過去3年間で一度不振に陥り、どのようにV字回復したのでしょうか。

 

しまむらは、ユニクロと違って同じアイテムを大量に生産する方法ではなく、少量多品種のトレンド商品を中心に、売り切り御免で追加生産しないスタイルで成長してきました。

 

しかし、ベーシック商品を中心にアイテム数が増えすぎた結果、売り切れずに不良在庫が発生し、その処分のために値下げセールを行うことで粗利率が下がり、全体の業績も押し下げる悪循環に陥りました。

 

それを断ち切った要因は、単品で大量に売れる高価格のコア商品の開発だったようです。

 

具体的には、2015年の秋冬シーズンに売り出してヒットした「裏地あったかパンツ」には3900円のプライスタグが付けられていました。

 

しまむらの通常パンツの価格が1900円であるのと比べると、倍以上の価格です。さらに、この商品は2014年にも2900円で販売していたにも関わらず、2015年には1000円の値上げを野中社長が断行したとのこと。

 

2014年の発売当初、現場では「2300円でも売れない」との声が大きかったけれど、2014年に60万本、値上げした2015年には110万本を売り切る大型ヒット商品になりました。

 

ユニクロは値上げをして客離れを招き、一方でしまむらは、しまむら「らしさ」を捨ててユニクロ的に大量生産品を導入して高価格で販売したら上手く行った。

 

この事実だけを見ると、同じことをしているのに正反対の結果になっています。

 

アパレル業界の国内大手2社を見ても、商品開発と価格設定に一筋縄ではいかない難しさがあることが分かります。

 

ましてや、大手ではない中小規模のアパレル・メーカーや販売店は、外食業界以上に、消費構造の変化を感じているはずです。

 

日本のアパレル業界の闇

アパレル業界は、以下の理由により外食業界以上に消費財業界を代表する特徴を持っています。

 

  1. 消費者の嗜好性が強い
  2. 製造-卸売り-小売りというサプライチェーンが1本道ではなく、複数のチャネルが複雑に絡み合っている
  3. 売上・収益の低迷が続き、打開のためには構造的な変革が必要である

 

とは言うものの、アパレル業界にも良い時代はありました。

 

バブル景気が華やかだった1990年代までは、ショップ店員はハウスマヌカンと呼ばれ、何を作っても売れる時代でしたが、バブルの崩壊とともに売上が一気に落ち込んだため、小売側は安売りしても利幅を確保出来るように、メーカーに対して仕切り値の引き下げを求めました。

 

この要求に対して、メーカー側は中国への生産拠点のシフトという手段を中心に、製造原価の引き下げをすることで対応しました。

 

いつの時代であっても、需要の減退により過当競争が発生した場合、コスト削減努力が行われること自体は是非はなかったとしても、嗜好性の高い商品である以上、顧客の嗜好性の変化を観察したり、自社の個性を反映したブランド構築という努力を同時に行うべきでした。

 

ところが、特定の顧客層に絞り込むことで売れなくなるリスクを怖れ、収益性は下がってもある程度は売れる安牌なブランドづくりに走り、「売れ筋の後追い」と「万人受け」をコンセプトとする商品開発に向かってしまった。

 

結果的に、雨後の竹の子のようにブランドの数だけは増えたものの、消費者から見ると、何の違いがあるのかが分からず、ブランド・ロイヤリティを生み出すことが出来ませんでした。

 

2012年の少し古いデータですが、有名なLVMHグループ(仏)は、12のブランドを保有して、アパレル関連で1兆2,904億円の売上高を上げているので、平均すると1ブランド当た1,075億円の売上高になります。

 

同様に、KERINGグループ(仏)は、18ブランドで1兆2,657億円を売り上げているので、1ブランド当たり703億円の売上高になります。

 

一方、日本では、売上高が1,855億円で38ブランド、売上高3,365億円で91ブランドを擁する企業があります。それぞれの企業の1ブランド当たりの売上高は、37~38億円にしかなっていません。

 

ブランドが多すぎれば、ブランド・マネジメントが不在となり、しかも少ない売上高しか確保出来ないので、どっちみち大したブランド戦略も実行不能という悪循環に陥っています。

 

また、欧米の有名ブランドというとデザイナーが目立っていて、クリエーターの感性でデザインした商品ありきのビジネスをしているように思えますが、実のところは、商品企画・開発の現場にはユーザーのニーズも把握したうえで、「誰に・何を・どのように」販売するかを戦略的に判断する科学的なアプローチが採用されています。

 

反対に、日本のアパレル業界の方が、感性が大切な産業なのだから科学的アプローチが不要だと思っている傾向が強いのです。お洒落とされているモデルとタレントが、すぐにブランドを起ち上げたりプロデュースすることが多いのが、その最もたる証拠です。

 

おまけに、コスト削減によって利潤を確保しようという方針が、売場に対しても一貫して採られたために、人材に投資をせずパート・アルバイトが増加する一方で、商品知識やコミュニケーション力を持つプロフェッショナルな人材が減少しました。

 

このように、消費者の嗜好に十分に焦点を当てない商品開発と小売現場における販売力の低下により、売れ残りを増やし、在庫を処分するためにセールが日常化・長期化する事態を招いています。

 

実際のところ、アパレルの現場で重要な指標の一つであるプロパー消化率(定価で販売できた割合)を見ると、経済産業省がヒアリングした国内のアパレル数社では、目標値を60%に置きながら、現実は60%には届かず50%を切ることが多いとのこと。

 

一方で、伊藤忠ファッションシステムが仏企業に対する調査を行ったところ、プロパー消化率の平均値67.1%という結果が出ています。

 

こうした事実は、一重に「安くしなければ売れない商品」を作っているために、実際に「安くして売っている」アパレル業界の実態を表しているのではないでしょうか。

 

その結果、世界のファッション業界では、機能素材のファッション化、ファッションの機能素材化が主流になっていますが、日本の繊維素材を作っているメーカーは優秀で、開発した高機能素材に世界的注目が集まっているにも関わらず、低価格指向を続けた日本のアパレルメーカーが、それらを使わない(と言うか、使えない)という何とも皮肉な事態になっています。

 

だだし、このような日本のアパレル業界が抱えている問題点は、アパレル業界だけに留まらず消費財産業全体に共通する課題です。

 

  • 思い切った特徴のある商品を投入するリスクをとるよりも、大当たりも大外れもしない無難な商品開発。
  • 顧客第一と口では言いながら、真の消費者理解をすることなく進められる商品開発。(小売サイドの声を反映させるのではなく、あくまでもメーカーサイドの商品開発/商品開発チームの男女・年齢構成が顧客層とかけ離れている)
  • 細かな機能的差異と漸進的なコスト削減効果を反映した商品を次々に投入するが、新たな価値は創造されず、消費者から見ると無用に多い商品数と氾濫するブランド。
  • 製造と販売が両方ともシェア志向で、「値上げ」を拒否する強い傾向。

 

経営者は「値上げ」をする勇気を持て

ここまで、外食業界とアパレル業界に主に焦点を当てて、デフレ状況下における日本の消費財産業に属する企業の現状を垣間見てきました。

 

デフレというのは、簡単に言うと物価が上がらないどころか下がる状況です。

 

では、「デフレから脱出するためにはどうすれば良いか?」と問われると、「政府の経済政策に期待する」とか「新興国によって起こされている労働力単価引き下げの圧力が一段落すれば・・・」などと他人任せなマクロ的視点の話しかしない経営者の方がいます。

 

でも、自社でも出来るもっと簡単な方法があるのではないでしょうか。それは、自社商品の「値上げ」です。

 

しまむらのように、昨年と同じ商品を次の年に値上げして売るという方法もありますが、もちろん闇雲に値上げをすればいいということではありません。それに見合う価値を付加するのは当然です。

 

ところが、やっぱり話はそう簡単ではありません。

 

なぜなら、日本の経営者の多くは、自分たちが提供している商品やサービスに、ライバル社と比べて差別化された価値があるとは思っていても、自信を持って主張しないからです。

 

日本人的美徳である謙虚を身に付けていると言えば聞こえば良いですが、実は自信たっぷりに主張することに慣れていないだけです。

 

反対に、人知れず無駄を省いてコストを削減することにかけては、特に製造業において、日本は世界一だと言って間違いがありません。

 

コストを削減する作業は、下請けや社員が一丸となって無駄を省く、内向きの活動です。

 

ところが、価格については、この製品やサービスの価格は価値に見合っていると、消費者にメッセージングする活動が不得意な日本企業が多い。

 

いかにして相手の心に入り込んで、その意思決定に影響を与えることが出来るか、つまり身内ではない他人とのコミュニケーションが不得意だという日本人の弱みが出ているのです。

 

だから、日本の経営者は価格決定において、デフレを言い訳にしているところがあります。

 

デフレ、デフレと騒いでいますが、日本のデフレは1998年から15年間で見ると、消費者物価指数が年平均0.3%の割合で下がり続け、2013年までの約4%下落しています。15年間で4%「しか」物価は下がっていないのです。

 

本当のデフレとは、1929年から始まったアメリカの大恐慌時代のように、たった4年間で、年率で最大10%も下落するような状況を指すのでしょう。

 

こうした、経営者がつい口にしたがる「値段が厳しくてね」という言葉が、単なる主観的な言い訳でしかないことは、ある調査によって証明されています。

 

ドイツのサイモン・クーチャー&パートナーズというコンサルティング会社が、2012年に日本を含む23ヶ国24業種を大賞として、価格についてのオンライン調査をした結果があります。

 

その結果によると、日本の企業は、世界のどの企業よりも、市場での価格競争が厳しいと強く感じているようです。

 

<日本企業の回答結果>

自社が属している業界で価格競争が起きている   YES 90%以上
  自社も価格競争に参加している  YES 75%以上
    その価格競争は他社が仕掛けた YES 94%
    その価格競争は自社から仕掛けた YES 2%
過去1年間で値上げを実行した   YES 32%
過去1年間で値上げを一度も検討しなかった   YES 62%

 

2012年と言えば、今よりもデフレマインドが強かった時期だから、新たに調査をすれば、多少数字は改善されるとは思いますが、実に90%以上の企業が業界に価格競争があり、75%以上が自社もその競争に参加していると答えているのは際立っています。

 

ちなみに、欧米企業の回答は、「そもそも価格競争などない」としている企業が30%以上あり、日本では75%以上だった「自社も価格競争に参加している」と答えた割合は、50%以下です。

 

そして、日本企業は「過去1年間で値上げを実行した」が32%ですが、これは23ヶ国中最低の数値です。おまけに「過去1年間で値上げを1度も検討しなかった」の62%は23ヶ国中最高の数値です。

 

世界一価格競争が厳しい市場だと思っていながら、ほぼ100%自分から仕掛けたのではなく、競合他社が仕掛けてきたと思っているところも見逃せません。

 

したがって「値下げ」は頻繁にするけれど、それは戦略的打ち手ではなく、事故に巻き込まれたという被害者意識で行っている受身の追随策でしかないところが、最も残念なところです。

 

私は剣道をしていましたが、武道の世界では、相手の変化に意識を傾注することを「居着き」と言います。これは必敗の構造だと教えられました。「相手がこう来たら、こう反応しよう」と反応速度と対応の洗練を競ううちに、自分が常に「後手に回っている」ことを忘れてしまうからです。

 

たしかに、戦略とは名ばかりの受身の追随策しか打てない経営者が、不景気でしかもデフレの環境下で、価格の引き上げを行うという意思決定を合理的理由だけで行うことは難しいでしょう。

 

なぜなら、人間は意思決定において、それぞれの選択肢の持つ利益よりもリスクの方により過敏になる傾向があるからです。

 

仮にハイリターンであったとしても、同時にハイリスクである場合がほとんどだから、最後は値上げという決断をするときに、そのリスクを引き受ける覚悟とか勇気が経営者に必要になります。ローリスク&ハイリータンなことなら簡単に決められますが、実際にはそんな選択肢はあり得ません。

 

言い替えれば、その勇気がない経営者には、値上という決断が出来ずに、いつまでもコスト削減と価格競争に明け暮れるしかないことになります。

 

以前のコラム(第30話:その利益はどこから来ているのか)で利益の構造について書きましたが、[売上高]-([原価]+[経費])=[利益]と考えてビジネスをしていれば、他社との価格競争に巻き込まれ利益を削って価格を下げることになります。

 

だが、[利益] = [効率利益] + [中核的利益=価値]と考えてビジネスをすれば、価格競争に巻き込まれることは少なくなるはずです。

 

企業は顧客に対して色々なメッセージを発しますが、価格もその一つです。

 

もし価格に、価値が含まれていなければ、企業が顧客へ送るメッセージは、「価格が安い」という価格訴求だけの内容になりますが、何らかの価値が含まれていると考えるなら、自ずとそれを強調するメッセージを発信することができるはずです。

 

その意味で、「安くしなければ売れない」という発言は、企業経営者には許されません。

 

より正確に言うと、「価値がない、あるいは価値が低いので、安くしなければ売れない」と言わなければなりません。

 

もし、そうではなくて「消費者が認知する価値が低いので、安くしなければ売れない」、でも自社商品に価値があると信じているなら、やるべきことは言い訳ではなく、消費者がそのように認知してくれるようにコミュニケーションについての改善や改良をすることでしょう。

 

ただし、失われた20年の間に、価格を下げ続けているだけで価格を上げる経験をした経営者は数少ないのが、先ほどの調査結果を見ても明らかです。

 

だから、価格改定のタイミングとか上げ幅とか、価格を上げるために必要な実務的なノウハウを持っている経営陣が社内にいない可能性が高いのです。

 

そして、値上げすることが売上高にどれだけの影響を及ぼすのか、そのリスクをとる経験をした経営者も同時に少ないことになります。

 

ファーストリテイリングの実例を見て、「やっぱり値上げは怖いな」という実感を新たにした経営者も多いのではないかと思います。

 

でも、ポストデフレ時代の経営者が戦略的に考えるべきことの一つは「値上げ」についてです。

 

そして、値上げをする経営者に必要な資質とは、知性でも経験でもなく浪花節ですが「勇気」であることを断言します。

 

さて、これを機会に自社の商品やサービスの価値とは何か、それが消費者に伝わっているのかを再検証してみてください。

 

そのうえで、価値あるモノが価格競争に晒されているならば、値上げというアンタッチャブルな領域へ、勇気をもって一歩足を踏み出してみることをお勧めします。